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123.打診と打算と姫の災難4 ~side K~

 美成も驚いたが、さすがとそれには信倖も驚いたようだった。


「待って! そこまで君がしなくていい。こうなったのは誰のせいでもないんだから、戻らなかったとしても雪村は生涯、僕の手許(てもと)に置くよ」

「私は生涯かけてその方法を探すつもりだ。ならば手許に置いた方が都合が良い」

「で、でも」


 おろおろし始めた信倖の背に向けて、美成が声をかけた。


「信倖、君は」


 兼継の策に()まりかけてますよ、と言いかけた美成の腹に、信倖の脇をすり抜けて高速で飛んできた(はし)がどすりとぶつかる。

 余計な事を言うなという事らしい。


口を(つぐ)んだ美成の耳に、朗々(ろうろう)とした兼継の声が聞こえてくる。


「信倖、お前は「乳兄弟を雪村から離せ」との桜姫の忠告を聞き流した結果、あのような事になったらしいな。危機管理の観点から言うと感心しない。雪村をお前の手許(てもと)に置いておいて、再発はないと言い切れるか?」


 ばったんばったんに信倖が(たた)()けられている。

 酔っている男とは思えない舌鋒(ぜっぽう)の鋭さだが、混乱した信倖は気づかない。


「……何を見せられているんでしょうね、俺は」


 美成は酒に口をつけながら、内心(つぶや)いた。



 ***************                ***************


 項垂(うなだ)れたまま寝息をたて始めた兼継を(なが)め、信倖と美成は三度(みたび)、顔を見合わせた。


「……僕、ちょっと(とこ)の準備をさせてくるよ。美成も泊まってく?」

「俺はいい。明日も早いですからね」


 適当に帰る、という美成に心ここに()らずといった返事をして、背中に疲れを(ただよ)わせた信倖がよろりと部屋を出ていく。


 信倖の足音が遠ざかるのを見計らい、美成は兼継の肩に手を置いた。


随分(ずいぶん)と思い切りましたね。男相手に、まるで嫁取りの打診(だしん)じゃないですか」

「仕方がなかろう。信倖の乳兄弟が先にそう言いだした。私にもそのつもりがあると信倖が知っていれば、滅多(めった)な事にはなるまい」


 信倖の乳兄弟であれば、将来的には真木の重臣となるだろう。『真木の姫』の降嫁(こうか)は十分にありえる。……姫であれば、だが。


 酔いの演技をやめて顔を上げた兼継を、美成がくつくつと笑う。


「面白い事になっていますね。女子(おなご)になって、まださほど()っていないというのに、もう男を手玉にとっているのですか」

「笑いごとではない」


 肩に置かれた手を払い、兼継は軽く美成を(にら)んだ。


「お前、私の邪魔をしようとしたな? 私としてもこのような話は、酔った振りでもしていなければ口に出来ない。必死だったんだぞ?」

「必死が聞いて呆れる。信倖の方が死にそうな顔をしていたでしょ。(はた)から見ている分には面白いが、酔いの演技が()ぎると 酒の席での戯言(ざれごと)と取られますよ」

「当たり前だ。信倖の了承が得られるとは思っていないさ、雪村は『弟』なのだからな。このような話、酒の席でもなければ出来るものか」

「ですよねぇ」


 そう言ってくすくす笑う美成の耳に、予想に反した台詞が聞こえてきた。


「……素面(しらふ)の時に言って断られたら、こちらの精神が()たんだろう。政略結婚の方がずっと気楽だぞ」


 吐き捨てるように(つぶや)いた兼継を、美成は唖然(あぜん)と見返した。

 むすりと黙り込んだ横顔は、言葉とは裏腹に、信倖の言質(げんち)が取れなかった事に苛立(いらだ)っているように見える。



 ……茶番じゃなかったのか?




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