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13.これが私の生きる道

 

 上田訪問が気分転換になったのか、桜姫も元気になったみたい。

 それから甲斐では 穏やかな日々が続いていた。


 表面上は。



 ***************                *************** 


 主人公のお姫様ではなく、武将に転生してしまった私は、恋愛だけしている訳にはいかない。

 先日、信倖……いや、兄上から、今後の真木の身の振り方についての相談を受けた。


 父上は生前、真木の独立を模索(もさく)していたそうだけど、今は時勢的に難しい。

 戦国後期の今、天下はほぼ統一されている。

 独立したところで、天下統一した富豊家か、富豊 秀好(とみとよひでよし)の死後、急速に勢力を伸ばしている五大老筆頭代理・徳山家靖(とくやまいえやす)、どちらかにつかなければ生き残れない。


 ちなみに異世界でも秀好の死後に、五大老(ごたいろう)五奉行(ごぶぎょう)制度が導入されている。

 これは現世と同じく、富豊を支えつつ天下を治めるシステムだ。

 

 今までの武隈(たけくま)家は独立勢力だったけど、信厳公が亡くなった今、それを続けるのは難しい。

 真木家は、武隈を離れることも視野に入れなければならない。


「桜姫が上森の姫でもある以上、僕らも富豊につくべきだろうね」


 兄上が考えながら口を開く。

 上森家は剣神公の死後に富豊に臣従して、五大老に任ぜられている。共に桜姫を護るなら、歩調を合わせたほうがいい。

 今後の歴史の展開を考えたら、徳山についた方が勝ち組だとは思うけれど、兄上はともかく『雪村』が、徳山派閥に属する訳にはいかない。


 ああ……『桜姫』に転生していたら、こんな事で悩む必要もなかったのになぁ。


 ただ、桜姫なら万事安泰って訳でもない。

 主人公にトラブルはつきもの。ゲームでは今後『大阪の花見』に招かれて、富豊や徳山が居る場で「桜姫は”神の子”だ」と克頼(かつより)が大々的に宣伝してしまうという、とっても面倒な展開が待っている。

 そしてこのイベントのせいで、秀好の側室・拠殿(よりどの)や徳山家靖に目をつけられる事になる。

 ゲームのシナリオ通りなら、そろそろ『花見』イベントが発生する筈だ。



 ***************                *************** 


 それからしばらく経った頃。富豊家から武隈宛てに 花見の招待状が届いた。

 そして兄上と私も、護衛として同行する事になった。


 ちなみにこの花見、克頼と兄上は参加するけれど、雪村はお留守番だ。

 ただ大阪では『桜姫と美成(みつなり)が会うイベント』が発生するので、桜姫をそれに連れて行かなければならない。


 やっと美成と初対面か……

 家靖(いえやす)ともここで初対面だけど、花見の時に自動的に会うので、こちらでやる事は特に無い。



 ***************                *************** 


「雪村、似合う?」

 

 綺麗に着飾った桜姫が、嬉しそうにくるりと回った。

 ただ桜姫の可愛い顔は、薄衣(うすぎぬ)の被り物で隠されている。


 ちなみに薄衣とは、羽衣みたいに薄い絹のこと。

 超絶美少女なのにもったいないけれど、このルックスがバレたら、それでなくとも目を付けられやすい主人公姫が、攻略対象以外にもモテモテになってしまう。


「ええ、よく似合っていますよ」


 顔が見えないのに「似合う」もないけれど、正直が美徳とは限らない。

 何と言ってもあちらは主人公姫で、こちらは攻略対象だ。

 にっこり笑い返してお世辞を言うと、桜姫が意味深に私を見上げてきた。


「ね、雪村? これって結婚式みたいじゃない?」

「結婚式……ですか?」


 ん? 花嫁さんのベールの事を言っているの? 時代劇なら角隠しじゃない?

 それとも異世界にはベールがあるのかな?

 何だか台詞が『恋愛イベントの前振(まえふ)り』みたいだけど……


 そこまで考えて、私はふと気が付いた。

 ええ……ちょっと待って?


 まさかこれは「結婚式の新郎っぽい行為を仕掛けてこい」って、遠回しに言われている?  誓いのキス的な?  いやそれはまだ早いだろ……


 だがしかし。


『好感度が低いうちにぐいぐい攻めて、恋愛イベントに失敗する』のは乙女ゲームのセオリーだ。……円満に恋愛フラグを折りたいなら、ここで攻めに転じるのも良いかもしれない。


 私は目の前の、可憐な姫を見下ろした。

 薄衣で顔が隠れた桜姫は、本気で言っているのか冗談なのかもよく解らない。

 私は少し……いや、かなり逡巡(しゅんじゅん)した後で、桜姫の策に乗ることにした。


 何と言ってもあちらは主人公姫で、こちらは攻略対象だ。(大事な事なので2度言いました)

 姫がその気なら、攻略されねばなるまい。……ある程度は。


 私は花婿よろしくベール……いや、「薄衣を(めく)る」シミュレーションを心の中で繰り返しながら、改めて姫を見つめた。 


 まずは桜姫の 状況確認だ。


 パターン其の一:(めく)った後「さあ来い!」と目を(つむ)られた場合。

 ①「額か頬にチュウ」

 ②「おくちにチュウ」


 私にとっては「はじめてのチュウ」なんですけどね! 

 ②の場合は、今の好感度で仕掛けると フラグが折れる可能性が高い。

 一発くらいは殴られる覚悟が必要だけど、雪村ルートは『恋愛失敗』の選択肢が少ないから、ここで折っとくのもアリ。


 パターン其の弐:可愛らしくきょとんとしていた場合。

 ①私の考え過ぎって事だから「笑って誤魔化(ごまか)す」一択。


 さあ姫、どっちだ!?


「でもこれでは、姫の可愛らしいお顔が見えません」


 リップサービスを交えながら、私はさっそく姫の顔を覆う薄衣をめくってみた。

 中には驚いたような桜姫の顔。あ、これはどっちも違……


 その瞬間。

 どの予想にも反して、姫の右ストレートが 私の脇腹に突き刺さった。

 

「げふん!」

「きゃあ! 雪村、大丈夫!?」

 

 身体をくの字に折って悶える私に、桜姫が悲鳴を上げる。

 やだー私ってば考え過ぎだったみたい。

 私はへらりと笑って「大丈夫です」と答えた。


 結局、これは何のイベントだったのかは解らないままだけど、ちゅーしてくれ、みたいな展開にならなくて本当に良かった!

 ファーストキスは守られたぞ……! 雪村……!



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