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231.小夏姫見参7


()()な聞こえる 女のがすすり泣き』の出所(でどころ)が判った。

 深々と頭を下げる小夏姫を見つめたまま、私は何て伝えるべきか解らなくて途方(とほう)に暮れてしまった。


 昼間に感じた違和感の正体。それは『世界間転移』の気配だった。小夏姫も雪村と同じく、『プレイヤーの転移者』に入られた。

 違うのは、私は“雪村を戻したい”ことで、小夏姫は“転移者を追い出したい”こと。


 そしてどちらにしろ、その方法が解らない。


「どうする? 雪」


 桜井くんが(ささや)いた。

 どうするもこうするも。逆パターンとはいえ、兼継殿ですら方法を見つけられない難問だよ……。


 私に解るのは『雪村が居なくなった時は、すごくショックな事があった』ってことくらい。そしてやっぱりこれは、無かった(はず)の『破談』を修正する『歴史の修正力』の発動なんだろうか。


「私たちは小夏姫の味方です。一緒に方法を考えましょう」


 気休めしか言えないけれど、ずっとひとりで耐えていた小夏姫は、最後に少しだけ笑ってくれた。



 解決方法が見つからないまま、夜は更けていく。

 三人目の『転移者』。

 桜井くんは私と同盟を結んでくれたけど、今度の『転移者』はどう出るだろう。



 ***************                ***************


 城内の雰囲気(ふんいき)がおかしい気がする。


 翌日、私は兄上が執務(しつむ)に使っている部屋で、何となく違和感を覚えたまま、家老の宇野(六郎の父君ね)と打ち合わせをしていた。


「信倖様は現在、岩櫃城(いわびつじょう)にて現状の把握(はあく)に努めて居られます」


 徳山や本間に 此度(こたび)の件を問い合わせている、と宇野が声を(ひそ)めて(みみう)打ちする。

 よく考えなくても、嫁入り前のお姫様が破談になった人の家に押しかけてきて居座(いすわ)るなんて、普通におかしい。兄上もそう思ったんだろう。


「それで兄上はいつ頃、お帰りに」

「申し上げます!」


 話の途中で慌ただしく障子(しょうじ)が開き、宇野がじろりと家臣を(にら)みつけた。


「話の途中だ。後にせよ」

「しかし」

「どうした?」


 ただならない雰囲気を感じて(うなが)すと、家臣がとんでもない事を言い出した。


「小夏姫が『雪村様は()()偽物(ニセモノ)女子(おなご)になる病などある訳が無い』と中庭で(さわ)いでおります。その、それを聞いて動揺(どうよう)している者もおりまして……」


 私と宇野は思わず顔を見合わせた。


 ……『転移者』同士が、同盟を結べるとは限らない。



 ***************                ***************


 中庭に駆けつけた私と宇野を指さして、小夏姫が糾弾(きゅうだん)してきた。


「男が女になる訳がないでしょ!? 乙女ゲーでTSなんてマジふざけんなって感じだし! だいたいそんな話を本気で信じる方がどうかしてるっつーの! どいつもこいつもバカじゃない!?」

「こいつはねぇ、偽物なの! 中身はゲームのプレイヤーだし!!」


 真っ赤な顔で、意味不明の単語を絶叫する小夏姫を、家臣も侍女も遠巻(とおま)きにして(なが)めている。

 え? これもTS(性転換モノ)なの?? 雪村はこの身体になった途端(とたん)に弾かれたし、私は女で女の身体って認識だけど。


 いや、とりあえずそれはどうでもいい。

 ……もしかしてこの転移者、『カオス戦国』の世界に本当に異世界転移しているって事に、気付いていない? 

 桜井くんも「寝ている間に来ている」って言っていたし、夢だと思っている?

 だいたいそうでなきゃ『中身はゲームのプレイヤー』なんて、正気(しょうき)を疑われるような台詞(せりふ)を、こんなに堂々と言えないよね?


 と、思った私が甘かった。


 籠絡(ろうらく)されている家臣は予想以上に多く、ちらちらとこちらに不審(ふしん)げな視線を向けてくる者がけっこう居る。


 宇野が私を(かば)うように前に立ち、その雰囲気に小夏姫が、腹の底から笑いながら私を指さした。


「あーっはははっ! ほぉーら何にも言えないじゃない!? こいつはぁ信倖さまを(だま)している極悪人よ!? (ろう)にぶち込みなさい!!」

「雪村様、俺も不思議には思っていたんです。男が女になる病なんて、本当にあるのかって」

「信倖様が何もおっしゃらないから言いませんでしたが……貴女は本当に雪村様なのですか?」


 じわじわと家臣達が縁側(えんがわ)に近付いてくる。怖い。

 血の気が引いて、私は宇野の小袖(こそで)(つか)んだ。


 そりゃ『女になる病』なんて無茶苦茶な言い分だとは思うけど、まさかこんな事になるなんて……! 

 そして皆、小夏姫の()(ぶん)を信じるの!?? 


(ひか)えよ! お前達は(おのれ)が何を言っているか 解っておるのか! そして小夏姫、貴女にそのような権限(けんげん)はありませんぞ!!」


 宇野が一喝(いっかつ)したけれど、場は(おさ)まらない。どうしよう、どうしよう!




「控えろ」


 大きくないのによく通る声がして、家臣たちが一斉(いっせい)に静まった。


「何の騒ぎだよ。宇野、どうしたのこれ?」


 ゆるい空気を(まと)って、兄上が上田に戻ってきた。





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