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320/383

320.新しい縁談3


 居るだけでいい、とは言われても、侍女の仮装中は侍女として振るわなければ。

 もう秋なので夏物の小袖を仕舞(しま)おうと畳んでいたら、背後から声が掛かった。


「そこの貴女、ちょいええ?」

「はい?」

 

 振り返った先には藤姫付きの侍女がいて、私の手元をじっと見ている。

 どうしたのかと向き直ると、口元を隠した侍女が優雅に微笑んだ。


「今日は暑おすなぁ」

「はい、今年の秋は残暑が厳しいですね」


 見ると侍女は冬色の(かさね)を着ている。まだ秋なのに冬の装いだもん、そりゃ暑いよ。越後は北国だから寒いと思ったのかな? 


「団扇をご用意いたしますか?」

「そうやなしにな。ああもう! ほんまに(ひな)の方たちは気ぃ利かへんわ」

「?」


 え? 何が言いたいんだろう。戸惑っていると、洗濯物をちょいと摘まんだ侍女が、ちろりと上目遣いになった。


「さすが青苧(あおそ)の一大産地や。鄙女(ひなめ)がええ物を着てますなぁ。ほな上方(かみかた)の流儀を教えまひょ。お客の衣装を整えるのも女主人のお役目や。藤姫様の美しさを引き立たせるには、上質な衣が必要不可欠。とりあえずはこれで我慢しまひょ」


 向かいに座った侍女が小袖を掻き集め始めたので、私は慌てて声を上げた。


「これは桜姫の小袖です。藤姫には小さいですよ!」

「せやったら早々に(あつら)えたらええのに。藤姫様に不自由させんといて」


 これだから武家は嫌なんよ、とぶつぶつ言いながら、侍女は小袖を持ったまま、部屋を出て行った。



 +++


「女主人が客の衣装を整えろ、ですって? あなた、それを本気にしたの?」

「本気にというか……上方の流儀だそうです」

「そんな訳ないでしょ。()身着(みぎ)のままで来ておいて、ずうずうしい姫君ね。公家であろうと武家であろうと、客の衣装をこちらで整える必要はありませんよ。田舎者の侍女風情にそのような事は分るまい、とあなたは舐められたのです」


 マジか。これがいけず文化と聞く京都の洗礼……!(偏見)

 驚く私をきりりと見据え、老女がばしんと畳を叩く。


「ええい! あなたはそのような事を言われて、何とも思わないのですか!!」

「ああ、そうでした。あちらの侍女が桜姫の小袖を持って行ったのですが、藤姫には小さいです。前に貸して頂いた剣神公の小袖をお借りしても良いですか?」

「そうではありません! お人好しも大概(たいがい)になさい!!」

「あなたの事を「女主人」と言ったのでしょう? あの方たちは、あなたが『雪』だと知った上で嫌味を言ってきたのよ? そんな気遣いは無用だわ」

「そうですとも! いいですか? あなたはこれから執政の奥方になるのですから、いい加減、奥向(おくむ)きの仕事を覚えなさい。知らぬから馬鹿にされるのです!!」

「!?」


 現世に帰るつもりでいたから、兼継殿の奥さんになる為の修行なんて、全然考えてなかった。けれどそれを老女に言う訳にはいかないし……

 ああ、でもそういう素振りが無かったら、勘が鋭い兼継殿には、帰るつもりだと気付かれるかも知れないな。それは困る。

 バレない程度に仕事を覚える振りをしないと……


 あれ? ……そんな必要、ある……? 


「兼継殿には、藤姫の方がお似合いではないでしょうか。家柄も申し分ないですし美男美女ですし」


 そうか。藤姫との縁組がまとまれば、帰る・帰らないで揉める事も無くなるし、円満に婚約破棄される。

 どうしてそれに気付かなかったんだろう。


 目から鱗が落ちた気分で笑うと、侍女衆が目を剥いて絶句した。



京都弁変換は「BEPPERちゃんねる 恋する方言変換」を使わせて頂いてます。

変な使い方になってていましたら、異世界って事で勘弁して下さい。


あと、京都の方が見ていましたらごめんなさい。




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