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144.奥州遠征1

 越後に滞在して数日がすぎ、こっちの大掃除もいい感じに終わった。


 大掃除が終わったら、越後の侍女衆は本格的に『冬の内職』期間に入るそうだ。

 もう手伝える事は無い。

 お(いとま)の挨拶をしに桜姫の部屋を訪れると、(ふみ)を手にしていた姫が、私を見上げて微妙(びみょう)な顔をした。


「舘殿から 文が届いたわ」

「どのようなお話でしょう?」


 一応聞いてはみたけれど、内容はだいたい予想がつく。

「舘領の怨霊退治を手伝え」という内容だ。


 これはゲーム中で何度か発生するイベントで、これをやっておくと、エンディングがちょっと変わる。

 正宗から依頼の文が届いたら『雪村に手伝いに行ってもらう』『無視する』の選択肢が発生する。

 そして雪村に怨霊退治を手伝わせると、雪村-正宗間の好感度が上昇して、雪村が「舘殿から預かりました」と『正宗の手作りお菓子』を持ち帰るイベントが発生する。


 そこまで好感度を上げておくと、エンディングで『雪村が死んだ後で、正宗が桜姫を保護する』イベントが挿入(そうにゅう)されるから、やっておかない手はない。


 それにこの前、兼継殿に金平糖を食べさせようとして痛感したんだよ。

 私、もっと真面目に修行をしないと駄目だって。

 いつの間にか『敏捷(びんしょう)』のステータスが落ちまくっていた。


 最近は本ばっかり読んでいるから鍛錬(たんれん)不足は感じていたけれど、先日は鈍足の百目鬼(どめき)にまで逃げられた。駄目すぎる!

 修行を兼ねた怨霊退治がしたい。

 それなら土蜘蛛(つちぐも)レベルの怨霊が出る舘領からのお誘いは、渡りに船って感じだ。


 手渡された文を見ると、予想通り「怨霊退治をしたいので従者を貸してしい」って内容が(したた)められている。

 私はふたつ返事で引き受けた。



 ***************                ***************


 侍女を下がらせた桜井くんが、考え込んだ顔のまま私を見上げてきた。


「正宗の件だけどさ、やっぱり断った方がよくない? 俺、正宗エンドを迎えるつもり無いし」

「桜井くん、正宗ルートはもうやったの?」


 こくりと(うなず)いているから、これはネタバレOKだ。雪村エンド(がら)み以外は。


「どのエンディングに行くにしても、雪村と正宗の好感度は上げておいて損はないよ。こっちの世界はゲームと違って、敗者側には乱取(らんど)り(誘拐みたいなものかな)の危険があるから。実家の上森だけじゃなく、東軍(とうぐん)の正宗にも保険をかけておいた方がいいよ」

「ん? 何で雪村(ゆき)が居ない前提で話してんの?」


 そこら辺は雪村ルートのネタバレになるから話せない。

 私は曖昧(あいまい)に笑って誤魔化(ごまか)し、ついでに話を変える事にした。


「桜井くんこそどうしたの? 雪村を怨霊退治に派遣(はけん)したら『正宗の手作りお菓子』が(もら)えるんだよ? ゲームのスチルを見る限りカステラっぽかったよ?」

「正宗ルートに進むつもりが無いんだから、菓子もいいよ。正宗は無視しようぜ」


 この前「洋菓子が食いたい。饅頭(まんじゅう)煎餅(せんべい)以外なら何でもいい」ってぼやいていたのに、何でそんなに嫌がるんだろう。

 でも桜姫が依頼してくれなきゃ雪村は怨霊退治に行けない。困ったな。


「桜井くん、私、正宗のとこに行きたい。修行を兼ねて怨霊退治したい」

「修行か……」


 正直に話したら、珍しく桜井くんが、あからさまに表情を(くも)らせた。

 (しばら)逡巡(しゅんじゅん)した後で、()め息をついて私を見る。


「お前がどうしても、って言うならいいよ。でも『手作りお菓子』を手に入れたら、そこでフラグを折れよ? それ以降は怨霊退治は無しだ」

「……どうしたの? 桜井くん。もしかしてNEOで、雪村が正宗のところに行って怪我(ケガ)するイベントでも追加されてるの?」


 何でそんなに(しぶ)るのか解らなくて、逆に私は不安になった。


 この世界は『花押(かおう)を君に~戦国恋歌・NEO~』の世界観に準拠(じゅんきょ)している。

 私がプレイしたのは携帯ゲーム版だから、私が知らないイベントが、NEOでは追加されているって事もありえる。


 不安に駆られてそう聞くと、桜井くんはやんわりと首を振って苦笑した。


「いや、そういうのは無いよ。ただほら、兼継と正宗って仲悪いじゃん? わざわざ接触するのもどうなのかなって」


 ああ、そういう事か。やっと桜井くんが渋る理由が解った。


『カオス戦国』では『敵対するキャラクター』設定みたいなのがある。雪村は家靖(いえやす)と敵対関係だし、美成は清雅と。そして兼継と正宗が対立しているんだよね。

 だから正宗ルートに入ると、兼継から「あの男には義の心がありません。痛い目を見る前に手を引かれよ」みたいな忠告をされるイベントが発生する。


 恋愛に淡白(たんぱく)な兼継が嫉妬(しっと)してるみたいで、ファンの間でその『忠告イベント』は『兼継恋愛イベント』扱いされているんだけど、ランダムに発生するその『忠告イベント』は、発生するたびに兼継の好感度が減っていく(オニ)仕様だ。

 これが発生するって事は、兼継の忠告を無視しているって事だからね。


『萌え』を取るか『好感度』を取るかの二択ですよ?


 兼継(ねら)いの時に正宗ルートも並行した(二股かけた)ら、『忠告イベント』が乱発し、兼継の好感度が減りまくって、それ以降の恋愛イベントが発生不可になった、って話もよく聞くから、結構(けっこう)バカにできない数値だ。


 なるほどなるほど。兼継殿の好感度が下がるから、桜井くんは正宗ルートに関わりたくないのか。やっと真面目に恋愛する気になってきたんだなぁ。

 でもそれなら大丈夫だよ。


「雪村が怨霊退治の依頼を受けても、『忠告イベント』は発生しないよ?」


 だって私が『カオス戦国(ゲーム)』をプレイしてた時、雪村のレベル上げを兼ねて、正宗からの依頼はいつも受けてたけれど、兼継からの『忠告イベント』は発生したことないもん。

 

 自信満々でそう言ったら、桜井くんは「そうじゃないんだよ……」と頭を抱えた。

 いったい何をそんなに心配しているんだろう。


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