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299.小田原征伐20


 ――存外(ぞんがい)、演技派だな。


 兼継は端然(たんぜん)と座ったまま、いきり立つ鎧姿の信倖を見遣(みや)った。

 陰虎が来るまでの短い間、簡単にではあるが経緯は聞いている。


 狼煙(のろし)が上がった直後、城下で祭りの警備に当たっていた真木の家臣たちは、一斉に城に戻った。


 沼田には信倖が()りすぐった、優秀な家臣たちが配属されている。

 それに加えて多勢に無勢。

 城が手薄になる機を狙った襲撃は、家臣達の奮闘で、ほどなく鎮圧された。


 ただ、名胡桃城(なぐるみじょう)へと向かっていた家臣たちが襲撃され、雪村が(かどわ)かされてしまった。それを沼田へと向かう道中で知った信倖は、そのまま単騎、相模(さがみ)へ馬首を向けたという。


 城は取り返した。それにも関わらずのあの迫力だ。

 理不尽な仕打ちに対する怒りもあろうが、それ以上に弟の身を案じているのだろう。

 ――あとは雪村を取り戻すだけだ。


 兼継は(かす)かに眉を(しか)めて首筋に手を当てると、声を抑えて信倖に(ささや)きかけた。


「これからまた一悶着(ひともんちゃく)あるだろう。後でいくらでも責めは受ける(ゆえ)、今(しばら)くの間、私に話を合わせてくれぬか?」



 ***************                *************** 


「こ、このような暴挙が許されると思っているのですか!? 私が貴方から文など貰っていない、これは仕組まれた事だと言ってしまえば、それまでではないですか!」

「うん、まあそうやね。でも契られた後でもそんなコト、言うていられる?」

「や……っ!」


 首筋に舌が這って、気持ち悪さに息を呑んだ。

 やめろこの変態狐、と罵倒しかけた言葉が途中で途切れる。

 少しでも力を抜いたら小袖を脱がされそうで、必死で掛け衿を掴んでいるけれど、どんなに藻掻(もが)いても首藤の手を引っ()いても、全然引き剥がせない。

 ならば男がコレをされたらダメージが大きかろうと、頭のてっぺんの毛をまとめて引き抜いたら、面倒そうに私の手を払い()けた狐顔が、心底(イヤ)そうに細目を眇めた。


「あのな? あんたとの恋仲を装うのは、兄上さんへのせめてもの気遣(きづか)いと兼継への嫌がらせやって、さっき言うたやろ? 脅されて城と妹を差し出すんやから、せめて妹が愛するオトコって事にしといた方が、兄上さんも気が(とが)めへんやろうし、兼継がどんな顔をするかなんて、考えただけでゾクゾクするやろ。それを見たいだけや」

見縊(みくび)らないでいただきたい! そのような話を兄が信じるとお思いですか!?」

「この体勢で、ソレが言える度胸に感心するわ」

「ぐ……っ、こ、このような(はずかし)めを受けて、真木が屈服すると思ったら大間違いです!」

「ふうん。なら屈服してもらおか」


 いきなり ぱん と乾いた音がして、頬に痛みが奔った。

 私に馬乗りになった首藤が、思いきり振りかぶり、何度も何度も平手打ちをする。

 唇の端が切れて 血の味が口に広がった。


「……っ」

「あんたらが黙って城を差し出せば、全部まるく収まるんや。東条は惣無事令(そうぶじれい)に違反せずに沼田城が手に入るし、真木はお家の()(つぶ)しを免れる。ええことづくめやないか。あんたはその為の人質や。こぉんな風に可愛がられたくなければ、 大人しくして?」


 首藤が私の胸ぐらを、乱暴に掴んで()()り起こし、血が(にじ)んだ唇の端をぺろりと舐める。


 気持ち悪い……のは、とりあえず置いておいて。


 殴りかかってきた時の顔が、大変楽しそうだった……思っていた以上の大変態だ。

 まずい……まずいぞ、これは。考え無しに暴れても、こっちが不利になるだけだ。

 ど……どうしたら……


 ――殺したくない、などと考えていては自分が死ぬぞ――


 肥後で清雅に言われた言葉を 不意に思い出す。

 ここは異世界の戦国時代だ、現世とは違うんだって、何度も思い知った(はず)なのに。

 本当に私は何をやっているんだろう。兼継殿の忠告ばかりじゃなく、清雅の忠告も()かせてない…… 


 ――抵抗するのを止め、ぎゅっと目を(つむ)った。

 これから先の事を考えると、怖くて怖くて泣きたくなる。


「……言うこと聞きますから……もう、乱暴なことはしないでください……」

「よしよし、ええ子やね」


 骨張った手が頬を撫で、冷たい感触が 引き結んだ唇に押し付けられる。

 そのままゆっくりと体重を掛けてきた首藤が 私を床に押し倒した。


変態狐//作中では「変態」と表現していますが、キャラクターの歪んだ性格に対する罵倒で、個人的な性的嗜好などに対する言葉ではありません。

あと今更書くのもアレですが、個人的に男キャラは ちょんまげではない設定で書いてます。

(ちょんまげ萌えの方は、脳内ちょんまげで読んで下さっても大丈夫です)




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