表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/383

192.『正宗の手作りお菓子』イベント勃発2


「ああ、もうこんな時間ですね。そろそろ戻らなければ」


 いつの間にか夕焼けで周囲が紅く染まっている。

 陽が(かげ)って ふと見上げると、(のぞ)き込んでくる正宗と至近距離で視線がぶつかった。普段は隠れている右目が、夕焼けを溶かし込んだみたいで綺麗(きれい)だ。


 厨二設定なのは置いといて、こんなに綺麗なのにお母さんに嫌われるって可哀そうだなぁ。

 そんな事をぼんやり考えていると、正宗がちょっとだけ表情を改めた。


「帰るか。じゃあ土産をやる。目を(つむ)れ」


 ……またかすてらを食べさせてくれるの? それともお土産(みやげ)を渡すってこと? 

 どっちだろう。


 口を開けて待つべきなのか、手土産を受け取るポーズで待つべきか迷ったけれど、口を開けていて手土産だった場合が間抜(まぬ)けすぎる。

 とりあえず私は、目を瞑って 手を差し出した。




 何かが唇に触れる感覚と同時に、ぱちんと静電気みたいな音がして、私は驚いて目を開けた。

 思ったより至近距離で、正宗が口を抑えてくつくつと笑っている。


 あれ? 口を開けて待つべきだった? でも今の音、なに?? 

 何が起きたのか解らなくて正宗を見上げていると、私の手に小振(こぶ)りの風呂敷(ふろしき)包みが置かれた。


「これは帰って食え。今日は馳走(ちそう)になった」

「?」


 食べさせてもらったの、こっちなんだけどな。



 ***************                ***************


 越後に戻ると、桜姫の部屋に兼継殿が来ていた。

「正宗殿がお礼を渡したいと言っていましたよ」と行く前に伝えていたから、手間を(はぶ)いてくれたんだろう。


「桜姫、兼継殿、ただいま戻りました。お待たせして申し訳ありません」


 私はさっそく、正宗からもらった風呂敷包みを姫に渡した。

 バニラエッセンスは入ってないけど、素材の優しい香りが(ただよ)っている。


「先日、兼継殿にお世話になったお礼にと 正宗殿から預かってきました。お手製のかすてらだそうですよ」

「まあすごい! わたくし、厨房(ちゅうぼう)に行ってお茶を()れてくれるように伝えてくるわ!」


 あっという間に部屋から飛び出した姫を見送り、私は改めて兼継殿に向き直った。


「お礼の品がお菓子なので、姫に渡してしまいましたが、良かったでしょうか?」

「構わない。ところで雪村、今日の討伐は手強(てごわ)い怨霊でも出たのか?」

「いいえ、そんな事はありませんが何故ですか?」


 兼継殿の手が伸び、私の左肩の後ろあたりに触れると、そのままひょいと私の目の前に(かざ)してきた。

 その指先には裂けた符が()ままれている。


「念の為につけておいた『身代わりの符』が使われている。何かあったか?」

「え!?」


 それって……! 私は慌てて兼継殿の(そで)にしがみつき、手元を見つめた。



――「身代わりの符だ。お前は無茶をするからな。これがあれば一度だけ、どのような危害からも(まも)られる。普段使いの(よろい)にでも付けておけ」――



 女の身体になった直後、兼継殿が鎧につけてくれた護符(ごふ)……!


 何で? どうして!? 今日はそんな手強い怨霊なんて出なかった。

 これ、大阪夏の陣まで大事にしようと思っていた符だったのに……!


「……何故なのか、わかりません……」


 茫然(ぼうぜん)としている私の肩を(つか)み、兼継殿が真剣な表情で 私の顔を(のぞ)き込んでくる。


「思い出せ。館に何かされなかったか」

「何か……?」


 茫然としながら私は、かすてらを貰う直前の 静電気みたいな音を思い出した。

 唇に何か触れた気がした途端(とたん)に 音がしたけれど……


 ふと、私の顔を覗き込んで笑っていた正宗を思い出す。

 あれ、かすてらの感触じゃなかった。


 ……今更気づくのも遅いけれど……あれって もしかして……キ………… 

 

 でも『身代わりの護符』ってそんな事で発動するの?


 私は唇に触れて、兼継殿を見上げた。

 何となく、馬鹿正直に言うのが躊躇(ためら)われる。


「正宗殿にお菓子を頂いた時に、何か音がしました」

「何故、それで符が発動する」

「目を瞑っていたので よく分かりません……」


 目を瞑っていたから見ていない

 それだけで兼続殿は何かを察したのか、すっと目を(すが)めて溜息(ためいき)をついた。


「……お前には、くれぐれも油断はするなと念を押したはずだが」


 油断も何も。正宗がそんな事をするとは思っていないし、実際のところは見てないから判らない。

 それにまさか『死をも無効にする万能符』が、たかだかキスを『攻撃』とみなすとは思わないじゃないですか。


 とりあえずそんな事はどうでもいい。

 問題は『大切な護符が台無(だいな)しになった』って事だ。


 改めてそう考えると、だんだん血の気が引いてきた。

 私は『死ぬような大怪我(おおけが)をしても無効になる』チート札を失ったのだ。


 肩を掴む兼継殿の手に力が入り、私は意識を引き戻された。


「何故お前は館の前で、目を瞑るような状況に置かれた?」

「そんな事どうでもいいです! 兼継殿、私、いただいた大切な符を駄目にしてしまいました……!」

「そんな事……?」

「『そんな事』ですよ! 正宗殿が、何かしたところで悪ふざけです。あの人は私のことを男子(おのこ)だと思っているんですから。そんな事で……せっかく頂いた大事な護符が……!!」

「お前はまだそんな事を言っているのか! 館がそう思っている訳がなかろう。少しは自覚しろ!」


 兼継殿が大きな声を出してきたから、思わず私も言い返した。もう泣きそうだ。


「正宗殿に口づけられたからって何なんですか!? その程度のこと、別に生き死ににかかわる事じゃありません。どうだって」


 いいです、そう続けるつもりだった言葉が、兼継殿に唇を塞がれて消えた。




調べてみたら、70話の「鍛錬終了」のネタ回収でした。

今回で192話ですよ、遅すぎる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] いい歳してこんな感想書いていいのかどうか分かりませんが、萌死にそうになりました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ