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312/383

312.婚約破棄攻防戦1

しばらく恋愛イベントのターンです

 

「ですから、どうか直枝家の方から破談を申し出て下さい」

「何故だ? 私はしがない陪臣(ばいしん)、真木家は大名だろう。そちらから言い渡すのが(すじ)ではないか?」

「執政との縁談を、侍女の方から断れる訳がないじゃないですか……。これ以上、(こと)を大きくすると取り返しがつかなくなります」


 私はもう何度目になるか判らない談判を、兼継殿としていた。

 そもそも兼継殿は陪臣(大名の家臣)だとは言え、富豊から米沢の地を安堵(あんど)されている。普通に大名待遇だ。

 だからこそ、この話は早いうちに火消ししないと大事(おおごと)になる。


「もう十分、大事(おおごと)だぞ? なにしろ(すで)に真木家当主と、我が主君の承諾を得ているのだからな。ましてや本人の気持ちも確認したのだ。私から破棄など、する理由がなかろう」

「……そこを何とか」


 くすくす笑う兼継殿をちょっと(にら)んで、私は顔をぷいと逸らした。

 どんな顔をしていいのか解らない。


 これが最後かも知れない。

 そう思って盛り上がり、つい勢いで告ってしまったら、私が居ない間にあれよあれよと話が進んでいて、気付いた時には兼継殿は、兄上と影勝様から縁組の許諾を得てしまっていたのです。


 ああいう時の告白って、「俺、この戦争が終わったら結婚するんだ」レベルの死亡フラグだと思うんですよね……。

 本当に本気で、土壇場で乗り切れるとは思ってなくて……


 しかしそんな『現世でのお約束』など知らないであろう兼継殿に、その法則は通用しなかった。


「『雪村』の許可も得た。あとはお前次第だが、どうしても私の妻にはなりたくないと言うのであれば仕方がない」

「そっ そんな事、言う訳がないじゃないですか」

「ならば何の問題も無いな」


 楽しそうに笑って頭を撫でてくれるけど、もしかして返事に困っている私を見て、楽しんでいるんじゃないかって気がしてきた。


 しかしもう、ここで言いくるめられてはいけない。

 ええい、仕方がない。これが最後の切り札だ。私はきりりと顔を上げた。


「どうもお忘れのようですが、兼継殿は直枝家の跡取(あとと)りです。そ、その…… 私では子が成せませんし、妻の務めを果たせません。どうか他の、相応しい姫君を……」


 現世の戦国時代に似たこの世界でも、お家断絶は一大事。その為にも後継ぎ(こども)は必須なんだから。

 生々しい話をする羽目になって、自然と顔が熱くなる。

 恥ずかしくて俯いた私を見て、兼継殿が楽しげに笑った。


「何だ、そのような事を気にしているのか。跡取りは元より、養子を迎えるつもりでいる。それこそ忘れているようだが、私自身が直枝家の養子だぞ」


 笑いながら、兼継殿の腕がやんわりと私を抱き寄せて、髪を優しく撫でてくれる。

 私ばかり緊張していてずるい、と思っていたのに、耳元で聞こえる心音が大きい。

 そろりと顔を上げると、さっきまでとは違った 真剣な視線にぶつかった。


「私では 嫌か?」

「そ、そうではなく……っ 先程も申し上げたように『私が』兼継殿に相応しくないのです……っ」

「ならば拒絶しないでくれ。『私が』お前を愛しているのだ」


 拒むなと言われると、それ以上は言えなくなる。

 熱っぽい視線に耐えきれなくて ぎゅっと目を(つむ)ると、額に優しいキスが落ちる。


 この()()りも、もう何度目になるだろう。いつもこうして(ほだ)される。


 ――降参だ。もう打つ手が無い。



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