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272.肥後遠征6


首尾(しゅび)よくいったのか? 美成」


 たんこぶを作った清雅が、お酒を美成殿に()ぎながら聞いている。

 美成殿が杯をあおって にやりと笑った。


志摩(しま)(たちばな)からは念書(ねんしょ)が取れましたよ。『霊獣の神力は朝廷の意向(いこう)に従い、世の為に使う』とね。」

「ん? 富豊の為としなくていいのか?」

「ええ。霊獣を使役する大名、すべてから取るつもりですからね。霊獣の神力を富豊の為に使う義理は無い、そう思っている大名も居るでしょうが、朝廷の頂点に立つ(みかど)は神の系譜(けいふ)。帝の意向に従え。または世の為に使えと言われて、拒絶出来る者は居ないでしょう」

「まあ、それはそうだろうが……」


 それが富豊を守る事に繋がるか? といった顔つきで、清雅が首を傾げている。

 清雅から目を逸らし、美成殿がぽつんと呟いた。


「富豊の為とした場合、茂上(もがみ)は承服しないでしょうからね」

「……そうか」


 気まずそうに清雅も(うつむ)く。

 ゲームでは触れてなかったけれど、日本史では、最上家のお姫様が秀吉に処刑されるという事件がある。ふたりの様子から察するに、こっちの世界でも似たような事があったのかも知れない。


 私はお酒が呑めないので、白湯(さゆ)をちまちま飲みながら話を聞いていると、美成殿がちらりとこちらを見た。


「ここでの用は済んだ。さっさと帰りますよ、雪村。清雅、船の手配を頼む」

「お待ちください、美成殿。ほむらがまだ復活していません」

「そうだぞ美成。(しばら)く待て。どうしてもと言うなら、お前だけ帰れ」

「あんなものを見せられて、置いていける訳が無いでしょう!」


 目を吊り上げて、美成殿がブチ切れている。


 ……うん。そこは私もびっくりしたよ。

 まさか「男です」って教えても(ひる)まないとは思わなかった。



 ***************                *************** 


 この時代はフェリーの定期便がある訳じゃない。私たちは船の手配がつくのを肥後で待つことにした。

 ほむらは、復活したら清雅が届けてくれる事になった。『白猿の珠』を使えばすぐだからって。


+++


 船の手配がつかず足止(あしど)めを食らっていたある日。こめかみに刀傷がある無骨(ぶこつ)な武士が、肥後を訪れた。

 誰だろう? 美成殿とこっそり(のぞ)いてみると、徳山の使者だと名乗ったその人は、口頭で何かを伝えている。


 使者が帰った後。

 考え込んでいる清雅に、美成殿が軽く()りを入れた。


「このような辺鄙(へんぴ)な場所まで使者を送るなど、徳山はどのような用件ですか?」


 軽くディスっているけれど、美成殿自身が薩摩(さつま)筑後(ちくご)に出向いている状態だから、徳山の動きも気になるんだろう。

 曖昧(あいまい)(うなず)いて、清雅が腕を組んだ。


「徳山殿の養女(むすめ)との縁談話だ。炎虎討伐の褒賞としてそんな話が出ていた。その場でご辞退申し上げたつもりだったが……」

「ええっ? そんな事でわざわざ使者が来たのですか?」

「……」


 思わず聞き返し、私はちょっと考え込んだ。

 この時代の伝達手段は文がメインだけど、「使者から文を奪って情報を得る」なんて事はよくある話。だから秘密にしたい内容は使者が直接、口頭で伝える事がある。

 でも『縁談』って、秘密にしたいような話かな……?


 突然、美成殿の爆笑が響き渡り、私は意識を引き戻された。


「お前の縁談を「そんな事で」ですって! 聞きましたか、清雅!??」

(うるさ)い! わざわざ駄目押(だめお)しするな!!」

「えっ!? あの、申し訳ありません。縁談を(かろ)んじている訳ではなくて……!」


 わざわざ口頭で伝えるような話って、いわゆる『密談』『謀略』の(たぐい)だと思っていたから、縁談もそうなのかな? って思っただけだよ!

 だって美成殿が、志摩さんや橘さんに直接会いに行ったのだって、「いざという時は富豊に味方してね?」って打診(だしん)でしょ??


 慌てている私の肩を抱き、美成殿が涙目でにやりと(わら)う。


「見ましたか!? さっきの清雅の顔! 自分の縁談にお前が驚いた時、一瞬すごく嬉しそうな顔をしましたよ!? 馬鹿ですよねぇ!! 恥ずかしィィィ!!」

「うわああああああ!! 言うなァァ!!!」

「? ??」


 何が? 何の話??

 ()()って(わら)う美成殿と、頭を抱えて(うずくま)る清雅の落差が激しい。

 というか、何だか解らないけれど、美成殿のドSな哄笑っぷりが(すさ)まじ過ぎる。



「――とにかく!!」


 真っ赤になった自分のほっぺたを ぱん、と叩き、清雅が立ち直った。

 そして私と美成殿に、きりりとした表情を向ける。


「このような使者を立てられて、こちらが文で断るという訳にもいくまい。俺ももう一度、三河に出向かねばならなくなった。迷惑な話だ。『大名同士の婚姻の禁止』。惣無事令(そうぶじれい)と違って有名無実化しているが、これも秀好様が(のこ)された法令のひとつだ」


 なるほど清雅さん、そんな法令があるのですか。

 実は真木家も一応は大名なのですよ? 先日は、バッドエンドすれすれのイベントをぶちかまして下さいましたが。


 そこに美成殿も気が付いたらしく、ものすごく嬉しそうなドS微笑を再び浮かべ、清雅を見遣(みや)った。




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