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102対峙 再び1 ~side S~

「雪村もお前と同じく、別人と入れ替わっているのではないかと言っている」

「気を付けて見ていてくれ」


 兼継から言い渡され……いや、依頼されてからひと月が経ち、俺は再び、越後へと戻ってきた。



+++


 雪村は、俺と同じ現代人の女性で、『カオス戦国』プレイヤーだった。


 それを知る事は出来たんだが、「くれぐれも雪村に悟られるな」と言われた部分に関しては、ミッションに失敗している。

 挙句に雪からは「雪村の身体に自分が入っていることは、信倖と兼継には言わないでくれ」と懇願(こんがん)されてしまった。


 あんなに必死で頼まれたら断れる訳が無いし、ましてや「兼継が(すで)に気付いている」なんて言えやしない。

 結果として俺は、兼継には『雪村に悟られた』事を隠しつつ、雪には『兼継が気づいている』事を隠さなければならなくなった。


 雪を守り、さらに俺自身を兼継から守るにはどうしたらいいだろう。

 俺は必死で回避策を考え続けている。



 ***************                ***************


御殿(ごてん)へ行ってくるわね。兼継殿に、お渡ししたい物があるの」


 俺は緊張を押し隠し、小さな竹籠(たけかご)を手に立ち上がった。

 これは昼食が入っていた竹籠(べんとうばこ)に、山で適当に取ったキノコを入れたものだ。

とりあえず中身はどうでもいい。


「姫様が兼継様に手土産を……?」

「いったいどういった心境の変化でしょう?」


 さわさわと小声の(ざわ)めきが部屋に満ちて、俺は内心苦笑した。

 うん。わざわざ聞いた事は無かったが、やっぱり俺と兼継の仲がよろしくないのは、みんな察していたんだな。


 俺はヲホホと笑いながら、足取り重く御殿へ向かった。



 ***************                ***************


 御殿の中にある御書院(ごしょいん)(たず)ねてきた客と接見する部屋。現代でいう応接室だな)の一室で、俺は兼継と対峙(たいじ)した。


義兄上(あにうえ)様と執政殿に、帰参(きさん)のご挨拶に参りました。義兄上様にはお帰りになられた時にご挨拶しますので、貴方から伝えて下さればいいわ。でも執政(しっせい)殿にはお会いする機会がありませんし、対面は(かな)わないかしら?」


 いつだったか屁糞葛(へくそかずら)を手に乗り込んだ時とは対照的に、静々(しずしず)と御殿を訪ねた俺は、手土産(を装ったブツ)をチラつかせながら取次(とりつぎ)役に微笑んだ。


 美少女微笑の効果は絶大だ。

 取次は、にこにこしながら俺の言いなりになった。



+++


 そして今、俺は兼継と向かい合って座っている。

 用が済んだキノコを(わき)に置き、俺は気づかれないように深呼吸をした。


 対峙の場を御殿にしたのは、少なくとも取次が『ここに桜姫が来た』と知ることになるからだ。

 これで奴は、俺に手出し出来ない。

 もたもたして兼継に先手を打たれると、奴は俺を言葉(たく)みに散策へと誘いだし、人気(ひとけ)のない所でトドメを刺そうとするだろう。

一番安全なのは、影勝のお膝元(ひざもと)だ。


 先手を打たれた事に気を悪くした訳でもあるまいが、兼継の対応はいつにも増して冷ややかだった。


「私は忙しい。用があるなら手短に頼む」

「先月、あんたに頼まれていた件についてだ」


 余計な前置きは入れずに、俺は息を整えて兼継を見据(みす)えた。


「雪村は、あんたの予想通り、別人が入っている。俺と同じ世界から来た女だ」


 兼継はどう出る?

 感情の揺らぎが まったく感じられない。



 ***************                ***************


 兼継が口を開かないので、俺は勝手に話を進める事にした。


「ただ雪村……便宜(べんぎ)上、女の方は『雪』と呼ぶが、最初、雪村と雪は同じ身体に同時に存在して、上手くやっていたそうだ。あんたと再会した頃には、雪は(すで)に雪村の中に居た。そして『雪村』が居なくなったのは、女の身体になった時らしい」


 そこで初めて兼継の表情が揺らぎ、俺は言葉を飲んで見返した。

 ……こいつ、一瞬動揺した?


 すぐに取り澄ました顔に戻った兼継の表情を探りつつ、俺も話を再開する。


「前にも話したと思うが、俺はこの世界の未来が分かる。それは同じ世界から来た雪も同様だが、彼女が知る情報は 俺が知るものより若干(じゃっかん)古い。だから雪は、あんたと(ちぎ)れば男に戻る、そしてそれが『本来あるべき未来』だと知らなかった」

「だから」 


 一度言葉を切って、俺は兼継を(にら)みつけるように見据える。


「『雪村』に戻したいなら『雪』と契れ。彼女はそれこそ誰よりも『雪村』を戻したがっている。あんたと契れば『雪村』が戻ると知れば、雪はそうするだろう。 ……鍵はお前だ。お前が決めろ」



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― 新着の感想 ―
ほえーここで兼続が「雪」という固有名詞を知るのか。 物語冒頭で雪緒のそばに居たのは男性化したヒロインか、分裂して姿を変えた雪村かと思ったけども、兼続もあり得るようになったか。 ここまでフォーカスが当た…
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