表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

301/383

301.小田原征伐22


「雪……っ!」


 突然立ち上がった兼継に、陰虎だけでなく、影勝も信倖も驚いて兼継を見上げた。


『首藤が邸に居ない。数日前から登城している様子も無く、どこにも姿が見えない』

 その報せを受けて、登城するまで待て、いや今すぐ探し出して連れて来い、と()問答(もんどう)の真っただ中だ。


 探るように周囲を見渡した兼継が 足早に部屋を出て行く。

 残された三人は顔を見合わせた後、訳も分からぬまま 急ぎその後を追った。



 ***************                ***************


「危ないなァ。オレがあんたみたいにおっきな目やったら潰されてたで?」


 口元は(わら)っているけど、目は全然笑っていない。

 目を狙って突き出した腕を捕らえられ、私はきっと首藤を(にら)みつけた。


「いざとなったら急所を狙え」

 と、桜井くんに教わった空手で目潰しを狙ったけれど、(すん)でのところで(かわ)された。


 身体に力が入らない、ぜんぜん動けてない。

 ここ数日の監禁で弱った身体は、限界なんてとっくに超えている。

 掴まれた手首を乱暴に(ねじ)り上げられ、私は悲鳴を呑み込んだ。


 この体勢じゃ何も出来ない。

 泣きたくなんかないのに、勝手に涙が(にじ)んでくる。


「離して下さい! 離せ!!」

「毒も抜けてへんやろうに元気な子やなぁ。さっさと契って、花押(かおう)のひとつも刻んでもうたらあんたも諦めるやろ、そのまま陰虎様に引き合わせて縁組の許可を貰うつもりで、直接ここに連れて来たけど。こんなに暴れる元気があるなら、陰虎様の前で何を口走(くちばし)るか判らんわ。(めん)を通すのは保留や」


 どうしてわざわざ、陰虎様の居城でエロいコトをしようと思ったんだ、と不思議に思っていたけど、そういう理由か。それならここに影勝様や兼継殿が来ていたのは、首藤としても想定外だったのかも知れない。

 熱っぽい掌が、ぐいと私の顔を鷲掴(わしづ)んだ。


「さて、花嫁サンをいつまでも城の座敷牢に入れておく訳にもいかんしな、そろそろ我が邸へご同道願いましょ。――ああでも、また暴れられたら面倒やなぁ。ホンマに面倒。気絶させるか? いや、もういっそ、殺してしまいたいわ」

「……!? ……やっ……!」


 骨ばった手が首に掛かって、じわじわと締め上げてくる。


 苦しい、息ができない。

 涙で歪んだ視界が だんだんと暗くなる。


 お道化(どけ)た狐顔が 悶える私を見て 楽しげに嗤っていた――





「――雪!」


 ぱん と(ふすま)が開いて、(にじ)んだ視界に兼継殿が映って。


 私は無我夢中で首藤の腕を振り(ほど)き、兼継殿に駆け寄った。

 足に力が入らない。

 よろけた身体が抱き留められ、そのまま強く抱き締められた。


 信じられない。

 追い詰められ過ぎて、願望が見えているだけじゃないかって気がする。

 けれど羽織から香る焚き()められた沈香は、絶対に本物の兼継殿だ。


 泣きたいのを堪えて、私は夢中で兼継殿に抱きついた。


「兼継殿、兼継殿! もうお会いできないかと思いました……っ!」

「遅くなって済まない、雪。もう離さない……!」


 兼継殿が熱烈に抱き返して来て、私はふと我に返った。 


 ……ん? 兼継殿ってこんな台詞を言うキャラだっけ? 

 いや、それより私が今、ナニをやっちゃっているんですか!? 


「こほん」


 すぐ近くで咳払いが聞こえて、私はそろそろとそちらに顔を向けた。

 兄上が、気まずそうに目を逸らしている。


「あ」


 にうえ、いらしたんですか。と、続けようとした口が兼継殿の掌で塞がれて。

 私は目を白黒させながら、兼継殿を見上げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ