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269.肥後遠征3


 黙って隣に座っていると、やがて清雅が頭を()いて立ち上がった。

 感情的になったのが恥ずかしくなったのか、不器用に苦笑して、こちらに手を差しだしてくる。


「霊獣を使役(しえき)する者と知り合ったのも、何かの(えん)だ。少し寄り道をしていいか?」


 上手く話を()()えられなくて困っていた私は、ほっとして清雅の手を取った。



 +++


 深緑の森を抜けて獣道を進み、更に()み込んだその奥に、小さな祠が建っていた。道なき道を迷いなく進んで来たって事は、清雅はここによく来ているんだろう。


 小さな扉を開けると、そこには黄金で出来た、小さな(たま)が安置されていた。

 宝玉にしては小さいし、何より「清雅が霊獣を使役している」なんてエピソードは聞いた事が無いけれど……。


「これは秀好様が使役されていた『霊獣・白猿(びゃくえん)』の珠のひとつだ。『白猿』の宝玉は、黄金の数珠(じゅず)の形を取っていた」


 ああ、それで。道理(どうり)でほむらの宝玉よりも小さい訳だ。

 清雅が(ふところ)から出した布で、小さな黄金を丁寧に()く。


「俺が肥後に移封(いふう)された頃、球磨川(くまがわ)には河童(かっぱ)が棲んでいてな。これがとんでもなく悪さをする厄介者だった。それで秀好様が白猿を一柱、俺に預けてくれた。河童の天敵は猿だからな。河童を追い払った後も、秀好様はそのまま土地の(まも)りにするようにと、俺に……」


 そこまで話して、扉をぱたりと閉める。


「これを徳山殿に知られる訳にはいかない。数珠の一部ではあるが、いずれこの白猿は秀夜様にお渡ししたい」


 そういえば『霊獣・白猿』は大量の猿の集合体で、ゲームの中国大返(ちゅうごくおおがえ)し(日本史では本能寺で信長が討たれた直後、中国地方で毛利と交戦中だった秀吉が、光秀を討つ為に速攻で戻って来たイベント)は、兵が猿を抱えて『(ひずみ)』を通り、ショートカット移動したって話だった。これはその猿のうちの一柱なんだろう。


 ん? ……珠が残っているって事は、本体の数珠もどこかにあるって事だよね? 

 秀好の死後、ゲームでも『白猿』の話は出てこない。


「本体の『白猿』を、秀夜様は継承しなかったのですか? そう言った話は聞いた事がありませんが」


 やっぱり気になるので訊ねてみると、ちょっと逡巡(しゅんじゅん)した清雅が口調を改めた。


「貴女は政所様の知己(ちき)と聞く。ならばお話しよう。もともと『白猿』の(あるじ)は秀好様ではない。政所様の家系が()いでいた霊獣を、秀好様に貸与(たいよ)されていたんだ」

「え?」


 それは初耳だ。こっちの世界では、そういう事になっているの? 

 ちょっと苦笑して、清雅が話を続ける。


「世間では口さがない者たちが、「秀夜様が霊獣を継承出来ないのは、秀好様の血を引いていないからだ」と言って居る様だが、本来の主は政所様なのだから当たり前だ。いや、政所様は秀夜様に、霊獣を譲渡(じょうと)するおつもりだったのだ。しかし徳山の霊獣嫌いを警戒した秀好様が、数珠をどこかに隠してしまった。――未だ『白猿』の数珠は、行方(ゆくえ)が知れない」


 炎虎を消滅させる為に、手段を選ばなかった徳山だ。まだ幼い秀夜様が霊獣を継承したら何をされるか判らないし、自分が亡くなった後、本来の持ち主である政所様に、危害が及ぶのも避けたかったのかも知れない。


 考え込んでいた私を、清雅がじっと見る。そして真剣な顔つきで(ささや)いた。


「これはごく限られた者――秀好様の縁者(えんじゃ)しか知らない話だ。くれぐれも他言無用(たごんむよう)に願いたい」

「はい」


 ゲームでは、この辺の事については触れられていないんです。

 せっかく大事な話をしてくれたのに、役立つ情報を教えられなくてごめんなさい。

 (うなず)きついでに、私は深々と頭を下げた。


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