表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

240/383

240.前兆1 ~side S~


「……はい?」


 いつものように沼田に来て。いつも通りに荷を(ほど)いていた俺は、ぽかんとして雪を見返した。

 急展開すぎて頭が追いつかない。


「だ、だから……兼継殿に、す、すきって言われたんだけど。兼継ルートの方はどうなっているのかな、って……」


 言っているうちに恥ずかしくなったのか、雪が顔を真っ赤にして(うつむ)いた。


 ええ!? いつの間に!?? どうして気付かなかったんだろう。

 そういえば越後を出る時、このふたりってどんな感じだったっけ? ああそうだ。兼継が城主をやっている坂戸(さかと)城でトラブルがあったとかで、兼継が居なかったんだ。



「あんたは回りくどいんだよ。雪は(にぶ)いからさ、はっきり言わないと解んないよ?」


 確かに俺は兼継にそう言った。

 そして兼継がはっきり言った、そういう事か。


 あの野郎……。

 雪が男に戻った時にお互い(つら)くなる、と思いやったのが間違いだった。いや、まあとりあえずそれは置いておいて。


「ええと、少し前に兼継に縁談がきたって聞いて……その時に頓挫(とんざ)したっていうか? 言いそびれていてごめん」


 実際のところ、大阪夏(おおさかなつ)(じん)まで雪が女のままで乗り切るつもりなら、ルートなんて今更(いまさら)どうでもいいだろう。それに(こと)ここに(いた)っては、『桜姫が兼継ルートを進めている』なんて設定は邪魔なだけだ。


 とりあえずここは、素直に祝福するターンだろう。

 乙女ゲームらしく恋愛成就したんだから。


「良かったじゃん。おめでとう!」


 (ひじ)で突きながら雪を祝福したけれど、雪は曖昧(あいまい)微笑(ほほえ)んだまま何も言わない。

 ちょっと不思議に思いながら俺は言葉を続けた。


「あのさ、俺は雪がのままでもいいと思うよ? どうせ男なら数年で死ぬ(はず)だったんだ。雪村だって納得するさ」

「ううん。時期が来たらちゃんと(ゆきむら)に戻るよ。そして私は現世に帰る」

「え?」


 両思いになったのに? 

 予想に反した躊躇(ちゅうちょ)のない言い方に、逆に俺は呆気(あっけ)にとられた。


「だって雪も、兼継のことが好きなんじゃないの?」

「好きだよ。だからだよ」


 きょとんとしている俺に、雪が苦笑する。


「この時代は現代と違って『跡取(あとと)り』が必須なの。お(いえ)断絶(だんぜつ)しちゃうから。兼継殿は直枝家の跡取りだからね、契ったら男に戻る私じゃ無理だよ」

「いや、でもさ。兼継はそれを知っていて言っている訳だろ? 子供が作れなくても大事にしてくれるよ。俺が言うのも何だけど、あいつは義理堅(ぎりがた)いし、真面目(まじめ)だし」

縁組(えんぐみ)は家と家との問題だから、好き嫌いで決められるものじゃないよ。私がここに残ると直枝家の迷惑になる。だからね」


 雪がじっと俺を見る。


「『契る以外で、雪村に戻る方法があった』って事は内緒にする。……あのね、兼継殿が「ここに残って欲しい」って言ってくれたの。でもこの事を兼継殿が知ったら、きっとどうしていいか解らなくなるよね。だから大阪夏の陣が終わるまでに、私自身でその方法を見つけて、雪村に戻るよ」


 俺が何も言わないからか、雪は俺の方を見ないまま 言葉を続ける。


「兼継殿は『契る以外に方法は無い』って思っているから、自分が契りさえしなければ『雪村』に戻らないと思っている。それで「雪村に戻さない兼継殿じぶんが悪いんだから気にするな」って言ってくれた。でも私は兼継殿に負担に思われたくないし、後悔もさせたくないんだ。それで幸福な未来を(おく)って帰りたい。ちゃんと家を()いで、どこかのお姫様をお嫁さんに(もら)って……子供が生まれて。おじいちゃんになって家督(かとく)(ゆず)ったら、孫に囲まれてのんびり本を読んでいられるような、そんな未来。……私じゃ無理なの。でもここに居る間は仲良く過ごしたいし、ケンカ別れはしたくない。だから桜井くんも協力してね?」

「でも……雪は、それでいいのか?」

「うん」



 頭を()いておどけた雪が、照れ笑いをする。


「とりあえず『意識を失いっぱなしにする方法』を探すところから協力してよ。結局(けっきょく)見つけられなくて兼継殿に「契って戻して下さい」なんて言う羽目(はめ)になったら台無(だいな)しだよね」


 あははと笑った声が少し(ふる)えていたけれど。

 俺も笑って 気付かなかった振りをした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ