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215.正宗再来9


「おい! 近くに用があったから寄ってやったぞ!」


 黒の小袖(こそで)に金糸銀糸の刺繍(ししゅう)(ほどこ)した ド派手な(よそお)いの正宗が、颯爽(さっそう)と独眼竜から飛び降りてきたのは、それから数日後だった。


 今日は気温が高いけれど、黒い小袖で暑くないんだろうか。いや、それよりそんな独特なデザインの小袖を着て、一体どんな用事だろう。


「相変わらずお洒落(しゃれ)な装いですね。(かぶ)(もの)の集会にでも行ってらしたのですか?」

「相変わらずお前は口が()らないな。それだとここが傾き者の集会所という事になるぞ」

「ここが目的地なら、「近くに用があった」とは言いませんよ」


 こういう()()りも初めてではないので、私も家臣達も慣れたものだ。

 しかし今回に限ってはちょうど良かった。


「今日は正宗殿に お願いがあるのです」

「回れ右してそのまま帰れ、というお願いなら聞かんぞ」


 珍しく私が歓迎(かんげい)()を表したのに、正宗は逆に警戒(けいかい)した顔つきになった。



***************                *************** 


(くわ)の実がたくさん()れたので、ジャ……たれのような物を作ってみたのです。それを使って軽食を作りたいのですが、上手くいかなくて……。料理上手な正宗殿の意見が聞けたらと」


 そう言いながら(つぼ)の蓋を開けると、何だか変な匂いがした、気がする。


「え? あれ??」

発酵(はっこう)してるんじゃないか? これ」


 隣から(のぞ)き込んできた正宗がふんふんと匂いを()ぎ、壺の中に指を突っ込んだ。

 発酵……発酵だと!? 何だそれ! 


「酒のようになりかかっている、という意味だ」


 ぽかんとしている私に、指を()めて味を確かめた正宗が説明してくれる。

 いえ、そっちじゃなく。何でジャムがそんな事に!?


蜂蜜(はちみつ)を桑の汁と混ぜたからじゃないか? 糖度(とうど)が低いとこうなるんだ」

「蜂蜜って、そういうものなのですか?」

「水と混ぜて放置(ほうち)するだけで、蜂蜜は酒になる」


 あっさりと言った後で、正宗がにやりと笑った。


「俺の意見が聞きたいと言ったな? よぉし、あるだけ桑の実を持ってこい!」


 正宗が声高(こえたから)らかに、(くりや)勤務の家臣たちに命令した。



 ~~~


 正宗が作ったのは、葛餅(くずもち)に桑の実を煮詰(につ)めただけのジャムを掛けたお菓子だった。涼しげで、少しだけ()らした水飴(みずあめ)のほんのりとした甘みと、素材の味が生きた甘酸(あまず)っぱいジャムが合っていて、とても美味しい。


「美味しいです! 見た目も涼しげで美しいですし、暑くて食欲が無くてもいくらでも食べられそうです。正宗殿は本当にお料理が上手ですね」


 もぐもぐ試食しながら手放しで()めると、ドヤ顔で調子に乗ると思っていた正宗が、ちょっと()ねた顔になった。


「お前は俺の料理しか褒めんな」

「そんな事はありませんよ」


 笑って誤魔化(ごまか)した私に、正宗がへえ、と言いながら意味深(いみしん)に笑う。


「なら他には何だ? ちょっと俺を()めてみろ」

「そうですね……塩むすびの塩加減(かげん)絶妙(ぜつみょう)で、野菜の皮むきが早くて」

「おい、他にも何かあるだろう!? お洒落(しゃれ)ですねとか恰好(カッコ)いいとか!!」

自己申告(じこしんこく)は恰好悪いです」


 キレた正宗が私を羽交(はが)()めにしてきたので、私は正宗の足をどすりと()みつけて(なん)を逃れた。




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