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163.正宗再来2

(いくさ)でもないのに城代を乱取(らんど)りとはたいした度胸ですね。(わっぱ)だからと馬鹿にしないでいただきたい」


 がっちり龍のたてがみ(つか)んだまま、私は精一杯の虚勢(きょせい)を張った。

 こんな上空、命綱(いのちづな)も無しで飛ぶなんて 正気の沙汰(さた)とは思えない。何で影勝様は神龍で移動しないんだろうと思ってたけど、普通に怖いわ、これ。


「高いところは苦手か? 馬鹿じゃないようで何よりだ!」


 びくついてるのを察したらしい正宗が、鼻で笑って小馬鹿にしてきたけれど、高い所が平気そうなご自分の事はどう思っていらっしゃるのやら。


 しかしうっかりそんな事を口走ったら、龍の背から落とされそうだ。

 私は(つつま)ましく口を(つぐ)んで、鬣を掴む手が赤から白に変わっても必死で鬣を握り締め続けた。



 ***************                *************** 


 冬の上空は冗談抜きで寒い。着ていた綿入(わたい)れは風を通すから、全然防寒着の役目を果たしてない。


「おい、寒くないか?」


 正宗が声を掛けてきたのは、たぶん自分が寒くなったからだと思う。

 私よりも我慢出来たのは、私が風()けになっていたからだろう。


「寒いに決まってるじゃないですか。準備もさせずに連れ出しておいて」


 憎まれ口を叩いたけれど、寒さで(なか)ば口が回ってない。それでも何を言っているかは解ったらしく、正宗が後ろから抱き付くみたいな感じで外套(がいとう)(かぶ)せてきた。


「ちょ、やめて下さいよ。どうせなら外套だけ貸して下さい」

「阿呆、俺だって寒いわ!」


 速攻で正宗が切り返してくる。

 何だかあまり近付かれると むずむずして逃げたくなるけど、外套は皮素材なのか風を通さなくて、寒さが幾分(いくぶん)ましになった。


 仕方がない、しばらくの辛抱だ。


 二人羽織みたいな恰好になってる私と正宗を乗せた独眼竜は、(すべ)るように奥州へと飛び続けた。



 ***************                *************** 


 今回の怨霊退治は、最初からおじいちゃん僧侶が同道していて、『(ひずみ)』を(かた)(ぱし)から(ふさ)いでいった。

 さすがと前回のだいだらぼっちは(こた)えたみたいだ。


「怨霊退治は『討伐隊(とうばつたい)』を編成して当たらせた方がいいですよ。いくら強いとしても、舘殿は領主なのですから」


 よく考えたら、弱った神龍を連れて当主(みずか)ら怨霊退治している、っていうのも、何だかおかしな気がする。

 越後では最初から『歪』を塞いでいるし、土地が神気に満たされているから滅多に開かない。旧武隈(たけくま)領では『歩き巫女』という、忍びも兼ねた巫女が領内の『歪』を管理していた。

 そういう管理をしてない国は、霊力が高い武士で編成された『討伐隊』を組織して怨霊退治しているのが普通だ。普通なんだけど……


「……もしかして奥州には、霊力が高い武士があまり居ないのですか?」

「ほっとけよ」


 むすりと正宗がそっぽを向いた。あ、図星だ。



 こっちの世界の『霊力』とは、個人の身体能力みたいなもので、人によって差がある。

 霊力が高い者なら怨霊を斬ることも出来るけれど、低い者だと姿を認識するのも覚束無(おぼつかな)い。

 いくら武芸に優れていても『見えて』なきゃ戦えないからね。何かこう、怨霊相手だと戦い方が違うんだよ。

 まして霊力は、生まれついてのものだからなぁ……


 ちなみに正宗の霊力の高さは、ゲームによると母親(ゆず)りだ。

 正宗母は出羽(でわ)茂上(もがみ)家の出で、茂上家は霊獣・妖狐を(よう)する大名だから。

 兼継ルートの最終戦『長谷堂城撤退(てったい)戦』はこの茂上家との戦になる。


 気を取り直して、私は言葉を続けた。


「でしたらますます『歪』の管理は慎重にすべきです。僧侶か陰陽師に管理をまかせてはどうでしょう? 塞いでもすぐに開くというなら、まず領地の乱れを正して」

「お前はやたらと(くわ)しいが、何故そんな事を知っている?」


 そっぽを向いていた正宗がこちらに向き直り、腰に手を当てて()()り返る。

 ゲームで得た知識と兼継殿情報、どちらを話すべきか迷った末に、私は兼継殿情報の方を話すことにした。ゲームの方を話すと出典(しゅってん)を聞かれた時に面倒くさい。


「話した事がありませんでしたか? 私は子供の頃、上森家に人質に出されていました。その時に世話役だった直枝殿から教えていただいたのです」

「直枝か……っ!」


 腰に手を当てたまま、正宗ががくりと項垂(うなだ)れる。


 ゲームの正宗と兼継殿は『忠告イベント』くらいしか接点が無かったけど、現世の歴史では伊達vs直江エピソードがいくつか残されていて、いやあ直江さんは伊達さんがお嫌いですね、って感じのものばかりだ。


 正宗の様子から察するに、こっちの世界でも確執(かくしつ)がありそうだなぁ。


 ああそうだ。独眼竜は館と上森が戦になった時に、正宗が無理矢理(うば)って館の霊獣にしたんだっけ。


 影勝様の龍に手を出したんだから、そりゃ兼継殿に死ぬほど嫌われるよ。




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