21.逃亡の姫と越後逗留 ~side S~
目を開けると、そこは知らない部屋だった。
ばりばりと肩口を掻きながら起き上った俺は、改めて辺りを見回す。
何が起こっていたんだっけ?
ああそうだ。大阪城で神力を発現して、雪村に連れられて逃げ出したんだった。
「このままここに居座った場合、大阪城から出られる保証はありません」と美成に脅されたから。
越後へ向かっていたんだから、ここは春日山城か?
なにぶんゲームと展開が違うから どうなったのか先が解らない。
今のところゲームの方は、兼継、美成、信倖までは攻略したけど、どのルートでもこんな展開になってない。
というか、大阪での『花見の宴』は共通ルートだから、展開が一緒だった。
残るは雪村と家靖、正宗、清雅だが、正宗と清雅はまだ会ってすらいないから、こいつらは関係ないだろう。
家靖だって、面通しが終わったばかりだから違うだろ?
という事は……これは『雪村ルート』なのか?
メインヒーローだから展開が違う、って事は十分あり得る。
雪村のシナリオが一番凝っているだろうから最後にやろう、と残しておいたが、こんな事なら先にやっとくべきだった。
よし、今やっている正宗ルートは止めて、雪村ルートに入りなおそう。
と思っても、起きたらここでの出来事は全部忘れちまうから、どうにもならないんだけどな。
ただ、こっちで受けたダメージは、地味に現実の身体にも影響していて、昨日は起きたら身体がばりっばりに凝っていた。
大阪から逃げる時は炎虎に乗せられたけど、俺は着物だから虎を跨ぐわけにいかなくて、雪村に抱きかかえられていた。
そうなると、雪村の小袖しか掴むとこが無かったんだよな。
そんな不安定な状態で虎に乗るだけでも大変なのに、怨霊にも出くわしたから、振り落とされないようにするのに必死だった。
あいつ、討伐になると人が変わるぞ。
雪村が「春日山城が見えた」と言ったのまでは覚えているけど、それ以降は記憶がない。
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「姫さま、もうお目覚めになられましたか?」
部屋の外から女の声が聞こえて、返事も待たずに襖が開かれた。
愛想のいい中年の侍女が、小袖を持って入ってくる。
さあ、越後で初めての選択肢だ。
① 「おはようございます」と元気にあいさつ
② 人見知りの振りをして、まずは様子見する
俺はどのキャラでいくべきか一瞬迷い、結局『人見知り』を選択する事にした。
「……おはようございます……あの、雪村は……?」
あの過保護なチワワ好きが、俺を放置するなんて信じられない。
ここに着くまで、すげえ数の怨霊を斬り伏せてきたし、どこか怪我でもしていたのかと心配になるじゃないか。
そんな俺に、あらあら といった顔をして、中年侍女は笑いを噛み殺した。
「本当に人見知りでいらっしゃるのねぇ。雪村ならもう来ていますよ。さあさあ、御髪を整えましょうね。いくら気が急いても、殿方と会うのにそのままはいけませんわ」
その言葉が終わらないうちに侍女がふたり入ってきて、俺の身支度を手伝い始める。
あれ?
武隈邸での扱いと違いすぎて、俺は軽く戸惑った。
あっちでは克頼にウザがられていたから、侍女も主人の意を汲んで、最低限の事しかしてくれなかったからな。
その流れで、俺はやっと放置してきたオニイサマの事を思い出した。
嵐を鎮めて以降、あいつがどこで何をしていたのか、全然覚えていない。
俺が大阪から逃げ出した後、克頼はどうしたんだろう。




