358.異世界・関ヶ原12 ~side S~
「うん」
雪が目指している、ゲームには無い『新ルート』。
可能性は低いかも知れない。
けれど美成たちの上方工作が上手くいけば、フラグが立つ可能性はある。
そしてその可能性を高める為には、現時点で折れていないフラグを、片っ端から叩き折っておく必要がある。
――たとえそれが、兼継の恋路を邪魔することになってもな!!
今のところ、この世界は『兼継ルート』に進んでいる可能性が高い。
だがゲームでは、関ケ原前に『共通ルートで発生するすべての『恋愛イベント』を発生させなければならない』という条件がある。
それならまだ間に合う。
『関ケ原の戦い』が起きる前の、今ならまだ。
俺は心を鬼にしてイベントを邪魔し、『兼継ルート』を頓挫させる。
俺が、雪の幸福を願う気持ちは本物だ。
でもやっぱり心配なんだよ。
この世界が『兼継ルート』に進んだ場合。関ケ原が終わったら、俺はこの世界に来られなくなる。
それはつまり、雪が『現世に帰る手段を失う』ってことだ。
でも俺は、雪の気持ちの整理がつくまで。
そして望むエンディングを迎えるまで、雪に付き合いたい。
見届けたい。
俺は、『俺が後悔しない』選択をすると決めたんだ。
俺は親切ごかして、兼継に微笑みかけた。
「俺、お前のこともオトモダチだと思っているからさ。『別の未来』に進む方法を教えるよ」
「……っ 感謝する!」
ぱわわっと、兼継の表情が明るくなる。
珍しく俺に向けられたイケメンスマイルに強張った笑顔を返し、俺は頭の中で、これからすべき事をざっと整理した。
雪に起きるイベントは、本来なら『桜姫』で起きるはずだったイベントに準拠している。
それならたぶん、桜姫の『恋愛イベント』に似たイベントを起こさなければ、『兼継ルート』のフラグが折れる。
兼継ルートの醍醐味は、主君の義妹だから(ついでに愛染明王としての責任感的なアレコレで)桜姫とは一定の距離を保っていた兼継が、だんだん恋情に身を窶すようになるところだ。
最初は『好意』を伝える花を贈る桜姫に『感謝』を意味する風鈴草を返していた兼継が、最後は熱烈な意味を持つ花を返すようになる。
それなら……
「ええと、まず花贈りは禁止だ。『幸運』を意味する花なんて、以ての外だぞ?」
「贈った。手遅れだ」
「何ィ!? くそ、このイベントは発生済みか!」
ちなみに兼継から貰える花は、好感度の違いで変化する。
『幸運』を意味する白詰草なんて、好感度MAXでやっと貰える超レアアイテムだ。
とりあえず、これは発生済みか。
じゃあ他のイベントは……
「それなら『港町で逢引き』するのはやめてくれ。父ちゃんに紹介なんて、絶対にしちゃいけません」
「紹介した。今更言うな」
「お、おま……意外とイベント、進めているのな……」
直枝の養父に紹介されるイベントがあるんだが、それまで発生してんのか。親に紹介なんてしたら、雪が帰った後はどうするつもりだよ。
雪、困っただろうなぁ。
確認すると、どうやら『お寺で物忌み』イベント、『茶道レッスン』イベントなど、他の恋愛イベントも全部発生済みらしい。
く、くそ…… 俺の知らないところで、意外とデートを重ねていたんだな。
【携帯ゲーム版】のイベントは全部クリア済みじゃないか。
それじゃあ残るイベントは、あとひとつ。
さすがにこれは起こしようがないだろう。
何故ならこれは【初版】発売時に「兼継ルートにエロがない」と苦情が殺到したことを受けて【NEO】版に入れられた新規イベント。
雪も、このイベントの事は知らない筈だ。
「よし。じゃあ雪と添い寝はするな。添い寝、ダメ、ゼッタイ」
「もう、した」
「そうか、これも……ええっ!?」
何で知っているんだ、このド変態が。って嫌悪感を露わにして兼継が俺を見ているが、そりゃこっちの台詞だよ、このド助平が。
「何か問題があるか? 雪は私の許婚だ。そのような顔をされる謂れは無いぞ」
涼しい顔をしているが、これ、結構ギリギリまで攻めたイベントだったぞ……
兼継の設定上、契るまではいかなかったが。
俺はこっそりと天を仰いだ。
『カオス戦国』には、さっきの条件に加えて『関ケ原発生までに18禁イベントを起こしていないと、以降の恋愛イベントは発生不可』ってイベント制限がある。
そしてそれ以降は『18禁イベント』が発生した武将の『個別ルート』へ分岐することになり、兼継の場合はこの『新規イベント』がそれに当たる。
……ちょ、マジか……
このイベントまで発生済って事は、雪はもう『兼継ルート』に入ったって事だ。




