25.越後侍女・暗躍 ~side S~
俺は自室で、まんじゅうを前にぶすくれていた。
「兼継の邸に一緒に連れて行け」という全力のおねだりと、渾身のチワワ演技も玉砕してしまったからだ。
今になって思うに、俺はハーレムよろしく女に取り巻かれて暮らすより、男の方が性に合っていたんだなーと思う。
いや、アッチな意味でなく。
乙女ゲームのノリで『雪村攻略』ばっかり考えていたけど、雪村と一緒に居たいのは、男同士でつるんでいるのが気楽だからかも知れない。
……と、越後の侍女衆に取り巻かれ、ハーレムのように暮らしている現状、しみじみと感じている次第でございます。
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「姫さま? そんなに拗ねていては、可愛いお顔が台無しですわ」
茶を置きながら、中年侍女がほほほと笑う。俺はむすりと侍女を睨んだ。
ついでに少し悔しがらせてやろうと、心にもなかった出まかせを口にしてみる。
「わたくしが兼継殿のお邸に行けば、いろいろと情報を流せたのに。雪村が兼継殿のお邸に居るのよ? 美味しくないの?」
「まあまあ姫さま! もうすっかり越後の女子ですわね!」
部屋にいる侍女衆がいっせいに色めき立つ。
お前らが一般人代表ヅラするなよ。世間一般の越後女子の皆さんに全力で謝れ。
そう思ったのに。
「そこら辺は抜かりありませんわ。兼継様のお邸の侍女衆とは連携済みです。明日には情報が上がってきますよ」
侍女衆が朗らかにおほほと笑った。
何だかもう、俺はどうしていいかわからない。
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翌日、兼継邸の侍女から届いた文には、兼継と雪村が夜中の庭園で密会していただの、寝間着姿の雪村に羽織をかけていただの、頭を撫でたりしていていい雰囲気だっただの書かれていたらしい。
どこで見ているんだよ。
隠密か? 越後の女どもは。
とりあえず俺は「雪村、今日はこっちに来んな」を全力で可愛らしく伝える手紙をしたためて、兼継の邸に届けてもらうことにした。
昨夜の事を根掘り葉掘り聞かれるだろうが。
あの朴念仁、天然で燃料を投下しかねない。




