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332.新しい縁談15

 

 結局、この件は内々に収める事にしたそうだ。

 呪詛を打ち、越後の執政を策に掛けて殺そうとしたなんて大事件だけれど、没落しているとはいえ、六条家は公家で青苧の本所(ほんじょ)

 大事にはせず、恩を売る事にしたらしい。


 ただし六条家には、不問に()す代わりに代替(だいが)わりを求めた。

 かつては幼かった前・当主の息子さんも、今は立派に成人している。

 十年ぶりに当主の座は、本家筋に戻った。


 新・六条家当主には、とても感謝されて……


「六条家に恩を売り、どさくさに紛れて青苧の座役(ざやく)も下げたままでやり過ごせた。上森としては損が無い」


 上森家至上主義の社畜は満足げに笑っているけれど、危うく不倫で成敗される所だった兼継殿と、幼女に惨殺されかけた私は、いったい何だったんですかね……


「お前にも迷惑をかけたな」


 私の笑顔の生温(なまぬる)さに気付いたのか、兼継殿が頭を撫でて誤魔化(ごまか)してくる。

 無事に終わってみると、自分の縁談話すらも利用して、青苧の租税の件を上手く収めたかっただけじゃないかって気がしてくる。


 どこまで社畜なんだ、この執政……

 まあ、それは置いておいて。


 せめてもの腹いせに、私は和尚様から聞いた話を振ってみる事にした。


「兼継殿。藤姫以外からも、たくさん縁談が来ているというのは本当ですか?」

「!? そんな事を誰から聞いた!?」

「誰でもいいです。ほらあ、やっぱり世間様もそういう認識じゃないですか。私に執政の奥方は無理ですよ」

「何を言う。『為せば成る、為さねば成らぬ、何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』という言葉もあるではないか」

「何で兼継殿が、そんな言葉を知っているんですか……」


 それ、現世では江戸時代の上杉さんの格言ですよ?

 ちょっと焦った様子の兼継殿が、私の肩を強く(つか)む。


「お前はこの()に及んで、まだそのような事を言っているのか。他からの縁談など、打診の段階で断っている!」

「その中に素敵な姫君が居たかも知れないじゃないですか。せっかくの機会を逃すなんてもったいない。そんな事だから、女運が悪いと言われるのですよ」

「!? そんな事を誰が言った!?」

「誰でもいいです。兼継殿はモテるのに、恋愛にあまり興味が無さそうですよね。おまけに衆道疑惑やら幼女趣味疑惑やら余計な疑惑が盛りだくさんで。確かに女運というか、恋愛運が悪そうだなって、私も思います」


 兼継殿をイジれる機会なんて滅多に無い。

 このボーナスステージを楽しもうと、しみじみにやにやしていた私に、兼継殿もしみじみとした顔つきになって吐息をついた。


「女運が悪い、か…… (こと)の元凶に言われると刺さるな。だが」

「?」

「怪我の功名とでもいうべきか。此度(こたび)の件では影勝様も、思うところがあったようでな。「『真木遠縁の雪』との縁組ならば認める」との仰せだ」

「はあ!?」


 嘘でしょ!?

「男に戻った時はどうするつもりだ。結婚なんて許可出来るか」と常識人な影勝様が渋っているって、風の噂で聞いていたのに!

 最後の砦が突破された!!


 仰天して飛び上がった私の肩を抑え込み、兼継殿がにっこりと笑った。


「こちらの準備は整ったぞ。あとはお前次第だ」


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