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191.『正宗の手作りお菓子』イベント勃発1

 すっかり忘れた頃に「北の怨霊退治(おんりょうたいじ)がまだだぞ。手伝いに来い」と正宗から招集(しょうしゅう)がかかった。

 こんなに時間が()いたのに、まだやってなかったのか。


「独眼竜を(まつ)ったのですから瘴気(しょうき)は薄まったでしょう。この際に討伐隊(とうばつたい)を組織して、弱った怨霊相手に実戦してみるのも手ですよ」


 そんな感じの返信をしてみる。

 龍を祀っていても『(ひずみ)』が開かない訳じゃないからね。備えあれば憂いなしだ。

 聞き入れてくれるといいなぁと思っていたけど、正宗がそんなに殊勝(しゅしょう)な訳がない。案の定「約束は守れ」と、提案をあっさり蹴飛(けと)ばす内容の(ふみ)が返って来る。

 しかしそれに続く文言もんごんに、私は内心、小躍(こおど)りした。


「つべこべ言わずに来い。先日、龍を祀る際に世話になった。礼がしたい」


 文にはそのように書かれていたからだ。

『正宗の手作りお菓子』イベントだ! やっとフラグがたった!  


 これは『正宗から怨霊退治手伝いの依頼がきた時に『雪村に行ってもらう』を選択すると、数日後に雪村が「正宗の手作りお菓子」を持ち帰る』イベントが発生する。

 これが起きると雪村ルートと通常ルートのエンディングが少し変化して、大阪夏の陣後に桜姫が館軍(たてぐん)に保護されるイベントが挿入(そうにゅう)される。

 桜姫の今後を考えるなら、是非(ぜひ)とも起こしておきたいイベントだったのだ。


 正宗には関わるな、と兼継殿には言われているけれど、礼をくれると言うんだから駄目だとは言わないだろう。


『近いうちにお邪魔します』と返事を返して、私は桜姫の都合を聞く事にした。



 ***************                ***************


 桜姫にお泊りの都合をつけて(もら)い、私は簡単な戦支度(いくさじたく)だけで奥州を訪れた。


 今回の討伐(とうばつ)は奥州の北だから『歪』なしでは、ほむらを()ってもちょっと遠い。

 討伐が終わった日だけ、越後にお泊りさせて貰う予定だ。

 それに正宗からの『お礼』も渡さなきゃだしね。

 兼継殿はお菓子なんて食べないだろうから、桜姫にあげてしまってもいいだろう。



 北側の怨霊は、独眼竜の神力復活が効いたのか、さほどの手間もなく片が付いた。


「もうこれで全部片付きましたか?」

「ああ。『歪』はこれが最後だ」


 右目の眼帯を外して、周囲の霊力を探っていた正宗が、ふと気付いた顔になる。


「おい。この『歪』を残しておけば、奥州に来るのが楽になるか?」

「楽にはなるでしょうが、もう来ませんよ。怨霊がいないなら来る意味もありません」

「なるほど。じゃあここは(ふさ)がず残しておく。いつでも遊びに来るといい」

「人の話を聞いていますか?」


 また怨霊を復活させる気だろうか。もともとさんざんズボラな事をしていたんだから、ちゃんと『歪』は管理しないと、あっという間に元通りだと思う。

 でも余計な事を言って『手作りお菓子』を(もら)(そこ)ねるとまずいので、私はさらりと聞き流す事にした。



 ***************                ***************


「では正宗殿、私はそろそろ戻ります。越後にも寄らなければなりませんし」


 怨霊討伐は終わったのに、なかなか帰ろうとしない正宗に(しび)れを切らし、私は「早くお礼を寄越(よこ)して下さい」の意味を込めて「越後(えちご)」の名を出した。

 兼継殿にお礼があるんですよね? さあさあ。


「おお、忘れておったわ」


 (うそぶ)きながら、正宗が(かたわ)らに置かれていた荷物の中から、小さな包みを引き寄せる。そしてにやりと笑って私を見た。


「いいものをやる。目を(つむ)って口をあけろ」

「?」

「いいから」


 仕方(しかた)なく口を開けて目を瞑ると、口の中にふかふかの(かたまり)が入ってくる。

 ふわりとした柔らかな食感、優しい甘さ、口の中の水分を全吸収するこの感覚……これは間違いなくカステラだ。


「おいしいです!」

「俺が作ったんだ、当たり前だろ」


 もぐもぐ食べながら()めると、正宗がまんざらでもない顔になる。

 正宗の手元を見ると、包みの中には 切り分けられた黄色いお菓子が入っていた。


「すごいですね! ご自分で作られたのですか?」

 驚いた私に気をよくしたのか、正宗が得意げに笑う。


「まあな。これは南蛮菓子(なんばんがし)の「かすてぃら」というものだ。麦を()いたものに、牛の乳と(とり)の卵と砂糖を混ぜる。それを木型に流し入れて蒸してみた。もう少し、改良は必要だがな」


 おお……この時代の調理器具で……。私は素直に感心して、正宗を見上げた。

 ()められてご機嫌になったらしい正宗が、にやりと笑って続ける。


「興味があるなら教えてやる。お前は料理が出来るのか?」


 現世でならともかく、こっちの調理器具は使ったことがない。

 正宗みたいに、もともと『料理好き設定』ならともかく、雪村がいきなりそんな事を始めたら周りに不審(ふしん)がられるだろうしね。

 それでなくとも、いきなり見た目が変わって不審なんだから。


 私はふるふると首を横に振り、それでもちょっとだけ女としての見得(みえ)を張った。

『雪村』でも不審に思われない程度に。


汁物(しるもの)くらいなら少々。(いくさ)長丁場(ながちょうば)になれば、自分で食事を用意する事もありますし」

「そうか、なら今度食わせろ」


 正宗は本っ当ぉぉに 次の約束を取り付けてくるのが上手いなぁ! しかしもう、その手には乗らない。


『手作りお菓子』が手に入ったら、雪村の『正宗イベント』は全部終了なんだけど。

「だが断る」的な選択肢を選んでも『次』のイベントが発生しそうな事を言い出すのは何故なんだ。


 私は早々に会話を打ち切る事にした。


「いえ、料理上手の正宗殿に振舞(ふるま)えるほどの物は作れません。かすてら、ありがとうございました」

「そうか。なら今度教えてやる」


 人の話きけよ。




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