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322.新しい縁談5

 

 よく分らないまま部屋を辞して、そのまま経緯を伝えた私に、こちらの侍女衆は烈火の如く怒り出した。


「ええい、このぼんくらが! 嫌味を言われているではありませんか!「雪は消えるもの」などとはっきり言われて、どうしておめおめ引き下がって来たのです!」

「花に例えられても、褒めているとは限らないわよ。あなたは「屁糞葛(へくそかずら)の姫君」と呼ばれても誉め言葉と取るの?」


 え? 嫌味だったの?

 まずそこに唖然としている私を見て、老女がこほんと咳払いをする。


「鈍いあなたにも分かるように、藤姫の言葉を意訳しましょう。「(ろく)な女が居ない越後で適齢期を迎えた兼継様は、焦ってお前を選んだのだ。だが世間には、美しい女がごまんと居る。ショボいお前はとっとと消え失せろ」と言ったところです」

「!?」


 ショボい! そういう意味だったの!? 

 しかし京の流儀はコワイと思っていたけれど、そんな台詞をあそこまで和らげているなら、逆に優しいのでは!? 

 というか、意訳が容赦なさすぎです。こちらの侍女衆!

 

「馬鹿なの? しっかりなさい。普通はそのような事を面と向かって言わないわ」


 私の内心を読んだようなタイミングで、侍女のひとりがツッコんできたけれど、「越後に碌な女が居ない」って言われたところは皆、スルーしていいんだろうか。



 +++


 翌日、秋物の小袖を手に藤姫のお部屋に行った私は、ぎょっとして立ち(すく)んだ。

 部屋には見覚えのない、商人が座っていたからだ。


 この風体を見ただけで首藤を思い出すなんて、軽くトラウマになっているな……

 いや、それは置いておいて。


 桜姫と侍女衆のキャラが濃すぎて忘れがちだけど、奥御殿は影勝様の居住区だ。

 知らない人間を勝手に出入りさせていい場所じゃない。


「何をなさっているのですか!?」

「私が呼んだのよ。寸法が合わない小袖を売ろうと思って」

「何をなさっているのですか!!」


 仰天した私は、思わず声を荒げた。

 商人が手にしていたのは、先日奪われた桜姫の小袖だったからだ。


「お待ち下さい! それは桜姫の小袖、差し上げた訳ではありませんよ!?」

断捨離(だんしゃり)よ。季節ごとに衣装を整えるのが公家の流儀ですもの」

「上森家は公家じゃないです!」


 藤姫がおほほと笑いながら、商人から受け取った包みを(ふところ)に入れる。

 借りパク転売が公家の流儀なのか!?

 ヤバそうな雰囲気を察したらしい商人が、いそいそと荷物を抱えて逃げていく。

 私は慌ててその後を追いかけた。



 +++


「売ったお金で秋物の着物を買う」という発想は無かったらしい。

 やたらと逃げ足が速い商人を取り逃がした私は、仕方なく持って来た小袖を差し出した。


「……取り急ぎ、こちらをご用意致しました。お使い下さい」

「まあ! 素敵な緋色。藤姫にお似合いドス」


 綺麗な楓色の小袖に、侍女たちが一斉に盛り上がる。


 ちなみにこれは先日借りた、剣神公の小袖だ。

 これを又貸(またが)ししても良いかと尋ねた私に、侍女衆はしぶしぶ(うなず)いた。


「あなた、針仕事はした事がないでしょう?「兼継殿の許嫁は針仕事が遅い」などと悪口を言われても面白くありませんしね。それで代用しましょう」

「客の衣装を整えるのは『女主人の役目』ではありませんが、側室の面倒を見るのは正室の役目です。そう思えば、衣装の世話をするのも悪くないわ」


 お気遣いありがとうございます。

 私が至らないせいで、ギスギスさせて申し訳ありません。うう……


 神妙な顔で座っている私と小袖を交互に見て、侍女のひとりが意味深に(わら)う。


「あんたが縫うたん? さすがお(ひな)様は手ぇ早いわ。そうでなければ大物を射止めるなんて、出来ひんやろうしね」


 お鄙様か……鄙女(ひなつめ)からレベルアップしたような、そうでもないような。

 どちらにせよ文句は言われるんだなぁ……。

 周囲のくすくす笑いを聞き流していると、脇息(きょうそく)(もた)れかかった藤姫が、開いた扇越しにこちらを見た。


大儀(たいぎ)でしたね。そうだわ、小袖を縫ってくれた、ご褒美をあげなくては。越後の光源氏はひいな遊びが似合う幼児(おさなご)が好みのようだから、これを差し上げるわ」

「はあ、ありがとうございます」


 何か判らず受け取ると、それは和紙の着物を着た紙人形だった。

 ちなみに『ひいな遊び』とは、人形を使ったおままごとの事。


 いくら何でも私、おままごとをする年齢には見えないと思います。

 さすがにこれは、兼継殿もディスられているのでは……


 反応に困っていると、藤姫がうっとりと遠くを見る目になった。


「私、田舎大名の家臣に(とつ)げと言われた時は、悲しくて悲しくて枕を涙で濡らしたわ。でも『(ひな)(みやこ)』とはあのような方をいうのね。眉目秀麗、知勇兼備、あれほど素敵な殿方は、都でもそう居ないわよ。ただひとつ欠点があるとすれば、女の趣味が()しく幼女趣味ってところかしら。でもね、光源氏は若紫(わかむらさき)を愛でてはいるけれど本命は藤壺(ふじつぼ)なの。貴女にはそれを解らせてあげるわ!」


 おーっほほほ!

 扇をばっさばさと仰ぎながら高らかに笑い出した藤姫を、私は唖然と見守った。


 ……衆道疑惑に続いて、今度は幼女趣味疑惑……!? 


 いつもいつも兼継殿は『雪村』のせいで、風評被害を受けまくりだ。

 本当に、何と言ってお詫びすれば良いのやら。



大雑把な源氏物語解説

守備範囲広すぎなイケメンの話。

「ただしイケメンに限る」の元祖。 ※個人の見解です


藤壺:義母。手を出して子供が出来た

若紫:幼女。オレ好みに育成後、おいしくいだたきました





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