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305/383

305.小田原征伐26


「何やら大きな勘違いをなさっているようだが、この娘は雪村ではない。真木縁者の娘で、名を雪と言う。侍女として仕えていた頃に見初(みそ)めてな、内々で縁組の打診をしていたところだ」


 きっと五年前も、こんな風に兼継殿は庇ってくれたんだろう。

 また『雪村』は兼継殿に助けられた。


 兄上や影勝様、更には陰虎様にまで、こんな嘘を言う羽目にさせてしまった申し訳ない気持ちと、助けに来てくれた嬉しさ。

 それに「友達」でいようと決めたのに、と揺らぐ気持ちが()()ぜになったまま、私は茫然と兼継殿を見上げていた。



***************                *************** 


 あれからしばらく()って。

 毒も抜けて元気になった私は、現在、上田に居る。


「やっぱり沼田は僕が治めるよ。今はまだ不安定だしね」


 あんな騒ぎになったせいで、兼継殿並に過保護になってしまった兄上が、城主交代して沼田に行くと言い出してしまったのです。

 中途半端なまま、任地を離れる事になってしまうけれど 仕方がない。

 でももうじき関ケ原のフラグが立つだろうから、このタイミングで上田に戻るのは籠城戦(ろうじょう)の準備をする時間が取れて、都合がいいとも言える。



 兄上が沼田に()つ前日。

 他人行儀なまでに気遣(きづか)ってくれる兄上に、私は深々と頭を下げた。


「兄上、この度は私が(いた)らないせいでご心配をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

「えっ!? いや、ほら、今はそんな身体だしさ! 僕も弟のつもりで接していて、逆に申し訳ない事をしたよ」


 確かに男だったら、あんないざこざは起こらなかった。慌てふためく兄上から目を逸らし、気付かれないように吐息をつく。

 今までは女の身体だって(そういう)事に無頓着だった兄上までこれだもん。事情を知っている兼継殿には、ますます心配をかけただろう。


「兼継殿にもご迷惑をお掛けしてしまいました。皆の前で、あのような嘘をつかせてしまって……。近いうちにお()びに伺わなければ」

「え? 嘘? あれ……?」


 歯切れの悪い兄上を見返すと、兄上も不思議そうな顔をして見返してくる。そしてふと、思い出したように口を開いた。


「そういえば。解毒の処置で君たちが出て行った後、首藤が気になる事を口走(くちばし)ったんだ」

「どのような事ですか?」

「徳山殿の名を出した。まさかこれも、徳山殿の調略(しわざ)なのか……?」

「しかし東条に沼田を襲わせて、徳山に何の(えき)があるというのでしょう?」

「判らない。でも加賀殿のこともあるからね。真木が襲われるのは初めてじゃない」

「そうですね……。それで陰虎様は今後どうなさる御積(おつ)もりか、兄上は何かご存じですか?」

「申し開きの為に上洛すると聞いた。あとは美成が上手くやるだろう。だから大丈夫だと思うけれど、やっぱり君をひとりにするのは心配だよ。だからって沼田に連れて行く訳にはいかないし。……ええと、その、僕が居ない間は、越後で保護して貰った方がいいんじゃない?」

「私をですか? 必要ありませんよ」


 桜姫じゃあるまいし。そんな事をしている暇があるなら、徳山を迎え討つ方策でも考えていた方がいいよ。

 笑って断ったけれど、兄上はまだもだもだしている。


「でもさ、縁組って話も出た訳だろ? 君に何かあったら、それこそ兼継に申し訳がたたないし」

「兄上。あれは兼継殿が庇って下さっただけです。あのような嘘が広まっては、直枝家にご迷惑がかかります。あ、もしかして陰虎様に誤解されて、内々に収めることが出来ないという事ですか? そうであれば兼継殿の方から婚約破棄を申し出て下さるよう、兄上からお伝え下さい」

「えっ! 僕が!? 僕にそれを言えっていうの!?」

「だって兄上は当主でしょ?」


 兄上、あの縁談話うそを本気にしていたんだ? 

 笑ってあっさり切り上げたら、何故か兄上が頭を抱えて、膝から崩れ落ちた。




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