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207.お告げと嘘と個別ルート1


「影勝様、謝罪(しゃざい)が遅れてしまい申し訳ありませんでした。せっかくいただいた(こい)を、あのような事にしてしまって……」

「うむ」


 深々と頭を下げている私の前で、影勝様が居心地(いごこち)悪そうに身じろいでいる。


 先刻(さっき)、兼継殿から耳打(みみう)ちされたんだけど。影勝様は『五年前に雪村に鯉をあげた』事をすっかり忘れていたそうだ。

 挙句(あげく)に兼継殿と泉水殿と桜姫から「随分(ずいぶん)と長いこと気に()んでいますので、許してあげて下さい」と、一斉(いっせい)に頼まれてしまったそうで、影勝様の方がずっと気まずそうです……。



 ***************                ***************


 去年の秋からの懸案事項(しんぱいごと)がすっきりして、私はほっと息をついた。

 きっとこれでハトこも心置(こころお)きなく昇天できる。


 改めてお()びを伝え、部屋を()そうと立ち上がりかけたら、影勝様が珍しく「少し聞きたい事がある」と引き留めてきた。

 昔から無口な人だから、こういうのはとても珍しい。

 私は興味津々(きょうみしんしん)で「私にお答えできる事でしょうか?」と座り直した。


「……最近の、桜姫はどうだ」


 影勝様はちょっと黙った後、淡々と聞いてきた。

 桜姫? そんなの、雪村に聞くより侍女衆に聞いた方が良くない?? それとも「沼田ではどう?」ってこと?


「沼田にお越しの間は お変わりないかと思いますが……何かありましたか?」


 神妙(しんみょう)な顔つきで黙っていた影勝様が、やがて重い口を開く。


「兼継が、毘沙門天の啓示(けいじ)を受けたと言っていた。……桜姫を 天に(かえ)す、と」

「えっ!?」


 私は心底仰天(ぎょうてん)して、まじまじと影勝様を見返した。

 驚いている私を、影勝様もじっと見返してくる。だってそれって……!


 ……個別ルートに入った合図のイベントだ!! 


『カオス戦国』は、共通ルートの恋愛イベントが終わった時点で『毘沙門天(びしゃもんてん)のお告げイベント』というモノが発生する。

 桜姫の夢枕(ゆめまくら)に立った毘沙門天(剣神公)が『世を乱す前に天に還す』と伝えてきて、それを姫が『任意の武将(攻略対象)』に伝えるイベントなんだけど……

 共通ルートで複数のキャラのフラグを立てていても、ここで選んだ武将のルートに確定する、最重要分岐(ぶんき)イベントだ。


 ええ、ちょっと待って? 

『兼継恋愛イベント』は()の二までしか起こしていないのに、何でもう個別ルートに入ったの?? 

 好感度が個別ルートに入れるくらい()まったってこと!? 

『恋愛イベント其の一』で大失敗したっぽいのに、どんだけ成功したのよ『イベント其の二』!?


 そもそも何で桜姫じゃなく、兼継殿の夢枕に……!?


 びっくりしすぎて何て言っていいかわかんない。

 と、とりあえず桜井くんに確認を……!


「影勝様、御前(ごぜん)、失礼します!」

「……!」


 私は(あわ)てて部屋を飛び出したので、影勝様の制止を聞きそびれた。



 ***************                ***************


 勢い込んで桜姫の部屋に()け込んだけど、部屋はもぬけの(から)だった。


 どこに行ったんだろう、越後での桜姫の行動範囲は広くない。

 というか奥御殿から・もっと言えば自室からすら(ほとん)ど出ないのに。


 (かわや)かな? 

 いや、桜井くん「美少女はトイレに行かない」ってドヤっていたしな。


 そんな事を考えながら庭に降りて(あた)りを見回していると、(おく)まった庭木の向こうに 見覚えのあるピンク色の後ろ姿が見えた。

 珍しく 庭を散策(さんさく)していたみたい。


「桜ひ……」


 途中で口を押えて、私は慌てて()()の陰に(かく)れた。

 奥まっていて見えなかったけれど、庭の奥には桜姫の他に もうひとり。


 ……うっかり 兼継殿との密会現場(デート)に 乱入するところだった。



 ***************                ***************


 口を押えたまま、私は身動(みじろ)ぎも出来ずに固まった。

 どうしよう。これ、漫画やゲームでありがちな「こっそり会話を聞いちゃう」系のイベントでは……?


 あれ? でも『桜姫と兼継殿が庭で密会する』恋愛イベントってあったかな? 

 そもそもあのふたり、どんな会話をしているんだろう。


 ……何だか急に興味が()いてきた。


 あの恋愛沙汰(ざた)淡白(たんぱく)な兼継殿を、桜井くんはどうやって(くど)説いているんだろう。

 そう思うと、いてもたってもいられなくなり、私はそっと木陰(こかげ)から顔を出した。



 目の前に 桜姫と兼継殿が無言で立っていて 

 私は仰天(ぎょうてん)して飛び上がった。



「ぎゃあ!」

「うわっ!」


 思わず化け物でも見たかのような悲鳴を上げてしまい、つられたらしき桜姫も悲鳴を上げる。


「どどどどうしたんですか、桜姫!? 何故、わたしが居ると」

「だって雪村、わたくしを呼んだじゃない」


 聞こえていたのか。いやまあそうですよね、呼びました。

 気まずいのとびっくりしたのとで、動揺(どうよう)しまくりだ。


「なあに? 何かご用?」

「ええと」


 桜姫は可愛らしく聞いてくるけど、(となり)には兼継殿が居る。

「どうやって兼継殿を口説いてたんですか」って聞きづらい……

 席を外してくれないかな。

 もごもごしながら ちらりと兼継殿を見たら、桜姫が意味深(いみしん)にふふふと笑った。


「兼継殿にご用事ね? わたくしのお話は終わったの。どうぞ ごゆっくり」


 おほほと笑って、桜姫の方が席を外してしまった。


 ち、ちがう、逆だよ!!





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