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308/383

308.小田原征伐29

 

「……すまない。私が強引に、(こと)(はこ)んだせいだ」


 人払(ひとばら)いされた部屋で、ふたりきりになった途端(とたん)。私が何か言うより先に、兼継殿が口を開いた。

 どういう意味か解らなくて黙って見返すと、兼継殿が(かす)かに苦笑する。


「本来の歴史とは違う未来を選択しようとした場合『歴史の修正力』という力が働くそうだな。――私はどうしても お前を手に入れたかった。たとえ(さく)()けてでも。お前の意思を無視して強引に事を運ぼうとしたが(ゆえ)に、歴史に拒絶されたのだろう。お前にはまだやりたい事があったのだろうに、その時間を奪ってしまった」

「そのような。もともとこのように長い時間を、兼継殿と共にする運命ではなかったのです。私はその運命に感謝します。今までいろいろと助けて頂き…… ありがとうございました」


 泣きそうになるのをぐっと(こら)えて、笑って兼継殿を見上げる。


 五年待ったとしても、確実に雪村が生き()びる保証はない。そのために小介を犠牲には出来ない。

 そして小介を犠牲にしない為には……私が『雪村』に戻るしかない。


 まだ何も言っていないのに、兼継殿は私がそう決断した事を解っているみたいだった。

 少し笑った兼継殿の ひんやりとした手が、私の(ほほ)に触れる。


「私は昔から、望みが(かな)った事など無いのだ。その私が望んだのだから、お前を失うのも道理だな」

「兼継殿……」


 打開策なんてある訳ない。もう無理だって解っている。それでも。

 ……そんな顔をされたら、どんな運命だろうが (あらが)うしかないじゃないですか。


 頬に触れた兼継殿の手に掌を重ね、私はきりりと兼継殿を見上げた。


「兼継殿。私は最後まで諦めません」

「雪?」

「私は兼継殿が好きです。その……あ、あいしています。だからここでお別れしたくありません」


 びっくりしたように目を見開いた兼継殿が、泣き笑いみたいな顔で苦笑した。


「そのように甘やかな言葉を、宣戦布告のように言う娘はお前くらいだぞ」

「そ、そうですか?」

「当たり前だ。だが……やっと私も、望むものが手に入ったのだな。解った、お前に任せよう。だがもしもどうにもならなくなった時、最後は私を頼れ」

「はい!」


 悲しさも不安も振り切って、元気に返事をする。

 すべての選択肢がバッドエンドに繋がるなんてありえない。

 どこかに必ず、この運命から逃れられる選択肢がある(はず)だ。



 +++


 ぼんやりと縁側から見上げた空には、筆で()いたような雲がかかっていた。


 あれから ずっとずっと考えている。

 けれどどんなに考えても、この状況を(くつがえ)す方法なんて思いつかなかった。

 この展開は『カオス戦国』に無いから『ゲーム知識』というチート技が使えない。打開策があるのかどうかも解らない。どうしたらいいんだろう……


「どうしたの、雪村? 何か考えごと?」

「兄上」


 隣に座った兄上に、私は改めて座り直し、深々と頭を下げた。


「この(たび)は……」

「君は謝ってばかりだね。昔はそんな子じゃなかったよ」


 ぐっと詰まった私に、兄上が困り顔で苦笑する。


「僕は真木の当主で、雪村の兄だ。雪村の事を考えるのなんて当たり前だし、危地に(おちい)ったのなら一緒に打開策を考える。当然の事だよ。だからそんなに謝らないで」

「兄上……っ ありがとうございます」


 兄上、雪村の事をそこまで考えてくれているのか……

 兄弟愛に感動しつつ、私は改めて兄上を見つめた。


「では兄上、何か他に打開策はありますか?」

「うん、それについては分からない……」


 ですよね

 微妙な空気になったのを察したのか、兄上が慌ててにこりと笑った。


「そうだ。先日、療養所の若先生から(ふみ)がきてね。小介の面会謝絶を解くそうだよ」

「良かった、容態が安定したのですね!」


 怪我の程度が酷かった小介は、喋っただけでも傷が開くからと、今までお見舞いにいけなかった。やっと傷が塞がったのか。


「後でお見舞いに行ってきます」

「そうだね。他に方法が見つからなければ、小介の協力が必要になる訳だし」


 ちょっと躊躇(ためら)いがちに、兄上がぽつりと(つぶや)く。


 どんなに考えても見つけられない。

「私が『雪村』に戻る」以外の打開策は、それしか無い……




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