表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

245/383

245.奥州恋歌3


 簀巻(すま)きにされたまま輿(こし)で運ばれ、気付くと山奥の山城(やまじろ)に運び込まれていた。

 そういえば、山麓(さんろく)に住む乳母(うば)が病気だと言って居たけど……


「ここは長谷堂城だ。母上とはここでお会いする事になっている」


 簀巻きから顔を出し、不思議そうに周囲を見回している私に、打掛(うちかけ)ごと私を抱いた正宗が耳元で(ささや)いてくる。


 長谷堂城(はせどうじょう)……! 

 まさかここで、長谷堂城の内部まで見られるとは思わなかった!! 

 しかし いきなり喜んでは不審(ふしん)に思われる。

 私はきりりと表情を引き締め、えいやっと打掛の簀巻きから脱出した。


「ここまで来てしまっては仕方がありません。母上様との面談が済むまで適当に時間を(つぶ)していますから、私の事はどうぞお(かま)いなく」

「馬鹿。お前も来るんだ」


 ぐいと腕を引かれ、ふと正宗が気付いた顔になる。


「髪は下ろせ、衣装と合わん」


 言うや(いな)や、正宗が私の髪に手を伸ばし、髪紐(かみひも)を解いた。


「!!」


 顔から一瞬で血の気が引く。兼継殿からもらった髪紐……!


「や……っ! 返して下さい!!」

「越後布の髪紐か。戻ったら返してやる」

「嫌です、今、返して下さい!」


 必死で手を伸ばし、正宗に取り(すが)ったけれど、正宗は髪紐を持った手を高く(かか)げて返してくれない。

 逆にとても大切にしている物だと(さっ)したらしく、面白くなさそうな顔つきで髪紐を自分の(ふところ)に突っ込んだ。


 胸元を押さえたまま、正宗がぎり、と(にら)みつけてくる。


「無事に返して欲しくば 俺の言う事を聞け。母上に挨拶(あいさつ)する。お前も来い」



 ***************                ***************


 部屋に通されたけれど、正宗の母上はなかなか来ない。

 待てど暮らせど来ないので、私はむすりとしたまま立ち上がった。


「……どこへ行く」

(かわや)です」

「おい! 女ならもう少し隠す素振(そぶ)りをしろ!!」

「そう思うなら話を広げないで下さいよ。変態ですか」


 お風呂を借りた時に、身体は侍女に見られている。今さら男の振りをしても無駄だ。ぐぬぬと黙った正宗は放っておいて、私はさっさと部屋を出た。



 (トイレ)を探す()りをして、私は城の正門前に立った。

 小さな山城の割には頑丈な門構(もんがま)えだけど、そんなに城攻(しろぜ)めに手子摺(てこず)るほどとは思えない。これなら城を囲むように掘られていた水堀(みずぼり)の方が厄介だろう。

 水掘に囲まれた城は()(くち)が限られている。侵攻ルートが読めるなら、そこに兵を配置して銃撃(じゅうげき)してくるだろうし。

 それにこの辺は水はけが悪い土地柄なのか、ここまでの道中も、やたらと道が泥濘(ぬかる)んでいた。足がとられた状態で銃撃なんかされたら、それこそ(たま)ったもんじゃない。


 この城を攻略するにはどうしたらいいんだろう。

 ここを落とさなければ茂上(もがみ)の本城、山形城(やまがたじょう)を攻められない。


長谷堂城(はせどうじょう)撤退戦(てったいせん)』の敗因のひとつは、ここを落とせなかったことだ。

 時間をかけずに落城させるには……


「ほむら」


 小さく(ささや)くと、炎を(まと)った霊獣がふわりと姿を現す。

 霊力が()きかけているせいか少し透けて見える炎虎に、私はこそりと耳打ちした。



+++


「おい!!」


 背後から急にがなり声が聞こえて、私はびくりと肩を震わせた。

 振り向くと、鬼のような形相(ぎょうそう)の正宗が立っている。そしてずかずかと近付いてきて、私の腕を強く引っ(つか)んだ。


「……逃げるつもりだったのか」

「迷子ですよ」


 ()()られるように連れて行かれながら、私は正門を振り返った。


 ほむら、疲れているのに無理させてごめん。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ