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171.奥州遠征4


「あれ? 今回は槍も持ってきたんだな」


 槍や(よろい)まで持ってきたから、今回は大荷物だよ。

 桜井くんが不思議そうな顔をしたので、私も首を(かし)げて聞き返した。


「正宗から聞いてない? 怨霊退治を手伝う約束してるって」

「はあ!? あいつ、俺のとこには全然(ふみ)寄越(よこ)さないぞ? 正宗イベントってまだ続いてたの!?」


 それを聞いて私も驚いた。ゲームでは『雪村の怨霊退治手伝い』は桜姫からの依頼で発生するからだ。

 うっかり名乗ったせいで、沼田に直接『早馬(はやうま)』が乗り込んできていたけど、まさか桜姫に(れんらく)が行ってないとは思わなかった。


 そうか……桜姫に文がきてないって事は、兼継殿も正宗の件は知らないって事か。それはちょっと気が重いな。



 ***************                ***************


 こういうのは何故か、会いたくない時に限って会ってしまうもので。

 翌朝、こっそりと奥御殿を抜け出したところで、私は登城途中の兼継殿とばったり出くわしてしまった。


 胸当(むねあ)てだけの簡易な鎧でも、一応は戦支度(いくさじたく)だ。越後領内で越後の執政(しっせい)誤魔化(ごまか)せる訳がない。

 (あん)(じょう)、済ました顔で兼継殿が軽くジャブを打ってきた。


「ほう。私は知らぬが、越後領内で戦でもあるらしいな」

「おはようございます、兼継殿。越後領内ではありません。これからちょっと奥州に行って参ります」

「それについては忠告した(はず)だが。もう一度、言うか?」


 ああ、まだバグったままかぁ。

 仕方なく私は首を横に振って、兼継殿を見上げた。


「兄上から、手伝うようにと言われています」

「……なに?」

「館殿が兄上に直談判(じかだんぱん)してしまったのです。ご忠告は心に()()きますが」


 兄上の名前を出したら、兼継殿はそれ以上ツッコんでこない。

 大変レアなぐぬぬ顔の兼継殿に軽く頭を下げ、私はほむらに(またが)った。



 ***************                ***************


 ほむらは火属性だから、雨や雪はあまり得意じゃない。

 逆に独眼竜は、越後に居た頃は「黒龍(こくりゅう)」と呼ばれていて、北と冬と水を(つかさど)っていたから冬は得意だ。

 そのせいもあるだろうけど、独眼竜は初めて会った時より元気そうに見えた。


「ところで館殿。独眼竜の(まつ)り方は解りましたか?」

「元気になった。問題無いだろうが」


 素っ気なく言っているけれど、本心からそう思っている訳じゃないのは顔を見れば判る。

 兼継殿と正宗の仲が悪いのは、ゲーム設定だ。余計な事はしない方がいい。

 それは解るんだけど、このままじゃ独眼竜が可哀相だ。


「……上森に、龍の祀り方を聞いてきましょうか?」


 消極的な気配を隠そうともせず提案したのに、正宗は食い気味に全力で乗っかってきた。


「そうか! お前がどうしてもというなら、やぶさかではないがな!」


 何でスルーして欲しい提案には、プライドをかなぐり捨てて乗ってくるんだ……。そんなに独眼竜が心配なら、自分で上森に頭を下げて頼みなよ。

 我ながら余計なことをした。


 げっそりしている私とは対照的に元気になった正宗が、ふと空に視線を向ける。

 釣られて見上げると、羽の生えた蛇――騰蛇(とうだ)滑空(かっくう)していた。


 騰蛇は、陰陽師が式神として使役(しえき)しているものであれば、霊獣と同じカテゴリーの御神体(ごしんたい)だ。

『怨霊』とは言い切れない相手だけれど、この地に(わざわ)いをもたらすならお帰りいただかなければならない。


 私はちらりと隣に立つ正宗の様子を(うかが)がった。

 正宗は血筋のせいか霊力が強くて、怨霊を『見つける』のが早いんだよね。

 自分からは全然動こうとしないけど。


「まずは地上に降ろしましょう。独眼竜、頼める?」

「おい! 独眼竜を使うなら俺の許可を得てからにしろ!」

「……『龍の祀り方』」

「よぉし仕方がないな! 独眼竜、(わっぱ)の頼みを聞いてやれ!」


 金色の左目が正宗と私を交互(こうご)に見る。そしてするりと龍体をくねらせて私を背中に乗せると、一息に空へと舞い上がった。


 ど、どくがんりゅう……! わたしは「騰蛇(とうだ)を降ろして」と言ったのであって、「連れていって」とは一言も……っ!!


 うっかり悲鳴を上げて龍の首にしがみついた私を見て、正宗が涙を流してげらげら笑っているのが、遠く地上に見える。

 それが腹立たしくて、私は「今のはびっくりしただけです。怖くなんてありませんとも」って顔を作って体勢を立て直し、右手の槍を(かま)えなおした。




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