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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

はーれむ

作者: 夜露鸙 水音

時代錯誤な思想、一部女性の方が不快になる表現がございます。

そういった表現が苦手な方は読まないことをおすすめいたします。

また、普通の恋愛をご所望の方も読まないことをおすすめいたします。


 私は綺麗事が嫌いだ。

 私は今生物学を専攻している一女子修学生に過ぎないが、ゆくゆくは博士を目指している。

 改めて私は社会全般が頭の悪い誰かによってコントロールされていることが許せない。

 身近な例で言えば、少子化を嘆きながら性的な表現を避けるカマトトが大嫌いだ。

 全ての生物が生殖と子孫繁栄のため躍起になっている最中、知能の高さをひけらかすかのように斜に構え小賢しく、まるで罪悪かのように性を語る人間がおぞましいほど憎い。

 それは世の女権拡大派の愚かな連中に対しても同様だ。

 奴らは色々と理屈をこねてはいるが、倫理や道徳に反しない限りどう足掻いても性別による能力の差は埋まるはずがない。

 女性特有の装いも突き詰めればセックスアピールに他ならない。

 同じ女性ながらそれが理解出来ないのかと思うと憤りすら感じる。

 そして私は生存競争という言葉が嫌いだ。

 最終的に何故生存していかなければならないのかという基本的でシンプルな問いに対する答えも見いだせていない人間風情が高見の見物のごとく上から目線で講釈をたれている様がどうにも不愉快だ。

 より多く、より優れ、より広範囲に繁殖する能力を持っているのは我々であるなどと傲慢にも思っている様が滑稽すぎて呆れるばかりだ。

 人間などこと繁殖という観点からすれば、そこら辺のセミやバッタ、ナマコやクラゲ果ては寄生虫や菌にすらも劣っているというのに。

 こと生命力という点において人間は最下位に近い。

 知能においても時折大量発生する昆虫を見るにおいて、人間よりも戦略的で合理的である。

 集団になると途端に無能さが露見する人間など遥かに凌いでいると言える。

 生命は何を目的に何処を目指しているのか。

 分からないのであれば、いっそスピリチュアルに神話の終末論や宇宙人の実験説などを全面に掲げ、カルト的な宗教に没頭している方がまだ好感がもてるくらいだーー

 

 

 平成◯◯年 ◯◯大学 修士課程 成績優秀者早期卒業式 首席生徒スピーチの様子。

 

 

 「・・・・・・」

 嫌なことを思い出しちまった。

 俺は映像の途中だったが、苦虫を噛み潰したような表情でノートパソコンを閉じる。

 引っ越しのために部屋を整理していたら妻の大学時代の様子を納めたDVDが出てきたので、ついつい魔が差して再生してしまった。

 「(そうだよなぁ・・・、こういう奴だったよなぁ詩織は・・・)」

 少しでもまともな妻の姿が見られるのではないかと淡い期待を抱いた俺がバカだった。

 「どうしたのだ、ダーリン?」

 何をしていたんだ?と急に背後から覗き込んできた妻に対してオレは思春期の中学生男子並みに取り乱し、「な、何でもないよ、休憩休憩!」と返すので精一杯だった。

 「キッチンの方は粗方終わったぞ、後はこの寝室と玄関だけだ」

 ふんすと鼻息多めにドヤ顔を決める妻の姿に無意識に薄ら笑いとため息が漏れる。

 「む、何かバカにされている様な気がする・・・!」

 今度は膨れっ面の妻。

 妻の容姿は贔屓目に見ずとも目鼻立ちの整ったいわゆる美人のそれだ。

 それも相まってかコロコロと変わる表情は、まるで漫画に出てくるキャラクターのようだった。

 「ち、違うんだ、押し入れを整理してたらこんなのが出てきて、見てたらなんか懐かしいなぁって・・・」

 俺はノートパソコンからDVDを取り出して見せながら正直に話した。

 「おお、懐かしいなぁ。もう5年前になるのか、これは私が卒業式のスピーチで将来の展望について話した時のものだな!」

 どうやら俺の知っている将来の展望と妻の思うそれは少しニュアンスが違うようだった。

 「な、なるほど、確かに前向きな姿勢が感じられる良いスピーチだったよ」

 「本当!?何だかダーリンに面と向かって誉められると照れるなぁ」

 嬉しそうに頬を赤らめる妻。

 『前向き』と言うか『前衛的』と言うか。

 むしろ『攻撃的』と言っても差し支えない内容だったが、俺が見たのは前半部分だけだったから、もしかしたら後半部分には大どんでん返しの感動が待ち受けていたのかも知れん。

 そうであったと思っておこう。

 いや、むしろそうであってくれ。

 そんなことを考えている内に妻はノスタルジーに浸り始めたのか、特に躊躇うこともなく思い出話を始めるのだった。

 「そういえばダーリンと初めてあったのもこの頃だったな、合コンを開いてくれた先輩には感謝感謝だな」

 当時妻と同じ研究室には博士課程の先輩がいた。

 酒と他人の世話が大好きなかなり顔の広い人だった。

 彼は大学内の学部、学科、派閥、全ての壁をぶち抜く合コンマスターとして名を馳せていた。

 俺は妻とは違って文系だったので本来繋がりは希薄なのだが、その時俺の入っていたボランティアサークルの先輩経由で声をかけてもらったのがきっかけだった。

 「それにしても詩織が合コンなんかに興味があったなんて今にして思えば意外だな」

 「うむ、何事もデータ収集に最適なのは実践だからな」

 妻は学者のような台詞とともにえっへんと胸を張る。

 「しかし実のところ、あの時の合コンに関しては飲み過ぎていたせいか途中部分の記憶が曖昧なのだ。何かオオゴトになっていたような気がするんだが・・・」

 顎に指を当てる仕草で考え込む妻。

 「・・・・・・」

 俺はその事件をはっきりと覚えている。

 通称、『逆ハーレム未遂事件』。

 あの日は男女共にテンションが異様に高かった。

 妻は初めての合コンということもあって舞い上がっていたのか、最初からものすごいペースで飲んでいた。

 かく言う俺もそれが初めてだったので緊張と不安を隠すように酒を煽っていた。

 そうこうしていると順番に自己PRしていく流れになり、妻の番が回って来た時にそれは起きた。

 妻は開口一番、『恋愛のことはよく分からんが、まずは子供を二、三人産んでからだと私は思う!』とかなんとか言い出し、有言実行とでも言うように服を脱ぎ始めたのだ。

 当時から美人だった妻のその言動は俺の酔いをぶっ飛ばすほど尋常ではない衝撃を与えた。

 しかしそれと同時に俺は妻に対して好意というのか尊敬というのか、何か複雑な感情が沸いてきて興味をそそられたのは確かだった。 

 しかしそんな俺の心境をよそにその場は一時騒然となり、それを皮切りにあわや乱交という怒涛の展開だった。

 「あー、今思うとあの時は周りもヤバかったんだよなぁ、男も女も止めるどころか悪ノリしちゃって・・・」

 「でも、その時ダーリンが率先して私の貞操を守ろうとしてくれていたのは覚えているぞ」

 「そりゃたまたま俺の中に理性が残ってたんだろうな」

 「なにせ半裸のまま小一時間も説教されたのは産まれて初めてだったからな。そのせいか酔いが段々覚めて・・・、後半は流石に覚えている」

 なんだかんだ俺も予想だにしない事態に取り乱していたんだろう。

 完全個室の居酒屋で他の客もほとんどおらず被害が最少に押さえられたのは本当に幸運だった。

 「あの時は本当に悪かった反省している」と妻は言う。

 「そのお陰で今ではまともな妻になれたと思っている、感謝しているぞダーリン!」

 「・・・おう、そうだな」

 俺の手を両手でブンブンと揺する。

 「・・・実はあの時私はダーリンとつがいになりたいと思ったのだ」

 妻ははにかみながらも上目使いで俺の目を見つめている。

 「俺もあの時にはもう詩織のことが好きになってたんだと思うよ」

 「へへへ、愛してるぞダーリン!」

 そういうと妻は俺に抱きつきキスをする。

 「あ、そうだ忘れてた!」

 妻はハッとして踵を返す。

 矢継ぎ早な展開に俺が面食らっていると妻はそのまま部屋をパタパタと出ていってしまった。

 「・・・ふふ」

 俺は妻の慌ただしい様子に薄ら笑いとため息をこぼす。

 しばらくすると窓の外から妻の声が聞こえてきたので、俺はいつものように窓辺に腰をおろし外を眺めた。

 このマンションには共有の庭がある。

 ふと見下ろすとそこには楽しそうに笑っている三人の子供たちとお腹の大きな母親の姿があった。

 こちらの視線に気づいたのかその母子はこちらに向かって笑顔で手を振っている。

 そしてその母親はそのまま俺に向かって呼び掛ける。

 「ダーリン、私はこのまま引っ越しのトラック迎えに行くから子供たちお願いね~!」

 「ああ、分かった!」

 俺は返事をすると一言だけ「気を付けろよ」と付け足した。

 俺は身重の妻を見送りながら物思いに更ける。

 本来詩織には博士課程に進み、将来的には有名な生物学者になるという可能性があった。

 しかし、俺という存在がそれを阻害してしまったのだ。

 そう考えると心中複雑だが、子供たちとはしゃぐ妻の姿を見ているとこれが唯一の幸せの形だったのかもしれないとも思える。

 何かを犠牲にすることで得られる幸せもある。

 そしてそれはお互いの犠牲で唯一無二の尊いものへと変化するのかもしれない。

 俺は生きとし生けるもの全ての幸せとは、こういうことなんじゃないかと思い始めた。

 夏の朝、まだ涼しい時間帯の心地よい風がサーっと吹く。

 木々は葉を鳴らし、子供たちの笑い声は太陽のように辺りを照らし続けている。

 逃走防止用に窓に嵌められた太い鉄格子が頬に触れ、その冷たさに少し身じろぎをすると、不意に俺の足下で特製の足枷がチャリっと鳴った。

 

書きたい場面のみの切り抜きのため多々不足があったかと思われますが、最後までお読みいただき有難うございます。

ちなみに詩織の好きな食べ物は甘口カレーです。

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