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276.肥後遠征10


「馬鹿な…… どうして……」


 耳元で、茫然(ぼうぜん)とした清雅の声がした。

 騒ぎに気付いて甲板(かんぱん)に駆け付けた美成殿が、愕然(がくぜん)とした表情で私たちを見下ろしている。


 ほーらね? 私が言った通りでしょ?? 

 ドヤ顔したいけれど、さすがに失血の量が多すぎたのか貧血寸前みたいな視界だ。


「清雅殿……この能力で、舞田殿を」


 そこまで言ったところで、私の意識は暗転(あんてん)した。



 ***************                *************** 


「いやあ。お騒がせしました」


 布団から身を起こし、私は兄上にぺこりと頭を下げた。

 傷口は綺麗に(なお)ってくれたけど、失血による貧血は『治癒』の対象外らしく。私は意識を失ったまま船を降ろされて、気付いた時には上田に戻っていた。


 今回の件。

 徳山からの縁談は、最初から清雅を三河に呼び寄せるのが目的だったんだろう。

 そして道中で暗殺する為に、家臣を(よそお)った忍びを使者に立てた。

 理由は……美成殿と接触している事を気付かれて警戒されたか、もしくは炎虎討伐に徳山が(から)んでいた事の口封(くちふう)じか。

 利用した挙句(あげく)に暗殺を(たくら)むなんて、こっちの世界の徳山はやる事がエグいなあ。


 しかしそれが解ってはいても、証拠が全くない。

 徳山は使者に(ふみ)を持たせなかった。肝心の使者は取り逃がしたし、同じ船に乗っていたって証拠も無いんだから。


 清雅は、このまま知らぬ振りをして三河(みかわ)を訪問し、それが終わったら加賀(かが)へ行くと聞いた。

 舞田殿の病を『治癒(ちゆ)』しに行くと。それと。


 ()(いき)をついて、私は自分の身体を見下ろした。

 美成殿にこっそり問い合わせたけど、失血で気絶した時、私は『男の雪村』に戻っていないらしい。


『死にかけるほどの気絶』はトリガーじゃないのか……


 とりあえず、体調が落ち着いたら沼田に戻ろう。随分(ずいぶん)と長いこと、家臣たちに任せっぱなしにしてしまった。

 でもその前に一度、越後に行こうかな。

 ほむらがまだ復活していないから、桜姫のお迎えは出来ないけれど、『死にかけるほどの気絶』が戻る条件じゃなかった事は、桜井くんに知らせておきたい。


 それと……棺桶(かんおけ)に片足を突っ込んで、やっと気持ちが固まった。

 後悔しないように、出来るだけ身辺整理はしておこう。

 ここは戦国時代、いつ死んでもおかしくない世界なんだから。


 兼継殿に、髪紐(かみひも)を無くした事と約束を守れなかった事を謝る。

 そしてもしも許してくれたら、これからは『雪村おとこ』として友人付き合いをしよう。


 いろいろ悩んでいたけれど、私の気持ちを伝えたところで意味なんて無い。

 私はいずれ『雪村』に戻るんだから。

 兼継殿も「忘れてくれ」って言っていたし、そうするのが一番いい。


 ……だって気付いちゃったんだよ。

「実は男です」って伝えても、清雅が(ひる)まなかった時に。


 史実の戦国時代は衆道、いわゆる「武士同士のBL(ボーイズラブ)は当たり前」な価値観でも、ここは乙女ゲームの世界。


 BLどんと来いって世界観じゃない。


 兼継殿は私が『雪村』じゃないって知っているけど、兄上たちはそうじゃない。

 変なフラグを立てたら、雪村が戻って来た時に面倒くさい事になる……


 よし、桜姫のところに行った時、ついでに兼継殿とも話をしてこよう。


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