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137.金平糖攻防戦2

「あれ雪村、今日は女子に化けてないの?」


 桜姫の部屋を出て御殿(ごてん)へ向かうと、執政の仕事部屋・【松の間】へ通された。

 ちょうど部屋に居た泉水殿が、私を見て不思議そうな顔をする。


()ける」とは、泉水殿もなかなかキツいな。


「あの時は侍女に偽装(ぎそう)して、安芸殿に会いに行ったのです。普段はこの通りですよ」

「そうか。あれ、かわ」

「『可哀(かわい)そう』などと、泉水殿も人が悪いな。雪村とて女装など、したくてした訳ではないでしょうに」


 (かば)ってる風を(よそお)った兼継殿が速攻でディスってきて、私と泉水殿は顔を見合わせた。これは相模(さがみ)に行く前に逃げ出した事を まだ怒ってるみたいだ。


 安芸さんに会いに行くのが、何でそんなに不味(まず)かったんだろう。一応、真木の間者になってくれるって、ちゃんと約束しているよ?

 まあいいや、この金平糖で ついでにご機嫌も直して(もら)おう。



 ***************                ***************


「家臣に伝達する事があるから、ちょっと外すな」


 泉水殿が部屋を出て行ってしまい、部屋に兼継殿とふたり残されてしまった。

 様子を伺ってみたけれど、仕事の手を止めて「何かあったか?」と聞いてくる兼継殿は、さほど怒っているようには見えない。

 ご機嫌斜めの理由を聞くきっかけを失って、結局私は黙って(ふところ)から紙包みを取り出した。


「珍しいお菓子をいただいたので、おすそ分けです」

金平糖(こんぺいとう)か」

「はい。桜姫が先日の観楓会(かんぷうかい)で頂いたそうで、兼継殿に是非(ぜひ)にと」

「そうか。ではいらない」


 あっさり返され、私は金平糖を手にしたまま ぽかんと兼継殿を見返した。

 ぽかんとしてる私に、兼継殿が小さく吐息をつく。


「何を考えているのかは知らんが、おそらくそれはお前が貰ったものだろう。お前が食べなさい」


 くそう バレたか。あんな言い方しているけど、絶対に桜姫からのアイテムを受け取りたくないだけだよ。

 雪村相手だと大人ぶるのに 大人げないなあ。


「ではせっかくのお菓子ですし、一緒に頂きましょう」

「絶対にいらない」


 即座(そくざ)に拒絶された。ほら本音はこっちだよ。

 ほんとに何でこんなにドン底まで落ち込んでるのさ? 好感度。


 しかしここで引く訳にはいかない。何が何でも好感度を底上(そこあ)げだ。

 私は黄色い星みたいな金平糖をひと(つぶ)摘まんで、兼継殿を見据(みす)えた。


「私は桜姫より「兼継殿にお裾分(すそわ)けするように」と言われました。()()でも食べて頂きます」

「ほう。大層(たいそう)な自信だが、今のお前にそれが出来るか?」


 兼継殿が悪い笑顔になっている。

 これはこちらも、心してかからねばならない。


「身体が小さくなっている分、今までより敏捷性(びんしょうせい)は増していますよ?」

「もっと(はしこ)かった子供の頃を知る私に それを言うとは笑止(しょうし)。試してみるか?」


 金平糖を手に私が飛び()かるのと、兼継殿が飛び退(すさ)るのが同時だった。



 ***************                *************** 


 全っ力で(つか)まえようとしてるんだけど、でかい図体(ずうたい)してるくせに兼継殿が結構機敏(きびん)で捕まらない。

 家老職なんて、(いくさ)じゃ後方(こうほう)で作戦指揮だろうに、二十五歳くらいだとまだ現役の戦国武将だな。


 雪村のスペックが兼継殿に(おと)る訳がないんだから、足を引っ張ってるのは私自身の運動能力だ。これは修行しなきゃダメだ……


 でもどこで修業しよう?


 怨霊退治が一番効率(こうりつ)がいいけれど、越後に『(ひずみ)』が無くて怨霊(おんりょう)が出ないのと似た理由で、真木の領内も小型の弱い怨霊しか出ない。


 この世界には『歪』っていう『この世界と霊界の境目(さかいめ)にある()け目』があって、怨霊はここから出てくるんだよね。

 そして霊獣も『あっちの世界』の生き物だから、『歪』の中に出入り出来る。

『歪』に入って、行きたい場所近くの『歪』から出る事で、移動のショートカットが可能になる。


 越後で『歪』を全部(ふさ)いでいる理由は、神龍が通れるサイズの『歪』を残しておくと、土蜘蛛(つちぐも)サイズの大型怨霊がわんさか出てくるからだ。

 逆に真木領では、ほむらが通れる程度の『歪』は残している。

 でもこのサイズだと、弱い怨霊しか出てこないから、修行にならない。

 どうしようかなぁ……


「気を散らすとは余裕があるな」


 兼継殿の手がすっと伸びて、私の右手首を払った。ぽん、と指先から(こぼ)れた金平糖を慌てて掴みなおし、注意を兼継殿に向け直す。


 考え事をしてる場合じゃなかった、デスクワークで(にぶ)っていると思ってたのに全然だもん。


 それに。


 私は兼継殿に気付かれないように息を整えた。

 この身体、敏捷性が上がった代わりに、攻撃力と耐久力にマイナス補正がかかっている。

 疲れで速度も落ちてきているし、このままだとジリ貧だ。何か手を打たないと……


 私は文机(ふづくえ)に駆け寄り、置かれていた紙をひっつかんで、目くらましにばら()いた。仕事部屋を散らかすなんて迷惑(きわ)まりないけど、ここはもう、手段を選んでいられない。


 いきなり紙をばら撒くとは思って無かったみたいで、兼継殿の注意が()れた。

 今だ!


 張り切って踏み込んだ途端。


 私は自分でばら撒いた紙を()んで、おもいっきり足を(すべ)らせた。



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