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18.風雲 花見の宴2 ~side S~

 

 翌日、俺は大阪城の花見に繰り出した。

 美成には会った。俺としては大阪に用はもう無いんだが……

 いやむしろ、悪目立(わるめだ)ちするのが確定している分、気が重い。


 送り出す雪村の顔が、久々に俺のお()りを免除される解放感に満ちているように見えるのは、たぶん昨日の美成の捨て台詞が原因だろう。


 あの野郎……「せいぜい雪村の武運を祈る事にしましょう」とは何様だ。

 俺は主人公姫で、あいつらは攻略対象なのに、ちょっと態度がでかすぎない? おかしいよね?

 

「雪村が居なくて心細いだろうけど、今日は僕で我慢して下さいね」


 様子がおかしい俺を気遣ったんだろう。信倖が苦笑しながら(かたわ)らに立った。

 雪村と目配せしているあたり、真木兄弟も 克頼を警戒しているらしい。


 とっとと済ませて帰りたいなー。

 俺はげんなりしながら、用意された輿(こし)にしぶしぶ乗り込んだ。



 ***************                *************** 


 大阪城に着いて間もなく、元から暗かった空から雨粒が落ちてきた。

 それはみるみるうちに大雨になり、嵐みたいに荒れ始める。


「困りましたね、これは……」


 美成が険しい顔で空を見上げた。

 そりゃそうだよな、あんなに準備に忙殺(ぼうさつ)されていたのに、それが無駄になりそうだもんな。

 しかしどうも、そういう事じゃないらしい。


 神様や霊獣が当たり前に居るこの世界では、悪天候は「神に祝福されていない」と判断される。

 ようするに『富豊が主催する花見が嵐に見舞われる』って事は、富豊が神の怒りに触れたと思われるって事。それは天下人にとって非常に(まず)いようだ。


 ふーん? 

 他人事(ひとごと)のように聞いていた俺の耳に、とんでもない台詞が聞こえてきた。


「ここに居ります桜姫は、先代の信厳(しんげん)公と毘沙門天(びしゃもんてん)上森剣神(うえもりけんしん)公の娘、神の子にございます。必ずやこの荒天を鎮め、富豊が神の恩恵を受けている事を示して御覧(ごらん)にいれましょう」


 芝居じみた様子で余計なことを言い出したのは、言うまでもなく克頼だ。


 はあぁああああ!? 出来るわけねーだろ、そんな事!?

 そもそもゲームでは「神の子」発言をするだけで、嵐を鎮めろなんて展開にはならなかったぞ!?


「克頼様!」


 (かたわ)らの信倖が、俺を隠すように前に出て、鋭く(たしな)める。


 当たり前だ。こんなムチャ振りされても、出来ないものは出来ない。

 こんな大見得(おおみえ)切って出来なかった場合のこと、こいつは考えているんだろうか。


 いや、こいつが恥をかくだけなら別にいいけどさ。

 さらっと上森まで巻き込んでいるあたり、(たち)が悪くね?


 実際、周囲は(ざわ)めき出して、収拾がつかなくなりつつある。



「空はじきに落ち着きましょう。皆々様、城内には各流派華道家元、渾身(こんしん)の作が数々出瓶(しゅっぺい)されております。どうぞ中へ」


 美成が、信倖ごと皆の視界を(さえぎ)るように前に立つ。

 その美成に 鈴を転がすような声が掛かった。


「武隈殿もそう仰っておる。ここは”神の力”を見せて貰おうではないか」

「お方様」


 桜姫とはタイプが違う凄味のある美女が、口元を扇で隠して俺の方を見ている。

「お方様」って事は、これが富豊秀夜の母親、拠殿(よりどの)なんだろう。


 思ったより若いな。いやそうじゃなく、どうしよう! 

 内心慌てまくりの俺に、別方向からも声が掛かった。


「そうですな。これでは富豊のご威光にも係わる。姫君、是非(ぜひ)ともこの荒天を(しず)めていただきたい」


 何とここで、徳山家靖まで乗ってきた。

 あぁああああ!!


 桜姫は「姫神子」と言われているけれど、それっぽい神力を発揮しているところはゲーム中に無い。

 怨霊を退治できる訳でも、怪我を(いや)せる訳でもない。

 ただの「自称・神の子」だ。

 その俺が、何でいきなりこんな事に…… 夢なら覚めてくれ、マジで。


 自分でも、真っ青な顔をしているのが判る。

 頭も身体もふらふらして、信倖が支えてくれていなければ、とっくにぶっ倒れているだろう。


 そんな俺のそばに事の元凶・克頼が近づいてきた。


「……出来るな?」


「……出来るな?」じゃねーよ。何カッコつけてんだ、こいつ。

 俺は薄衣越しに克頼を睨みつけた。


「出来ません。兄上様はわたくしの神力など、ご(らん)になった事がありまして?」

「剣神の娘なら出来て当たり前だろう。そも、その程度も出来ぬのなら神の子などと名乗るな」

「姫は「神の子」などと名乗っておりません。そう吹聴(ふいちょう)しているのは克頼様かと」


 俺が口を開く前に、信倖がぴしゃりと言い返す。

 ち、と舌打ちをした後で、克頼は見下げたような視線を信倖に向けた。


「本当にこれは父上の(たね)なのか? 武隈を(たばか)ったのではあるまいな。神の力も(ふる)えぬ無能に父上の娘を名乗らせるとは、真木はこの責任をどう取るつもりか。ああ、連れ帰ったのは穀潰(ごくつぶ)しの弟の方であったか。ハッ、程度が知れるというものだな。父上も何故貴重な霊獣を、真木などに下賜したのやら」


 神力が(ふる)えないと知った途端にこの言い草。まるで俺や真木が、この事態を引き起こしたように責任転嫁しようとしてやがる。


 俺はふつふつと怒りが湧いてくるのを感じた。

 貧血起こしている場合じゃねぇよ。

 ぴんと背を伸ばし、俺は克頼を(にら)みつけた。


「そうですわね。わたくしが母上様から生まれ、越後の尼寺に預けられた事は揺るぎない事実でございますが、父がどなたかは存じ上げません。不出来なわたくしは兄上様のおっしゃる通り、信厳公のお(たね)ではないのでしょう。なれば、わたくしが神力を(ふる)えても、それは剣神の血ゆえ。武隈とは関係ございません。それで宜しいですね?」

「姫、控えなさい!」


 美成が鋭く遮ってきたけど もう遅い。

 周囲には、俺と克頼のやり取りを興味津々(きょうみしんしん)で眺めている大名たち。


流石(さすが)は毘沙門天の姫君。頼みましたぞ」


 家靖も、手を叩きながら(あお)ってくる。



 おれはここで きせきをおこさなければならない。




 ***************                *************** 


 俺のあんぽんたん。

 そう思っても、覆水(ふくすい)(ぼん)に返らず、破鏡(はきょう)再び照らさず 。ああ!


 俺は俺の知る限りの、すべての神に祈りを捧げた。

 神様・仏様・ゲーム制作会社様。

 もしも本当に俺が神の子なら、もっとチートな性能にしておいて下さい。


 ちきしょぉおお! 俺は出来る! 俺は出来る! 

 I can do it!!  I can do it!!



 頭がハゲるほど真剣に祈った後、俺は何かの技でも繰り出しそうな格好で、両手を頭上に激しく突き出した。


 その途端(とたん)、俺の身体から全霊力(ぜんれいりょく)が噴き出して、空に突き刺さったかのような錯覚に(とら)われた。


 足から力が抜けてへたり込むと、(かたわ)らに居た信倖が膝をついて俺の肩を支える。しかしその目は俺ではなく、空に釘付(くぎづ)けになっていた。


 衆人(しゅうじん)の目も俺を通り越して、空へと注がれている。 

 つられて見上げた空に、異変が生じていた。


 荒れ狂っていた風雨が鎮まり、漆黒(しっこく)の雲が(うず)を巻く。

 そしてその雲間からは 一条の光が差していた。


 ……おお、神よ……


 俺は奇跡を起こした。

 と同時に、富豊と徳山にモッテモテになるフラグを (みずか)らたててしまった。



 おかしい、自分でやっといて何だけど。

 ゲーム中では大阪で、桜姫はこんな奇跡を起こさない。


 一体どうなってんだ!?



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