表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

143/383

143.怨霊討伐と冬の祭典2 ~side S~

「姫さま、今日は早めにお湯をいただいて下さいませ」

「大掃除後ですから、風呂を使いたい者が大勢(おおぜい)居ます」


 いつもなら、殿様が一番風呂(いちばんぶろ)だ。

 だが今日は奥御殿の大掃除。風呂を使いたい奴が大勢いるって事で、都合がついた者から順次に使えって、イレギュラーな状態になっている。

 掃除に参加してないヒマな姫様が一番風呂の栄誉(えいよ)に預かり、俺は手拭(てぬぐ)いと着替えを持って、呼びに来た侍女の後について部屋を出た。


 越後の風呂は、熱い蒸気(じょうき)湯殿(ゆどの)に送るサウナみたいな感じだ。上田や、たぶん今後の沼田では湯に()かるタイプの風呂になるだろう。

 俺としてはそっちの方がいいなぁ。


 どうでもいい事を考えながら歩いていると、前を行く侍女がふと足を止めた。


 その途端(とたん)に、後ろから付いてきていた老女が、俺の肩をがしりと(つか)む。

 何事(なにごと)も無かったように、再び歩き始めた侍女をよそに、老女は俺を抱え込んで庭へと飛び降りた。



「!? !??」


 老女は軽々と俺を抱え、(すべ)るように庭を駆けていく。

 突然の出来事に固まっていると、周囲からわらわらと侍女衆が()いて出てきた。

 風呂の先導(せんどう)をしていた侍女だけが静々(しずしず)と縁側の廊下を進み、他の侍女衆は足音を忍ばせて、庭から(やしき)へとにじり寄っている。


 庭には玉砂利(たまじゃり)()かれている(はず)なのに、どいつもまったく足音をたてていない。


 やがて縁側まで辿(たど)り着いた侍女衆は、とある部屋を取り巻いて 耳に全神経を集中し出した。釣られて俺も耳を澄ましたが、こそこそとした小さな音しか聞こえない。


 ……あれ? 俺、何でこんな事に巻き込まれているんだろう。


 室内の様子が判らない事に(ごう)を煮やした侍女のひとりが、匍匐前進(ほふくぜんしん)で さらに部屋へとにじり寄り、障子にぷすりと指を突っ込んだ。

 それが契機(けいき)になったのか、周囲の侍女衆も一斉に()い寄って、障子にぶすぶすと指を突き立て始める。


 この障子(しょうじ)、さっき張り替え終わったばっかりなんじゃねぇの……? 

 老女に怒られるんじゃね? 


 ちらりと(かたわ)らを見上げると、こくりと(うなず)いた老女は (りょう)の人差し指をぶすりと障子に突き立て『見ろ』と言わんばかりに(あご)(しゃく)った。


 う、うん。そうじゃなかったんだけど まぁいいや。

 俺は各々(おのおの)、自分が開けた穴に取り付いている侍女に(なら)って、老女が開けた穴から中を(のぞ)き見た。



 薄暗い部屋の中に居たのは兼継と雪村だった。兼継が雪をバックハグしてるみたいな体勢で、どう見てもこっちを見て唖然(あぜん)としている。


 そしてどう見ても、いいところだったのを邪魔したようにしか見えない。


 やべえ、兼継に殺される! 


 そう思ったのと、雪村が兼継に向き直って何事(なにごと)か叫んだのが同時だった。

 そして次の瞬間。

 予想外に雪村の方が、脇差(わきざし)片手にこっちに突進してきた!


 しかし老女は即座に俺を抱え込むと、雪村すらも(しの)ぐスピードで、華麗(かれい)に縁側から退避(たいひ)した。



 縁側の下に隠れた俺は、老女に口を(ふさ)がれたまま目を白黒させた。

 縁側から即時撤退(そくじてったい)した俺たちは、ある者は縁側(えんがわ)下のスペースへ。またある者は近場の垣根(かきね)へ。またある者は隣の部屋へ飛び込んで、と各々(おのおの)姿を隠している。


「馬鹿な……」


 唖然と(つぶや)く雪村の声と「くそ、冬之祭典(ふゆのさいてん)か……!」と吐き捨てる兼継の声が頭上から聞こえてきて、俺は生きた心地(ここち)がしなかった。


 ばれてんじゃん。ってか下を(のぞ)き込まれたら一巻の終わりだ。俺、ピンチ!


「ふゆのさいてん?」


 ぶつぶつ言ってる雪村の声が遠ざかって消えるまで、俺は手拭(てぬぐ)いを()みしめて息を殺していた。


 こわかった、マジで。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ