たまごスープ
"ガッチャン"
玄関が勢いよく開いた。
一瞬にして重たい空気に変わる。
「ねぇ、靴揃えろって言ったよね?何回言わせるの!」
「ごめんなさい...ママ...ごめんなさい...」
おかえりなさいママ。
今日はね、公園に行ってね、ダンゴムシを捕まえてね、それでね、お勉強もしてね、ホラ!見て見て!ママにお手紙書いたんだよ!!!
ポケットに握りしめている手紙を差し出そうと、ママへ手を伸ばした。
「なにこれ!汚い!ゴミはちゃんとゴミ箱に捨ててきて!」
「ううん、これはママにお手紙かいたんだよ!あげる!」
やった!やっとママに渡せた!うふふふふ!
【ママへ いつもありがとう だいすきだよ】
ママが読んでくれた!!!嬉しい!!!!
笑ってくれるかな?喜んでくれたかな?
「ってかさ、ママの事大好きなんだったら早く靴片付けてきてよ、あともうあんたのパパは居ないから!二度とパパって言わないで」
...?
「なんで???」
なんでパパは居なくなるの?そんなの嫌だよ...涙が止まらないよ...
ママは私の声が聞こえてないの?こっち向いてよママ...
「パパはなんで居なくなるの?」
"バチンッ"
目が覚めたら床に寝っ転がっていた。
ママが私のほっぺたを叩いた。
痛いよ...どうして悪い事してないのに叩くの...
ママ... パパ...涙が止まらなくてごめんなさい...
声は出さないから...ごめんなさい...
"ガッチャン"
玄関が優しく開いた。
音で分かる!!!パパだ!!!
私は一目散に走った。
「パパーーーー!!!!おかえりなさい!!!!」
「アルファ!ただいま!どうしたんだ泣き虫ちゃん、何かあったのかな?そうだ、今日はパパ特性のたまごスープを一緒に作ろう!アルファの大好きなたまごスープだぞ〜!」
「やったー!!!!」
「ねぇ?」
ママが鬼さんみたいに怒って机を叩いた。
怖くなって、パパの足にぎゅーってした。
「あのさ?よくものうのうと帰ってこれたよね?ふざけんじゃないわよ!!!!アルファとルートは絶対に渡さない、今週中に荷物まとめて出ていって!!!!」
「まだその話をしてるのか?だからあれは誤解だって何度も言ってるだろ!それに、子供たちの前で話すのはやめにしよう。こんなに怖がってる。納得がいかないならママも一緒に話を聞いてくれよ、本人から聞くのが1番信用できるだろ?」
「なんで私が行かなきゃいけないのよ!お前何様のつもり?」
ママは突然パパに殴りかかって足で蹴ろうとした...
怖いよ...目を瞑らなきゃ...
「分かった分かった、分かったからちょっと落ち着け、アルファに当たったらどうする、どうしたいんだ?なにがそんなに嫌なんだ?俺は怒らないし、お前を愛している。何が気に食わないのか教えてくれないか」
パパが抱っこしてくれた。
ぎゅーっと服を握りしめて、顔をうずくめた。
「話になんない。本当にもう無理、耐えられない」
発狂しながら、アルファを奪い取り
ママやめてと泣き叫ぶがお構い無しにそのまま話し始めた。
「何も知らない顔して!よく堂々と家に帰ってこれたわよね!!!ふざけんじゃねぇよ!!!死ね!!!死ねよ!!!」
包丁を取り出し、パパに突きつけた。
パパは微動だにせず、一言だけ口を開いた。
「アルファとルートを必ず幸せにすると誓うか」
包丁は床にポトリと落ちた。
パパから血は流れていなかった。
「お前がいないだけでこの子達は幸せだよ!!!!このクソ野郎が!!!早く出てけ!!!!今すぐ出てけ!!!」
パパは頷きながら包丁をゆっくりと取り、流し台に戻した。
「アルファ!お前は皆から愛される力を持っている!皆のアルファだ!沢山色んな事を経験しなさい。女の子だからって遠慮する事は無い。男の子よりも強くなって、ラブアンドピースを目指しなさい。」
「ルート!お前は俺によく似ている。ぶくぶくベイビーだ。沢山食べて沢山寝て、大きくなったら誰よりもお姉ちゃんとママを守ってくれ、パパとの約束だ!」
「ママ、俺は出ていく、必ずアルファとルートを幸せにしてくれ。それだけでいい。」
そういうとパパは何も持たずに出ていってしまった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁん」
私は泣き続けた。
ママからお仕置で押し入れに閉じ込められたけど
それでも泣き続けた。
パパは出ていってしまった。
戻ってこない事が分かるから、涙が止まらない。
怖いよ。
寂しいよ。
パパ。
パパ。
そして気がついた頃、私は6歳になっていた。
...ここはどこ???