表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/383

33.兼継恋愛イベント其の一「越後花言葉」3 ~side S~

 

 翌日は雪村ではなく、兼継の邸の侍女が花を届けにきた。

 お前はゆうべ、兼継の邸で何をした、燃料を投下すんなと忠告せねばと、雪村を待ち構えていたんだが。そういう時に限ってこのザマだ。

 ちなみに届いた花は白粉花(おしろいばな)だった。


「白粉花の種はお化粧に使えますのよ。きっと兼継様は、姫さまがより美しくなるように願われたのですわ」


 侍女衆(じじょしゅう)は必死でフォローしてきたが、単に花言葉をうまくこじつけられなかったんだろう。


 白粉花の花言葉は『臆病』『内気』そして『恋を(うたが)う』。


『恋の芽生(めば)え』に対しての答えがこれだ。

 何かおかしくない?

 乙女ゲームってのは、もう少しデレデレ恋愛していて甘々じゃないのか?

 様子見(ようすみ)のつもりだったけど、ホントにこう返してくるとは思わなかった。


 いや、ゲームの兼継も序盤は素っ気なかったじゃないか。

 もう少し様子を見るべきか?

 この花だって、本気なのかを問う意味だと取れなくも無い。


 そんな事を考えていたら、兼継のとこの侍女が、中年侍女に顔を向けた。


「お返花(へんか)があるのでしたら、また明日(うかが)いますが。如何(いかが)いたしますか?」

「雪村はどうしたのですか?」

「兼継様の使(つか)いで今朝、慈光寺(じこうじ)へ向かいました。しばらくは戻られないかと」


 俺の疑問を中年侍女が代弁すると、お使いの侍女は少し首を(かし)げた。

 こちらに伝言(ことづけ)はなかったのですか? と言わんばかりだ。

 

 俺と中年侍女は 顔を見合わせた。



***************                *************** 


出掛(でが)けにこちらに寄ることも出来たでしょうに。雪村らしくないですわね」

「……別に雪村は、わたくしの家臣という訳ではありませんから。父上様のご遺言に忠実なだけです。ここまでして(もら)えるだけで、本当に有難(ありがた)いと思っていますわ」


 謙虚(けんきょ)に微笑みながらも、俺は少し反省していた。

 やっぱり他の男のイベントに、雪村を使うのは配慮(はいりょ)が足りなかったか。

 雪村が気にしなくても、兼継が気にしたんだろう。


 よし、ごちゃごちゃ考えるのも面倒だ。花を選んだら俺が直接、兼継のところに持って行こう。

 あいつはいつも御殿(となり)で仕事してるんだから、よく考えたらすぐそこじゃん。



***************                *************** 


 白粉花の返花には、やっぱり侍女衆の間でも動揺(どうよう)が広がったらしい。


「姫さま、何か誤解(ごかい)があるのかも知れませんわ。何かそのような意味の花を贈って様子見(ようすみ)をした方が」


 誤解も何も。俺が紫丁香花(むらさきはしどい)を贈ったせいで雪村が乱心したって、お前ら(ゆう)べ言ってたじゃないか。

 兼継もそう思ったんだろうよ。あいつは「紫丁香花を贈れ」ってアドバイスしたのが侍女衆だって知らないからな。

 俺を全面的に悪女扱いだよ。



***************                *************** 


 冊子とにらめっこして吟味した結果、俺は屁糞葛(へくそかずら)を贈ることにした。

 ヘクソカズラですって。すごい字面(じづら)だな。

 ちなみに花言葉は『誤解を解きたい』。そこは侍女衆の意見を取り入れた。


「今から花を持って、御殿(ごてん)に乗り込む」と討ち入り宣言をしたら、侍女衆は全力で止めにかかったけれど、俺は()(かい)さなかった。

 ムカつく花を返してくる事にも一言いいたかったし、直接、屁糞葛を(たた)きつけてやりたいってのもある。

 

 こんな名前だけあって この花、けっこう(くさ)いんだ。


 ずかずか廊下(ろうか)を歩く俺を見て、家臣たちが驚いた顔で道を開ける。

 俺は花を(にぎ)りしめ、執政(しっせい)の仕事部屋だという(まつ)()へと乗り込んだ。



***************                ***************

 

「桜姫、ここは越後の国政(こくせい)に関する業務を行う場所だ。影勝(かげかつ)様の義妹御(いもうとご)とはいえ、遊び場と勘違いされては困る」


 涼しいを通り越した冷たい視線で、兼継が向き直る。

 正論にぐうの()も出ないが、ここで(ひる)む訳にはいかない。


「雪村が来てくれないから、自分で来てしまったわ。雪村はどうしたの?」

「雪村には使いを(たの)んでいると、代わりの者が言いませんでしたか。そもそも雪村は姫の従者ではない。少々甘えすぎでは?」


 自分でそう思っていても、他人に言われると腹が立つな。

 俺はつんと顔を()らして反論した。


「それを言うなら、雪村は兼継殿の家臣でもないわ。なぜお使いを頼むの?」


 俺と兼継の間に、吹き(すさ)ぶブリザードのような冷気が満ちる。

 俺は軽く後悔(こうかい)した。

 空気が(こお)り付きすぎて、顔を兼継の方に戻すことが出来ない。


 売り言葉に買い言葉で言っちまったが、これはアレだ。

 雪村に花の使いをさせまいと、桜姫から引き()がそうとしたんだ。

 いまさら気づくなよ、俺。



 どれくらい時間が過ぎたか、兼継がふと(わら)う気配がした。


「雪村が戻る前にすべて終わらせたい。期限は三日だ。その花が姫の返事だな?  別に解くような誤解もないが、私からはこれを返す」


 立ち上がった兼継が、(とこ)()に飾られていた花の中から一輪を手に取り、無造作(むぞうさ)に俺に差し出す。


「姫がお帰りだ。奥御殿(おくごてん)までお送りしろ」


 右手に屁糞葛(へくそかずら)、左手に(もら)った花。

 やんわり部屋から追い出され、俺はとぼとぼと奥御殿へと戻った。


 押しつけ(そこ)ねた 右手の花がくさい。



***************                *************** 


 戻ってから調べてみると、返された花は鳳仙花(ほうせんか)だった。

 花言葉は『私に()れないで』。


 ……桜姫は主人公で、ここは乙女ゲームの世界なんだよな?



 兼継イベントの(はず)なのに

        攻略対象が、容赦(ようしゃ)なさ過ぎる。


花言葉は

日本の花言葉一覧 - 花言葉-由来というサイト様を参照させて頂いています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ