34.兼継恋愛イベント其の一「越後花言葉」終 ~side S~
渡されることなく討ち死にした屁糞葛を庭に埋め、俺は赤くなるほど手を洗いまくった。
その後、舐めるように花言葉の冊子を熟読する。
本来これは恋を囁くために用意されたアイテムなので、あまり悪い意味の花言葉は載っていない。
「ねえ。これには載っていないのだけど、『呪』を意味するお花はあるかしら?」
わら人形でも送ってやりたいが、そうもいくまい。
全力でカワイイアピールをして誤魔化しながら、侍女衆に探りを入れてみると「あら姫さま! おまじないに頼りたいなど可愛らしいこと!」と斜め上にかっとんだ解釈をされてしまった。
違う、そうじゃない。
けれど、あまりドス黒いこともいいづらい。
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仕方なく俺は石蕗の花を選ぶことにした。
花言葉は『困難に負けない』。
これに容赦のない返花を返しようもないだろうが 油断はできない。……いや、絶対あいつは反撃してくる。
そうなったらこっちのもんだ。
可愛い姫が健気に「困難に負けない!」って言ってんだ。ウソ泣きで反撃すれば世間がどっちに味方するかなんて明らかだろうが。
そう思っていたのに。
兼継から返って来た花は『秋の麒麟草』だった。
花言葉は『警戒』と『励まし』。
間違いなく意味は『警戒』の方だろうが『励まし』の意味もあるのがやっかいだ。
「警戒するなんて酷い!」とウソ泣きしたところで「頑張れと『励まし』たつもりだ」と返されたら終わりだからな。
まさかとは思うが。
俺が酷い返花を待ち構えている事を察しての『警戒』じゃないだろうな?
ここまでで二日使ってしまった。
花言葉レスバは 明日が最終決戦になる。
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心を研ぎ澄ませて、最後の花を選ぶ。
早い時間に返花をして、あいつから再度、花が届いたら俺の負けだ。
だから姑息だが、夜に花を届けさせてもらう。絶対に勝ち逃げてやるからな。
夕暮れの陽が美しく野原を輝かせる。優しくそよぐ風が俺の髪を撫でていく。
目当ての花を摘み取り、立ち上がろうとした瞬間
「姫君」
聞き覚えのある声が聞こえて、俺の肩は自然に強張った。
均整の取れた長身に さらりと流れる漆黒の髪。
整った顔立ちで 口元は笑っているのに、涼やかな瞳のせいか表情に甘さはない。
直枝兼継が そこに立っていた。
夕陽の橙色に染まる野原。咲き誇る花々。
そこで見つめ合う イケメンと美少女。
スチル必至の恋愛イベント終盤なんだが、気分的には雷雲渦巻く空をバックに 龍虎相打つって感じだ。
「ちょうど良かったわ、兼継殿。わたくしからの最後のお花はこれよ」
俺は毬のように可憐に咲く黄色の花を兼継に差し出した。
わずかに目を見開いた後、兼継が ふ、と嗤って組んでいた腕を解く。
隠れていて見えなかったが、その右手には俺と同じ花が握られていた。
「奇遇だな。どうやら姫とは気が合いそうだ」
蓬菊
――その花言葉は『あなたとの戦いを宣言する』。
それが最終的に、俺たちが至った結論のようだ。
……本当に恋愛イベントなのか。これ?
花言葉は
日本の花言葉一覧 - 花言葉-由来というサイト様を参照させて頂いています。




