表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

280/383

280.小田原征伐1

伏線回収のターンですが、前半はモブの出番が多いです。

そして今まででいちばんR15に抵触しています。

そこらへんが苦手な方は、しばらく閲覧をお控え頂けるようお願いします。


 村はずれの(ひな)びた茶屋。

 茶を飲んでいた行商人風の男が、お道化(どけ)たような声を上げた。


「ありゃ。あんた、前は門番やったん? オレと一緒やね」

「あん? 商人が何いってんの?」


 団子を頬張(ほおば)った門馬が、胡散臭(うさんくさ)そうに目線を上げる。

「仕事を頼みたい」と言われて来た(はず)なのに、商人の身の上話が長々と続いていた。


「いやあオレ、もとは大阪城で城門警備やってたんや。ただ、ちょーっと下手(ヘタ)打ってもうて。聞いたことあらへん? 越後の神子姫様が、花見の宴で嵐を鎮めた話。そん時にな? 武隈に保護されとった神子姫様が、真木雪村の手引(てび)きで大阪城から逃げ出した。何で門を開けたんやーって、武隈のお殿様はそらもうお怒りで。見せしめの為にオレ、職を解かれたんや。家からも勘当(かんどう)されてもうて、仕方なく商人に」

「ふうん」

「それでな? 商売が軌道に乗って来た頃に、真木雪村がここの城代をやっとるって噂を聞いて。お詫び代わりにオレんとこの商品、割高で()うて貰おう(おも)て」

「いいんじゃね? どうでも」


 溜め息をついた門馬を見遣(みや)り、商人も吐息をついた。


「……オレが言うのも何やけど。あんた、忠誠心が皆無(かいむ)やな。お城(づと)め、向いてへんのちゃう?」

「はあ? 商人風情が偉そうな口をきいてんじゃねえよ! 俺は武士だぞ!? 自分の立場も見極められねーんじゃあ、あんたの方こそ(あきな)いなんて向いてな……」


 門馬の言葉が途中で止まる。その喉元には、団子の(くし)が突きつけられていた。


「ほうほう、勉強になりますわ。でもな? 立場っちゅうもんを見極められん挙句(あげく)に、雇い主を忘れるようじゃあ先が短い。気い付けてな?」


 にい と(わら)う商人の笑顔が(うす)ら寒い。

 膨れっ面を背けた耳元で、(おど)けた声が楽しげに(ささや)いた。


「オレら、真木雪村に人生狂わされたお仲間やないか。あいつがいらんことしいひんかったら、オレも『神子姫様をみすみす逃がした責任をとれ』なんて責められる事も無かったし、あんたも真木なんぞにへいこらする必要も無かったやろ?」

「……」

「なあ。せっかく知り合いになれたんや。仕返ししてやらへん? あんたもあいつ、嫌いなんやろ? どお?」

「どお? って言われてもな。城内で反物(たんもの)を高く売り(さば)きたいなんて、あんたしか得をしないだろ。それに俺は右筆(ゆうひつ)だから、むずかしい事は出来ねーよ」

「右筆? ……あんた、右筆かァ……」


 少し見開かれた狐目が、何か思いついたかのように にい、と細められた。



 ***************                *************** 


 久し振りに沼田に戻ったら、安芸さんから文が届いていた。


陰虎(かげとら)様が、真木の家族構成を知りたがっているようなの』


 安芸さんからは定期的に相模の情報が入ってくる。噂話から市場の様子まで内容はさまざまだけど、例えば「米の価格が上がった」という情報からは、兵糧の買い占めの可能性を疑える。

 噂話は、些細(ささい)に見えても大事な情報だ。

 ちなみに安芸さんは今、陰虎様ご正室(せいしつ)の花姫に仕えていて、その話は先日、陰虎様が花姫に(たず)ねているのを耳にしたらしい。


 どうして陰虎様がうちの家族構成を知りたいんだろう? もしかしたら花姫経由(けいゆ)で、影勝様が理由を聞いているかも知れないな。影勝様は花姫の兄君だから。


 そんな事を考えながら読み進めていると、文の最後に『首藤殿に、縁組の話があるみたいよ』と書き添えられていた。


『首藤殿』とは、陰虎様が養子として越後に居た頃からの腹心(ふくしん)だ。そして大雑把に説明すると『五年前に雪村が信濃に戻された件』の()()けになった人でもある。

 男色嗜好のこの人に雪村が目を付けられた時、兼継殿が(かば)ってくれた……という、乙女ゲームらしからぬイベントが、過去に発生している。

 安芸さんもその経緯を知っているから、わざわざ教えてくれたんだろう。


 個人的な嗜好(しこう)はともかく、首藤家も跡取りが必要ですしね。

 とりあえずおめでとうございます。


 私は安芸さんの気遣(きづか)いに感謝しつつ、丁寧にその文を仕舞(しま)った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ