348.異世界・関ヶ原2
18禁ゲームの内容についての描写があります。
苦手な方は閲覧をお控え下さい。
「真木は上森につく。当たり前じゃないか。真木は信厳公より、桜姫の守護を任ぜられている」
「しかし」
「言いたい事は解るよ。僕もまさか徳山が、こんなに各地の大名を調略しているとは思わなかった。厳しい戦になるだろう」
きりりと兄上が見返してくるけれど、それを聞きたいんじゃないんです。
ゲームでも史実でも、兄上は関ケ原で東軍につく筈ですが、西軍についちゃっていいんですか? って事で……。
西軍、負け組ですよ?
でもそんな説明をする訳にもいかないので、私は曖昧に頷いた。
あれから美成殿をはじめとした五奉行と、病を理由に欠席していた舞田殿以外の大老が「神の子を人身御供にして、天の怒りが鎮まるとお思いか」と徳山を糾弾し、徳山vs他の大老・五奉行って形になったけれど。
徳山に同調する大名が思いのほか多く、天下二分の形になってしまった。
神子が人柱にされようが富士山が噴火しようが、領国に影響がなければどうでもいいって大名は大勢居る。
そしてそれが『次期・天下人』の呼び声が高い 徳山の号令ともなれば尚更だ。
私は、兄上に気づかれないように嘆息した。
ああ、ゲームとは展開が違うけれど。
これは『関ケ原』のフラグが立ったな……。
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「ここにきていよいよわたくし、神子としての面目躍如ってことね? プレイヤーキャラのくせに、活躍の場が少ないと思っていたわ!?」
「そうかも知れないけど、噴火しそうな富士山に行けなんて、結構な死亡フラグだと思うよ? それでなくとも『カオス戦国』にはハッピーエンドが無いんだから」
「ですよね!」
桜井くんは てへっと笑っているけれど、私は笑う気になれなかった。
私が余計な事をしたから、関ケ原の要因が変わってしまった。
そのせいで桜姫に危害が及ぼうとしているんだから。
……あれ? そういえば。
ふと気になって、桜井くんに確認してみる。
「ゲームの『家靖ルート』ってどんな展開だっけ? 1回しかプレイしてないからあまり詳しく覚えてないけど、確か家靖と結婚エンドだったよね?」
桜姫は大阪夏の陣のさなか、敗色濃厚な富豊についた雪村を助けたくて、独断で家靖のところに直談判しに行く。
しかし戦は止められず、雪村戦死の報を徳山の陣地で聞いた桜姫は、傷心のまま家靖に保護されて、そのまま側室になる。
嬉しそうに笑う家靖(還暦過ぎ)と、たぬきに似た大勢の子供たちに囲まれて、一見ほのぼのしたエンディングスチルだったけど。
赤ちゃんを抱いた桜姫の目は 思いっきり死んでいた。
「え……? 歳の差40以上のおじいちゃんとの間に、こんなに子供が……?」
と、プレイヤーたちがざわざわしたエンディングだったような……
それを思い出したのか、仏の顔になった桜井くんが こくりと頷く。
「そうか……雪は携帯ゲーム版しかプレイしていないんだよな。PC版はそこらへんを深掘りしているから、展開がもっとエグいよ? 徳山は若い頃に、信厳と剣神の『川中島の戦い』に紛れ込んだ事があってさ、妖怪大戦争状態の戦に腰を抜かした。それ以来、霊獣が怖くて、ついでに自分の霊力の低さもコンプレックスになっていたんだ。それで霊力が高い奴とか、霊獣を使役する大名を目の敵にしていた。八つ当たりも甚だしいけどさ。そんな徳山のとこに、神子で霊力が高い桜姫が「(霊獣を使役できる)雪村を助けて欲しい」って、交渉しに行っちゃったわけ」
「そこまでは携帯ゲーム版も一緒だよ」
「うん。上森は関ヶ原の後も、秀好が遺した『大名同士の婚姻禁止』ってしきたりを真面目に守っていた。戦後は没落したとはいえ、神龍が居なくなった訳じゃないからさ。『大阪夏の陣』でその武力を敵に回す訳にはいかない。だからそんな話を持ち込める状況じゃなかったけど、桜姫がほいほい来ちゃっただろ? それで家靖が喜んじゃってさ。『神子の血を取り込めば、徳山の子孫は霊力が高くなる』って言いだして。ええと…… まあアレだ。「雪村を助けたければ、身体を差し出せ」って桜姫に迫って、強引に契っちゃって。「側室になる代わりに雪村を助ける」って約束も反故にされて、がんがん子供を作られて、あのエンディングスチル……」
「……うわあ……」
全然、ほのぼのなイベントじゃなかった。
お互い無表情になった私たちは、顔を見合わせた。




