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189.お茶会出陣2

 翌日、ちょっと寝坊をした私は慌てて馬を()っていた。

 昨日はあれから美成殿のお邸にお邪魔したんだけど、久し振りに会ったから積もる話で長居をしてしまい、寝るのが遅くなってしまった。


 こんな時に寝坊なんて、何やってんだろ、私。

 馬を急がせて小路(こうじ)を曲がると、少し先で綺麗な打掛(うちかけ)を着たお姫様が(うずくま)っているのが見えた。周囲を囲んだ侍女たちが、おろおろと辺りを見回している。


 一瞬「通り過ぎようかな」と思ったのを止めて馬を降りたのは、この人も政所様のところに行くのかなって思ったからだ。

 無視して通り過ぎて、現地で会ったら気まずい。


「どうかなされましたか?」


 声を掛けると、鼻緒(はなお)が切れて難儀(なんぎ)していたらしい。あいにくと手拭(てぬぐ)いの持ち合わせが無かったので、服紗(ふくさ)で鼻緒を()げておく。


「ありがとうございます。これで政所様のお茶会に行けるわ」


 おお……やっぱり行先は政所様の所だったか。

 手を振ってくれるお姫様たちに振り返しながら、私は馬を急がせた。

 遅刻しそうなのに、もっと遅くなっちゃったよ。



 ***************                ***************


 早めに到着していた姫君たちが、まだ色付いていない(かえで)を遠巻きにして(ざわ)めいていた。

 虫でもいるのかな? と思いながら通り過ぎようとしたら「雪村」と声が掛かる。木の幹に寄りかかっていたのは、虫じゃなく美成殿だった。


「あれ? 昨日は聞きそびれましたが、美成殿もお呼ばれしていたんですか?」

「女どもの茶会など行くわけがないでしょう。面白そうだから、お前の晴れ姿を(おが)みに来ただけですよ」


 そう言ってにやにや笑う。

 そうか、美成殿は女装を見るのは初めてか。


「兼継殿は見た事がありますよ。「女装するな」と怒られますので、この事は内密(ないみつ)に願います」

「何だ。やった事があるのですか?」


 にやにやしていた美成殿が、鳩が豆鉄砲くらったみたいな表情になる。

 ええ、まあ。

 きっと『女装を見られたら恥ずかしがるだろう』ってドS(エス)ゴコロが(うず)いたんだよ。美成殿はそういう人だ。


「どうぞ私の晴れ姿を見ていって下さい」


 にやにや笑うと、美成殿がぐぬぬって顔になった。



 ***************                ***************


 待ち(かま)えていた政所様のとこの侍女衆に、高価(たか)そうな加賀友禅(かがゆうぜん)と、白粉や紅花で艶やかに武装され、私は意気揚々(いきようよう)と美成殿のところに戻った。


「へえ。見事に化けましたね」


 ドヤ顔の私に美成殿が、狐か狸に対するコメントみたいな事を言う。


「兼継殿に見つかると(べに)()がされますから、完全武装状態を見られるのは(まれ)ですよ? どうぞ目に焼き付けて帰って下さい」


 鼻息荒くお(すす)めすると、美成殿も同じくらい鼻息荒く嘲笑(あざわら)う。


「本人納得()くの女装など、面白くもなんともないでしょう。だが兼継も案外と狭量(きょうりょう)だな」


 美成殿はくすくす笑っているけれど、『女装に寛容(かんよう)な兼継殿』っていうのも、それはそれでどうなんだろう。





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