121.打診と打算と姫の災難2 ~side S~
視点違いですが、前作と内容が被っています。
俺は観楓会に参上すべく、影勝義兄上様と一緒に大阪へとやってきた。
今回の俺の装いは、雪村セレクト・莟菊の襲とやらに、春の花見と同じく薄衣を頭から被ってるスタイルだ。
別に影勝は克頼みたいな事は言わなかったんだが、先日の一件で思い出したんだ。
『桜姫は 一目で男を篭絡するような超絶美少女だ』ってことを。
正直、観楓会で正宗に会ったら面倒くさい。
別に名乗った訳じゃないんだ。顔さえ隠れていれば知らんぷりできるだろ?
あっちも顔が確認できなきゃ 声をかけてこないだろうし。
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大阪に着くなり、俺は畳に倒れ込んだ。
久し振りの輿での移動は、予想以上に身体にキく。最近ほむらでの移動ばっかりで長距離ショートカットだったからなぁ。
影勝も神龍使ってショートカットすればいいのに、龍の神力を『領地の守り』にしか使わない義兄上サマは、そういうズルをしない。
あ、ごめん。雪村がズルいって意味じゃない。ほむらはまぁ……乗り物だよ。
疲労困憊の俺がぐうぐう寝ていると、その日の夕刻、俺が大阪に着くのを待ち構えていたかのように雪村が「武隈邸を改装しましたので、是非遊びに来て下さい」と誘いに来てしまった。
何か相談事がありそうな雰囲気だ。どことなく表情が固い。
「何だよー。そんなに俺に会いたかったぁ?」
お道化てみたけど、雪の表情は晴れない。黙ったまま目を伏せているのは、考えをまとめてるんだろう。
俺は茶を飲みながら雪が口を開くのを待った。
やがて少し改まって。雪は思ってもみなかった事を言い出した。
「小介が「兼継殿は『雪村が別人と入れ替わっている』事に気づいてる」って言うんだけど……。越後に居た間、兼継殿にそんな素振りなかった?」
茶を噴き出さなかったのは 目の前に雪が居たからだ。
無理矢理抑え込んだせいで噎せ返りつつ、俺は雪を見返した。
「雪が雪村に成りすましている」のは、俺が話したから兼継はもう知っている。でも小介が何でそこまで知ってんだ!?
あの女癖が悪そうな小介が「雪村の中身が女っぽい」ってのに気付くまでは、まぁ解るとして。
「兼継も気付いている」ってとこまで判るの、おかしくない??
畏まっていた雪が、しょんぼりした顔になる。
「少し前に兼継殿が沼田に来た時、まぁちょっといろいろあって小袖をくれたんだよね。それがその、女物で……。私もそれ、特に気にせず受け取っちゃったの。本当は「私は男だから女物は着ません」って答えなきゃダメだった。小介がそれに気づいて。兼継殿も気付いてる筈だって」
そういえば そんな事があったか。
ちくしょう兼継の野郎、桜姫には団子のひとつも買ってこなかった癖に、雪には随分な大盤振る舞いだな!
食い意地とジェラシーに苦しむ俺とは裏腹に、雪の方は本当に辛そうな顔になっている。
「兼継殿、今日ここに来ているんだけど、兄上に「話がある」って言ってて……何をいうつもりなんだろうって」
気づけば雪の顔色が悪い。
これ、ほっといたら過呼吸でもおこしそうなんだけど、ここにはビニール袋なんて無いぞ……
「それで『別人だって気づいている』か。なるほどな」
俺はそっと雪に近寄って 背中をぽんぽん叩いた。落ち着くまでそれを繰り返す。
そうしながら俺は、誰が何を、どこまで知ってるのかが煩雑になってきている事に、改めて気づいた。
主な原因は俺がぺらぺら喋ったり、隠したりしてるせいだが。
息が落ち着いてきたみたいなので、俺は深刻に聞こえないように注意しながら雪に確認した。
「何だかごちゃごちゃしてきたな。ちょっと整理しようか。まずさ、何で雪は兼継と信倖に知られたくないんだっけ? 俺、理由聞いてた?」
目を見開いた雪が、ちょっと逡巡する気配を見せてから しゅんと顔を逸らす。
「……この身体になった夜に、兼継殿が「元に戻す方法を探す」って言ってくれたの。『雪村』が困っているからそう言ってくれたのに、私は雪村じゃない。それを知ったらどう思うだろうって、それが怖い。そもそも「女の私」が雪村の中に入ったからこんな事になったのかも知れない。雪村にも兄上にも、何て言って謝ればいいのか解らない」
雪村の中に『雪』が……『異世界から来た別人が入っている』ってのは兼継はもう知っている。
それは俺が喋ったから。だが雪は『兼継がもう知っている』って事を知らない。
さっき言ってた様に、雪は『信倖と兼継に知られる』事を怖がっているから、余計な心労をかけたくなくて この事はまだ伏せている。
そして、「雪村が女になったのは『カオス戦国』の特殊条件下で発生する兼継18禁イベントのせい」だっていうのは、兼継も雪も知らない。
兼継にはこんな事を話してもちんぷんかんぷんだろうし、雪には単に話すきっかけやタイミングが今まで無かった。
ただ兼継は未来は『選択』するものだって認識はしていて、その選択した未来に、本来『雪村が女のままの未来』は無いってのは知ってる。
あと『契れば男に戻る』ってのは、兼継は知っているけど雪は知らない。
これも雪に話すタイミングを失していたからだ。
ちなみに今、兼継が『契る以外で男に戻す他の方法』を探しているのは、雪と約束したから……というより、契ろうとしたら雪に怖がられたのが、地味にショックだったっぽい。
どうしようかな、どう話す? 俺は改めて雪の顔を覗き込んだ。
「俺が越後に居た間は、そんな感じじゃなかったよ。ただ六郎に関しては心配してた。お前、越後に居た時は「女の身体の自覚を持て」って兼継にさんっざん叱られてたろ? 女物の小袖を自然に受け取ったんなら、兼継的には『合格』だろ。小介はそれ知らないからそういう風に感じたんだよ」
「そう……なのかな?」
雪の表情は不安げなままだ。俺としてもこの程度の言い繕いで、雪の不安を払拭しきれるかは自信が無い。
だがとりあえず今は「兼継が雪の件をもう知っている」ってのは伏せよう。
兼継が『契る』以外の『元に戻す方法』を見つければ、今 教えるのは余計な心労を増やすだけだ。
それに雪は、桜姫と兼継のイベントを進めたがっているけど、兼継にはその気がない。あいつは雪が好きだからだ。
それだけでもメインヒーローから桜姫のライバルキャラにシフトだっつーのに、『中身が別人だと知って』いて、そのせいで桜姫とのイベントが進まないなんて知れたら、ストレスで雪が死ぬ。
でもこれは話しといてもいいだろう。少しは負担が軽くなる。
俺は表情を緩めて、雪の肩を叩いた。
「俺にも正直、兼継が何を考えてるかなんて解んない。ただこれだけは教えとくよ。雪村が女になったのは雪のせいじゃない。ゲームのイベントだ」
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不思議そうな顔で見返す雪をさらに見返し、俺は苦笑した。
もうこっちの生活が現実になりつつあるから、いきなり『ゲームのイベント』って言われても頭が追い付かないんだろう。
でもゲームの『長年のご愛顧感謝イベント』について説明すると、そのイベントについては知っていた。
「まあとにかく。その初版データがあったら発生する『特殊イベント』で雪村が女になってたんだよ」
「そうなの!?」
雪が素っ頓狂な声を出す。
まあ驚くだろうなぁ。まさか乙女ゲームで女体化があるとはなかなか思わないよ。
でも雪は「自分が雪村の中に入ったせいではない」可能性にほっとしたみたいだ。
「うん、だからそれに関しては雪が気に病む必要ないよ。この世界はNEOに準じてるみたいだし、ゲームのイベントのひとつだと思ってさ」
笑ってそう言うと、雪もやっと笑顔になる。
元気になった雪を見て、俺もほっと胸を撫でおろした。
ごちゃごちゃしてきて(私が)訳わかんなくなったので、現状把握を兼ねた話です。
読んで下さった方、(ありがとうございます。励みになっています)進展なくて
申し訳ありません。