★第5話★ 謎の同級生と同級生の謎
★第5話★ 「謎の同級生と同級生の謎」
・・・摘人政策が始まって、
早くも5日が過ぎようとしている。
今日は金曜日で、普段なら少しウキウキ気分になる日ではあるけど、
今週は大学の授業が全て休校になったせいで、
曜日感覚が狂っている。
実際、先週までよりも多忙な1週間だった。
鈴木 結乃こと”ゆのぽん”の
インフルエンサー活動に協力する毎日だ。
・・・仲良し3人グループの生き残り、
海藤 群司との連絡は相変わらず付かないし、
この摘人システムの詳細を解き明かし、
ひとまず自分の保身に徹するためにも、
結乃に協力する選択肢しか俺にはなかった。
今現在、摘人の基準となる
”社会貢献度”については、未知の要素が多い。
実家の秋田に避難することも考えたけど、
どんな条件で個人の”社会貢献度”が変動するのか、
まだ正確に判明していないせいで、迂闊に行動できない。
もしミスって社会貢献度が規定値を下回れば、
周囲から命を狙われる対象となってしまう・・・。
来週からは大学も再開することが決まっており、
不確定要素が多い中での大学生活には不安を感じざるを得ない。
・・・現在時刻は16時を回ったところ。
俺はスーパーの無人レジで会計を済ませ、
パンパンのビニール袋片手に道を歩いていた。
中身は、鈴木 結乃に頼まれた食料だ。
背後からは俺のモバイルポット、ジングーが追従してくる。
・・・鈴木 結乃こと”ゆのぽん”は
マンションの自室の隣の部屋を
”摘人システム攻略”作戦の活動拠点として契約し、
昨日から入居、というか、利用が可能になったばかりだ。
さっきまで俺はその活動拠点にいて、
ネット注文で届いた
テーブルと椅子の組み立て・設置を行っていた。
ちなみに、ネット注文時の会計は
俺が結乃から貰った5万円で払った。
すると、注文後1分と待たずに
俺の社会貢献度は”1”だけ上昇し『32』となった。
それが今週の月曜日の出来事で、
それ以来、俺の社会貢献度は変動していない。
下手なアクションを起こさないのであれば
社会貢献度が下がらない仕様になっているなら
少しは気も楽だけど、週ごとに値が一斉に更新される可能性はある。
・・・俺はあと何日くらい生きていられるんだろう?
梅雨の時期ではあるけど、
雨上がりの夕方の風景はそれなりに奇麗だ。
6月も中旬に差し掛かり、
蒸し暑さを感じるようになってきたけど、
夏の訪れを僅かに感じさせるこの時期は個人的に好きだ。
あちらこちらに水溜まりができているので、
それを避けながらアスファルトを歩く。
・・・来年の梅雨の時期も俺はまだ生きているんだろうか?
そんなことをぼーっと考えながら歩いていると、
小さな交差点の赤信号にぶつかる。
・・・仮に俺があと1年しか生きられないと決まっていたとしたら、
俺はこの世で何をしたいんだろう?
俺はこういう真面目な思考には普段至らないんだけど、
摘人政策が始まって以来、
なんだかシリアスになるタイミングが出てきた。
・・・というのも、こうして散歩がてら道を歩いているだけで、
そこら辺に人間の亡骸が毎日転がっているんだ。
無理もない。
ちなみに、摘人政策によって殺害された人間の亡骸は
専門の国営清掃部隊”クリーナー”が処理に当たる。
政策開始後から救急車のブルー版みたいな車両が徘徊するようになり、
遺体を見つけては、中から水色の防護服に身を包んだ清掃員が出てきて
奇麗に掃除をして立ち去る。
今、俺が歩いている周囲に亡骸が散乱している理由は、
クリーナーの掃除が追い付いていないからだろう。
・・・この5日間で、全国で約1370万人が
摘人政策によって殺害されたそうだ。
クリーナーの皆さんも多忙に違いない。
・・・信号が青に変わり、右足を踏み出したちょうどその時だった。
「きゃあああッ!!!」
女性の叫び声が聞こえ、咄嗟に右後ろを見やる。
すると、横断歩道には
自動車に跳ねられたかと思われる
小柄な女性が横たわっていたのだった。
叫び声をあげたのは
それを俺の反対側の歩道で見ていたおばさんのようだ。
「オイ!!大丈夫か!?」
俺はその女性に走り寄り、
抱き上げた。
ショートボブの明るいブラウンヘアーで、
深緑色のワンピースを着ている。
・・・身長150cm程度の小柄体型だが、
服装や髪色や顔から判断するに、
俺とさして年齢が変わらないように見える。
幸いにも擦り傷程度で目立った外傷はない。
激しい出血もない。
でも、どうやら意識もないみたいだ。
彼女のすぐ後ろでは、
彼女のものと考えられる
赤色のモバイルポットが待機している。
しかし、使用者が意識不明になった時の動作が
あらかじめプログラムされていないのか、
何もせずにただ停止している。
「ジングー!救急車を呼べ!!」
『了解だジン!現在地に救急車を呼んだジン!』
―――――それから20分後―――――
俺は今、手術室前のベンチに座っている。
さっき車に跳ねられた女性が心配で、
関係者という名目で救急車に乗せられてここまで来た。
「御子柴さん?」
俺よりも2、3歳くらい上であろう
若い看護師さんが通り際に話し掛けてくる。
やけに悲しそうな表情を浮かばせているから、
何らかの悪い知らせがあることは瞬時に察した。
「搬送されてきた彼女なんだけど、
母親のみの片親家庭で、
しかもそのお母さんがつい先日亡くなったようなのね。」
「・・・そうなんですか。」
・・・もしかすると、その母親は
摘人政策の被害者なのか?
そんなことが頭をよぎる。
でも、今口に出す必要はないし決め付けはダメだ。
「だから、もし御子柴さんが良かったら、
彼女の意識が戻るまでだけでも
この病院に足を運んであげてほしいなって思って。
どうかな?」
「別にいいですけど・・・。」
例え彼女が意識を取り戻そうとも、
俺は彼女に何もしてあげられない。
それに、俺は彼女にとって赤の他人であり、
目を覚ました時に俺が傍にいることを
彼女は拒むかもしれない。
・・・でも、こんな世の中になってしまったからこそ、
俺は以前とは比べ物にならないほど感傷的になっている。
だから、少しだけなら彼女と接することも構わないと、
そう思った。
・・・それから俺は数時間そのベンチで座って
彼女が意識を取り戻すのを待っていたが、
19時を過ぎたくらいで
医者の先生が手術室から出てきて
「彼女の命に別状はない」という旨を俺に伝えてくれた。
結局、彼女が目覚めることは無かったけど、
俺はその日はもう帰宅することにした。
看護師さんから
彼女が入院する病室番号を教えてもらい、
そのまま踵を返して病院の正面玄関へ向かって歩いた。
そして、玄関を通って病院の外へ出た、
ちょうどその時だった。
・・・俺と入れ替わりで院内に入ろうとした
見覚えのある男性が、
振り返って俺を呼び止めたのだった。
「え?ミコちゃんじゃん!」
180cm越えの高身長で整った顔立ち、
誰に対してもにこやかに接するイケメン男子、
西願 紘。
城北大学の工学部イケメン陽キャ軍団の一人だ。
「紘・・・なんでこんな時間に病院に?」
俺は驚いて訊く。
彼は相変わらずのモテモテスマイルをかましてくるが、
今はどこかぎこちない様子に見える。
「あぁ・・・大学の同級生が事故に遭ったらしくてさ、
友達に聞いたら、この病院に搬送されたって聞いて。」
それを聞いた俺は「まさか!」と声に出してしまっていた。
「ええっと、茶髪でショートボブで、
身長150cmくらいの女性か・・・?」
「そうそう!四十住 千佳だ!
ミコちゃん、知り合いだったのか?
それはビックリだな!
学部も違うのに!
どういう繋がりなんだ?」
紘はそう言って
俺の肩にポンッと軽く右手を乗せた。
すると、彼の上着のポケットから
何かが落下し、アスファルトへと転がった。
「オイ、なんか落ち」
俺が紘に声を掛けようとした瞬間だった。
彼は俺の肩を力いっぱい握ると、
そのまま物凄い腕力で押してきた。
バランスを崩した俺は、
病院玄関のガラスに頭から追突しそうになるが、
すんでのところで両手をガラスについて耐えた。
「何すんだよ!!危ないじゃねぇか!!」
俺が声を張り上げて振り向くと、
ちょうど紘は落とし物を拾って、
ポケットに入れたところだった。
「いやぁ!ごめん!
あんまり落としちゃいけないものだから焦っちゃってさ!」
紘は笑顔に戻っていたが、
明らかに動揺を隠し切れていない。
「・・・今拾ったヤツ、何だよ?」
俺は彼を問い詰めようとする。
落下音から察するに、そこまで重量のあるものではなかった。
でも、彼の焦り方は異常だ。
さっきの俺を押し飛ばす行為にも、
尋常ではない殺気染みた威圧を感じた。
・・・何かとんでもない理由があるに違いない。
「いや~、大したもんじゃないよ!」
「本当に大したもんじゃないなら、
あんなに必死になってないだろ?」
俺が責めると、彼は瞬時に笑みを消失した。
「・・・悪いねミコちゃん。
これは本当に教えられないんだ。」
紘は、俺が見たことのないポーカーフェイスを浮かべ、
俺の顔を凝視した。
思わず、一歩下がってしまう。
「御子柴君!」
突然の俺を呼ぶ女性ボイスに、
張り詰めた空気が一瞬で浄化される。
「・・・結乃か。」
鈴木 結乃こと”ゆのぽん”には、
今日の事情について、
手術室の前で待機している時に連絡していた。
だから、俺の居場所が分かったんだろう。
「食料、持っていけなくて悪かったな。」
「・・・だから自分で買いに行った帰りなんだけどね。」
結乃の右手には、
スーパーのレジ袋が下がっている。
元々、俺は、買い物してすぐ活動拠点に戻るつもりだったけど、
その帰り道で俺が事故に遭遇したから
おつかいの役目を果たせなかった。
「なぜ・・・だ・・・!?」
紘の大声に、俺と結乃は驚いて
彼を見据える。
・・・彼は、さっきまでよりも明らかに動揺して、
額には冷汗のようなものまで浮かべている。
「嘘だ・・・嘘だッッ!!」
紘は両手で頭を抱えると、
病院には入らず、
来た道を全力で駆けていった。
それを追い掛けるように、彼の水色のモバイルポット、
”センゲン”も去っていく。
「・・・紘のヤツ、今日は様子が変だな・・・。
結乃はアイツについて何か知ってるか?」
同じ学科ということもあって、
たぶん結乃は彼のことを知っているはずだ。
それに、さっき、紘が
結乃が現れてから異変を見せたことから察するに、
彼らは何かしらの関係があるに違いない。
「・・・彼のことは、”知らない”。」
彼女は冷淡にそう答えると、
踵を返して拠点の方へと向かって歩き出した。
・・・さっきの紘のリアクションを踏まえても、
彼女が紘のことを知らない訳がないだろ?
なぜ結乃はここで嘘を付くんだ?
元々、結乃は不可解な点があって、
彼女の目的を知るために彼女に協力している、
という側面もある。
今日の一件で、彼女に対する不信感が
もう一段階、膨らんでしまった・・・。
初夏の湿度の高く生ぬるい夜風が
俺の頬を優しく撫でる。
その心地良さを逆に不気味に感じつつも、
何を考えているか分からない
同級生の女子の背中を追って、
俺もまた歩き始めるのだった。
★第5話★ 「謎の同級生と同級生の謎」 完結
お読みいただきありがとうございます!
今回は謎の同級生、
四十住 千佳が意識不明という状態で
初登場しました!
そして、イケメン陽キャである西願 紘の
裏の顔が見え隠れする中、
彼と鈴木 結乃が
何らかの関係で繋がっているという事実も判明しました。
今作はミステリー小説の要素も取り入れていきたいと思っているので、
皆さんも是非、推理しながら読んでみてください!