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344/383

344.正宗再々来3

 

「――では、貴女の世界の秀夜様は、徳山殿の孫姫を(めと)りながらも、滅ぼされたと言う事か?」

「はい」


 清雅が、微かに声を震わせて項垂(うなだ)れた。

 さんざん浅はかだと清雅を(けな)していたのに、美成殿も顔色を無くしている。

 心のどこかで清雅の策にも、一縷(いちる)の望みを託していたのかも知れない。


「ですから『白猿』の数珠を徳山殿に渡す事に、私は反対です。『炎虎の封印』を拒絶した真木には清雅殿が差し向けられましたし、内情を知る清雅殿は徳山の刺客に襲われています。数珠を差し出したとしても、秀夜様が守られる保証はどこにもありません」

「怖い御仁(ごじん)だねぇ。徳山殿ってのは」


 慶治郎殿が、肩を(すく)めて呟く。

 (しばら)く黙り込んでいた美成殿が、考え込みながら口を開いた。


「ですが『白猿の数珠』を探し出し、手に入れて置くに越した事は無いでしょう。清雅の手元に『(たま)』の一部があるという事は、本体も必ずどこかにあります」

「そうだな。万が一にも徳山殿の手に渡ったら、白猿の消滅は確実だ」

「で、肝心の()()が解らない、って事かい」

「「……」」


 すぱんとツッコんだ慶治郎殿から顔を逸らし、美成殿と清雅が押し黙る。

 しばらくその様子を見守っていた慶治郎殿が、にやりと笑って私を見た。


「なあ姫さん。兄上さんじゃなくとも、これだけ護衛が揃ってりゃあ、あんたの身は安全だ。どうだい、ここに正宗を呼ぶってのは?」


 そうか。すっかり忘れていたけど、正宗の右目は霊力を”見る”ことが出来るんだった!


「しかし慶治郎殿。正宗殿は宝玉の状態でも、霊力を見る事が出来るのですか?」

「さあな。でも試してみる価値はあるだろ?」


 確かに他に方法が無いなら、何でも試してみるしかない。

 こくんと頷くと、慶治郎殿がほっとしたように笑った。



 +++


 美成殿の文を持った慶治郎殿が奥州に赴き、正宗と一緒に戻って来た。


「……久しいな。息災だったか」


 ちょっと緊張気味の正宗が、独眼竜から降りてこちらに向き直る。

 私が何か言う前に、腕を組んだ美成殿と、むきむきと力瘤(ちからこぶ)を見せつけた清雅が、間に立ちはだかった。


「これはこれは館殿。此度(こたび)はご足労いただき、恐悦至極」

「貴殿の能力が必要だ。是非とも協力願いたい」

「な、なんだ!??」


 富豊政権の文治派(ぶんちは)代表と武断派(ぶだんは)代表に威圧的に攻めかかられ、正宗が慌てて仰け反った。



 +++


「はあ!? 俺には陸奥(むつ)仕置(しお)きがある。日ノ本全国津々浦々、宝玉探しの当所(あて)()い旅など出来るか!!」

「そう言うなよ、正宗。ついこの前までは、仕置きは小重郎に任せっぱなしだったじゃないか」

「そうだそうだ! しょっちゅう沼田にも遊びに来ていたじゃないですか」

「お前ら、少し黙れ! 奥州覇者としての、俺の沽券にかかわるだろうが!!」


 きっと振り向いてがなりたてる正宗の手を、清雅がぎゅっと握りしめる。


「いてて!」

「貴殿の……貴殿の能力が富豊の為に必要だ。どうか力を貸して貰えないだろうか」

「そうですね。仮にも富豊に服従した大名が、この言い草ですよ? 十分、詮議(せんぎ)に値しますがどうします?」

「おい! 俺はお願いされているのか、脅されているのか、どっちだ!?」

「「両方」」


 美成殿と清雅のハモりに、正宗が白目を剥いて絶句した。


 あの正宗を追い込めるなんて。

 すっごいな、富豊政権の文治派と武断派。


 +++


 縁側に、どすんと慶治郎殿が座っている。

 その右に正宗、左に私といった配置で、私たちは月を眺めていた。


「お前の兄に、物凄い形相で塩を撒かれた。……あれは少し、堪えた……」

「信濃には海がありません。塩は貴重品です。それをぶちまけざるを得なかった、兄上の心境は如何許(いかばか)りか……」

「俺の心の傷を心配しろ。塩とどちらが大事だ」

「塩に決まっているでしょう。正宗殿の心の傷など、料理に使えません」

「……お前、俺を舐めているな」

「舐めてなどいませんよ。塩じゃあるまいし」


 話の内容はアホっぽいけれど、前と変わらない()()りに、正宗はほっとした顔になっている。


 これで恩返しになったのかな? 

 慶治郎殿には何の得もないけれど。


 くつくつ揺れる慶治郎殿の肩と、正宗のがなり声。

 それにツッコんだり流したり。

 夜空を泳ぐ独眼竜が、ぼんやり浮かんだ朧月を横切っていった。





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