189.お茶会出陣2
翌日、ちょっと寝坊をした私は慌てて馬を駆っていた。
昨日はあれから美成殿のお邸にお邪魔したんだけど、久し振りに会ったから積もる話で長居をしてしまい、寝るのが遅くなってしまった。
こんな時に寝坊なんて、何やってんだろ、私。
馬を急がせて小路を曲がると、少し先で綺麗な打掛を着たお姫様が蹲っているのが見えた。周囲を囲んだ侍女たちが、おろおろと辺りを見回している。
一瞬「通り過ぎようかな」と思ったのを止めて馬を降りたのは、この人も政所様のところに行くのかなって思ったからだ。
無視して通り過ぎて、現地で会ったら気まずい。
「どうかなされましたか?」
声を掛けると、鼻緒が切れて難儀していたらしい。あいにくと手拭いの持ち合わせが無かったので、服紗で鼻緒を挿げておく。
「ありがとうございます。これで政所様のお茶会に行けるわ」
おお……やっぱり行先は政所様の所だったか。
手を振ってくれるお姫様たちに振り返しながら、私は馬を急がせた。
遅刻しそうなのに、もっと遅くなっちゃったよ。
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早めに到着していた姫君たちが、まだ色付いていない楓を遠巻きにして騒めいていた。
虫でもいるのかな? と思いながら通り過ぎようとしたら「雪村」と声が掛かる。木の幹に寄りかかっていたのは、虫じゃなく美成殿だった。
「あれ? 昨日は聞きそびれましたが、美成殿もお呼ばれしていたんですか?」
「女どもの茶会など行くわけがないでしょう。面白そうだから、お前の晴れ姿を拝みに来ただけですよ」
そう言ってにやにや笑う。
そうか、美成殿は女装を見るのは初めてか。
「兼継殿は見た事がありますよ。「女装するな」と怒られますので、この事は内密に願います」
「何だ。やった事があるのですか?」
にやにやしていた美成殿が、鳩が豆鉄砲くらったみたいな表情になる。
ええ、まあ。
きっと『女装を見られたら恥ずかしがるだろう』ってドSゴコロが疼いたんだよ。美成殿はそういう人だ。
「どうぞ私の晴れ姿を見ていって下さい」
にやにや笑うと、美成殿がぐぬぬって顔になった。
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待ち構えていた政所様のとこの侍女衆に、高価そうな加賀友禅と、白粉や紅花で艶やかに武装され、私は意気揚々と美成殿のところに戻った。
「へえ。見事に化けましたね」
ドヤ顔の私に美成殿が、狐か狸に対するコメントみたいな事を言う。
「兼継殿に見つかると紅を剥がされますから、完全武装状態を見られるのは稀ですよ? どうぞ目に焼き付けて帰って下さい」
鼻息荒くお勧めすると、美成殿も同じくらい鼻息荒く嘲笑う。
「本人納得尽くの女装など、面白くもなんともないでしょう。だが兼継も案外と狭量だな」
美成殿はくすくす笑っているけれど、『女装に寛容な兼継殿』っていうのも、それはそれでどうなんだろう。