★第2話★ 自分の価値
★第2話★ 「自分の価値」
・・・俺は必死に走った。
俺の社会貢献度は”29”。
今日の規定値未満まで低下したそうだ。
ここで立ち止まれば、背後から追ってきているであろう
キチガイ暴力マッチョこと、今在 征儀に殺害される。
・・・俺は、実は
算出された自分の社会貢献度に”心当たりがない訳ではない”。
むしろ俺は・・・この社会に不要な人間である可能性が高い。
社会のことを考えたら、
”消えた方が良い人間なのかもしれない”。
でも、そんな都合は関係ない。
俺個人として、生きる権利はある!!
過去にあんな”罪”を犯していたって、俺には償うチャンスがある!
誰かに管理される義務なんてない!!
・・・思考を巡らせながら、後ろは絶対に振り向かず、
そこら辺に散らばっている人間の亡骸には目もやらず、
俺は無我夢中に走り続ける。
2分ほどで、俺が普段この時間に授業を受けている校舎まで到着した。
すぐさま俺は入り口の扉を蹴り開け、
中へと走り込んだ。
・・・すると、その時だった。
俺は何か重いものに足を取られ、そのまま前方に勢いよく転倒した。
しかし、今はコンマ1秒でも立ち止まることが恐ろしくて、
慌てて立ち上がり、再び走り出そうとした刹那、
聞き覚えのある声が俺の耳に入り込んできたのだった。
「竜・・・俺だよ・・・」
恐る恐る俺は背後を振り返ると、衝撃が走る。
「・・・アキ!?」
そこには、俺の友人である松原 秋留が
血まみれで倒れていた。
松原 秋留はいつも俺を含めた
3人組で行動している”いつメン”の1人だ。
選択授業とかもだいたい同じものを取っている。
そんな彼は、口から大量に鮮血を撒き散らしており、
どう見ても死の直前にあることは確かだった。
「アキも・・・アキも殺されたのかよ!?
なんだよ・・・何がどうなってるんだよ!!」
「バカか、まだ死んでねぇよ・・・」
そう言い、彼は力なく微笑む。
——なぜアキが殺されないといけないんだ・・・?
「死ぬ前に、嬉しいお知らせだ・・・。
群司は・・・まだ殺されていない・・・!」
「アイツは・・・まだ生きているんだな!」
——海藤 群司。
俺たち3人グループの最後の1人で、
”モノマネ”が異様に得意なヤツだ。
最近は新しい”秘密のバイト”を始めたとかで忙しいらしい。
俺は急いでアキに走り寄り、なんとかその場から移動させるために、自分の腕を通して彼の身体を支えようとするが、彼の血で滑って上手く固定できない。
「やめろ・・・俺はもう手遅れだ・・・」
「フザけんな・・・!
まだどうにかなるかもしれないだろ!!
諦めんなよ!!」
俺が叫んだ瞬間、アキは激しく喀血した。
「俺はもう無理だけどさ・・・約束してくれ・・・。
竜、お前は生きろよ・・・!
俺の分まで”幸せ”に生きて・・・」
彼はそのまま俺の腕を滑り落ち、
背後から床に倒れこむ。
儚い残響が、俺の頭の中に響いた気がした。
全感覚が世界から分離されて、
俺の魂だけがその場に釘付けされて取り残されたような、
そんな錯覚に陥る。
「・・・あ・・・あぁ・・・なんで・・・。」
人が、しかも友達が目の前で死ぬなんて、
そう簡単に受け入れられるはずがない。
「なんで・・・俺は・・・こうして何度も
大事な人を失うんだあああああああ!!!」
——俺は”また”友達を助けられなかったんだ。
俺は生きている価値が本当にあるのだろうか?
死んでしまった方が良いんじゃないか?
——死んだ方が、社会にとっては有益なんじゃないか?
「おい、同級生。」
俺はその声で現実に引き戻される。
背後を振り向くと、今在 征儀が
左手に刀を持った状態で棒立ちしている。
「殺せよ・・・もう・・・疲れたんだ・・・。」
あれほどまで自分の中で燃え上がっていた生への執着が、
先程の友の死を境に一瞬にして崩れ去っていた。
「あぁ?もうお前を殺す理由はねぇよ。
俺様の気のせいじゃなければ、
お前の社会貢献度は規定以上まで上がったからな。」
——俺の社会貢献度が上がった?
それは一体、なぜ・・・?
その答えは自分の脳裏へと瞬時に閃いた。
「・・・アキは・・・松原 秋留は、
俺によって殺された、という判定になった・・・のか?」
最後に彼に触れていたのは俺だ。
しかも、倒れ込んでいたアキに躓いた俺は、
もしかしたらアキに対して最後の”致命傷”を与えた可能性だってある。
——体の芯が、凍りついたように動かない。
口の中が砂を噛んだみたいに乾いて、吐き出す言葉すら見つからなかった。
ふざけた偶然と、最低の巡り合わせが重なった。
血のぬくもりが、掌に残っている。
アキの体温と一緒に、俺の中で何かが確かに死んだ。
俺の中で、何かが音を立てて崩れていく。
取り返しのつかない現実の重さが、今更になってのしかかってくる。
「あぁ・・・もう・・・さっさと殺してくれよ・・・」
俺はそのまま今在 征儀へと駆け寄り、
胸ぐらを両手で掴んで迫る。
「俺を殺せ!!俺に生きる価値なんてないはずだ!!
俺は懲りずに”また”友達を見殺しにしたんだ!!
さっさとその刀で俺を殺せ!!」
自分の思考とは無関係に、言葉が口から溢れ出していく。
しかし、その発言の方向性自体は紛れもなく
自分自身の本音そのものだった。
次の瞬間、俺は激しい力に弾き飛ばされ、
尻もちをつく。
「同級生、お前の都合は知らねぇよ!
俺様が殺すのは”社会貢献度”が規定値以下の人間だけ。
俺様に殺されたきゃ社会貢献度を下げてから来い!」
今在は俺を見下ろしながらそう叫ぶ。
「フザけんな!!俺は・・・!!」
——その時だった。
「おい!大丈夫か、ミコちゃん!」
聞き覚えのある声だった。
俺の名前である”御子柴 竜”を
ミコちゃんと呼ぶのは、俺が知る限りで1人だけ。
すぐに俺のサイドに駆け付けた男性の人影。
ほんのりと香る爽やかな石鹸のような香水の香り。
頭髪はベリーショートの茶髪、
トップスは青のシンプルなオープンカラーシャツに、
ボトムスは白のワイドパンツ。
城北大学工学部機械科2年生のイケメン”陽キャ”グループの一人、
西願 紘。
高校から引き続き大学でもサッカー部に所属、
運動神経抜群で、182cmの高身長イケメン。
オマケに、”陽キャ”だけではなく、
俺みたいな”陰キャ”とも上手くコミュニケーションを取れるという
特殊能力を兼ね備えている。
イケメングループの中で唯一積極的に陰キャ達とも絡むタイプで、
男女も陰陽も問わず、皆から好かれるハイスペック男子だ。
「今在 征儀、お前が今
ミコちゃんを突き飛ばしたの見てたぞ。
喧嘩なら俺が相手になるから、ミコちゃんいじめるのやめろよ。」
紘は10cm以上も身長差のある今在を見下ろしながら言う。
さすがに発言もイケメンだ。
「あのなぁ、俺様はもうソコで尻もちをついてるヤツには用が無いんだ。
さっさと失せろ。」
今在は踵を返し、
刀を片手に元来た道を戻っていった。
さすがに空手を極めた暴力好きの今在が、
本気で紘と喧嘩したら、今在が勝つとは思うけど、
紘にはどこか逆らえないような気迫がある。
「おいおいミコちゃん、大丈夫か?」
俺は伸びてきた紘の右手を掴み、それを支えに立ち上がる。
「今在 征儀と何してたんだ?
ってかお前達コネクションあったの?」
——まさか「殺してほしいと掴みかかったら突き飛ばされた」なんて説明できない。
「い、いやぁ・・・ちょっとね。」
「そうか。まぁ、何にせよこの危険な状況だし、
ひとまず構内の様子を探るために一緒に行動するか。」
紘の背後には、”水色”のモバイルポットが待機している。
「あぁ、これは俺のモバイルポットの”センゲン”。」
水色のポットは”舞鶴ソリューションズ”製で、
軽量化や、それに伴うポット自身のスピード性能に特化した
小型ポットシリーズである。
——ちなみに、モバイルポットは現在4社から展開されている。
”赤色”のボディが”サクラ重工”製で、
ポット自身のパワー性能や、荷物の持ち運びに特化した大型ポットシリーズ。
”紫色”のボディが”メイジョーン・カンパニー”製で、
ポット毎に異なる拡張機能の追加にフォーカスしたシリーズ。
俺のジングーはこのシリーズだ。
”黄色”のボディが”ヒガシホールディングス”製で、
ポットの通信性能諸々を強化したシリーズ。
——そんなこんなで、俺はイケメングループの
西願 紘と共に、
荒れ狂う大学構内を探索することになった。
★第2話★ 「自分の価値」 完結
お読みいただきありがとうございます!
不意にも友人を殺害したことで
社会的に生きる権利を得てしまった主人公、御子柴 竜。
彼は以前にも友人を犠牲にした経験がある旨の発言をしていますが、
現時点では彼の過去は謎に包まれています。
そして、彼の前に現れた心強い味方、
西願 紘。
万人に好かれる超イケメン陽キャラ、という位置づけです。
次回はそのイケメンと主人公が死体まみれの大学構内を探索するようです。