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摘人世界(てきじんせかい)  作者: まるマル太
【第1章】あなたは社会に必要な人間ですか?
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★第1話★ ワクワクとドキドキ

★第1話★ 「ワクワクとドキドキ」




この俺、御子柴みこしば りゅうは、

キチガイ暴力マッチョこと今在いまざい 征儀せいぎと共に、

大学構内を全力疾走していた。


その背後を、2台のモバイルポットがピタリと追ってくる。


俺はそこそこ足には自信がある方だが、

今在いまざいのバケモノじみた脚力にはわずかに及ばない。

そろそろ息も切れてきた。


だけど、立ち止まっている余裕なんて、カケラもない。


──なぜかって?


構内の至るところに、大学生や職員と思われる“死体”が散らばっているからだ。


その近くには、素手や石のような鈍器で人を殴り殺す学生たちの姿がある。



彼らの標的は、どうやら【社会貢献度】の低い人間──

つまり、国にとって”不要”と判定された者たちらしい。




「おい!同級生!祭りが始まってんぞ!楽しもうぜ!!

 “ワクワクとドキドキ”のプレゼントだぁ!!」


今在がニィッと歯を剥き出して、振り返りざまに笑った。



「お前なぁ・・・さっきからその“ワクワクとドキドキ”って、

 どういう意味で使ってるんだよ!?

 この地獄絵図に、まったくマッチしてないからな!」


「あぁ、そういや言ってなかったか。

 俺様は小3の頃に激しい”いじめ”を受けててな。

 ある日、そいつらが偶然の事故で死んだんだよ。

 クラスの連中には泣いてるヤツもいたが、俺様はその場で歓喜の声を上げ、

 放課後はスキップして帰ったぜ!

 ・・・そのとき身を以て知ったんだ。

 人の死が”誰かの幸せ”をもたらすってな!

 だから今度は、俺様が”ワクワクとドキドキ”をプレゼントする番なんだ!!」


こいつは狂ってる。完全にバグってる。

いつもの通り浮いた存在だとは思ってたけど、まさかここまでとは。




「おい、後ろだ!!」


今在の声に、反射的にしゃがむ俺。

直後、上空を大きなレンガが唸りを上げて通過し、目の前のアスファルトに叩きつけられた。



「・・・チッ、死ねよ!」


背後から聞こえた低い呟きに振り向くと、

そこには黒縁メガネを掛けた肥満体型の男が立っていた。


白すぎる肌と荒れた顔面。

ビッグサイズのシャツにダボダボの薄れた黒のカーゴパンツ。


見たところ、30後半くらいの年齢だろう。



──ひと目で分かる、“引きこもりニート”だ。



「・・・し、社会貢献なんざ知らねぇよ!

 そもそも俺が今こうなっているのは国や社会のせいなんだ!!

 摘人てきじん政策だなんて、やっぱり国はもう腐ってるんだ!

 殺されることにビクビクして暮らすくらいなら、

 先にこっちから殺してやるわ!」


そう言って、メガネ男はバタフライナイフを展開する。


不意打ちで俺らを殺そうと画策した挙句、避けられたせいで、どことなく焦りも見られるが、勢いでハイになっているのか、止まる気配はなさそうだ。



「おい同級生!コイツの貢献度はたぶん5以下だ!」


「なんで分かるんだよ!?

 しかも、そんなピンポイントで!?」


「どうやら、俺様には“不適合者センサー”が備わっているみたいでな!

 アラタマ、コイツを計測しろ!」


彼のポット“アラタマ”が前に出て、冷たい声を響かせた。



『社会貢献度”4”。本日の規定値未満、排除対象です。』


「な?クッソ低いだろ?」


うわ・・・こいつマジで、ただのメガネデブじゃなくて、

社会的に詰んでるタイプだ。



「うるせぇ!社会貢献だ?ふざけんな!!」


突如として飛びかかってきたメガネ男。

ナイフを振りかざして、今在いまざいに突進する。


だが今在は一瞬で左にスウェーし、

逆に拳で男の右手首を殴りつけた。ナイフは弾かれ、男は腕を押さえたまま呻く。



「正義ッ!!」

征儀せいぎの力強い叫びと共に、彼の拳がメガネ男の頬に炸裂。


「正義ッ!!」

今度は膝が腹にめり込む。


「アイ!アム!ジャスティィィィス!!!」

アッパーが顎を打ち上げ、メガネ男は数歩後退した。


・・・あれで倒れないって、地味にタフなヒッキーだな。



「クソ野郎め・・・お前みたいなイカれた正義マン、ここで殺してやるよ!!」


メガネニートは両手にバタフライナイフを持ち、構え直す。


──なんで引きこもりの武装がこんなに充実してるんだよ・・・!



「チッ、武器の両持ちは厄介だな・・・!」


今在いまざいの表情が曇った。


刃が閃いた。右から──かと思いきや、左のナイフが鋭く突き出され、今在いまざいの右前腕に深く刺さる。



「ちくしょう!!」

痛みに呻きながらも、今在いまざいは素早く反撃。


ナイフは彼の腕に刺さったまま、血がポタポタとアスファルトに落ちていく。



「ザコめ!!」

男が巨体でタックル、今在いまざいは吹き飛ばされる。


しかし、体勢を崩すことなく即座に立ち上がった。



「逃げるぞ今在いまざい!!さすがのお前でも凶器持ちには勝てないだろ!!」


「・・・いや、面白くなってきたぜ・・・!

 俺様は・・・こういうヤツを殺して

 皆に”ワクワクとドキドキ”をプレゼントするんだよ!!」


狂った笑みとともに、彼のモバイルポット“アラタマ”が彼の背後に接近し、そのまま静止した。



今在いまざい 征儀せいぎ正義者ジャスティスマンとして認証されました。

 現況を考慮し、第二世代モバイルポット”アラタマ”・ウェポンモードを起動します。』


突然、”アラタマ”から淡々とガイダンス音が流れる。


──次の瞬間、ポットが体色に合わせて半分に分割され、そのまま各箇所が高速変形を始める。


ポットは3秒ほどで、”台座”の上部に1.4mほどの”棒状のアイテム”がセットされているような形状に変形し、その棒状のアイテムを今在いまざいに向けて射出した。



「・・・これは、“刀”か?」


それは、黒い持ち手に、赤から紫へのグラデーションがかった刃を持つ刀。



『適正ユーザー・今在いまざい 征儀せいぎ

 ”成敗せいばいセイバー”の使用は許可されています。

 このまま対象を排除してください。』


「なんだよ・・・コレは・・・!

 最高にワクワクしてきたじゃねぇか!!」


今在はその“成敗セイバー”を左手に握り、満面の笑みでメガネに歩み寄る。


男がナイフで迎え撃とうとするその瞬間、血飛沫が宙を裂き、40センチほどの“左腕”が地面に落ちた。



「ぎゃあああああああああ!!!」


メガネニートは腕の断面を押さえ、絶叫しながら地面にのたうち回る。


俺はその光景に耐えきれず、茂みに駆け込み、思い切り嘔吐した。



「成敗セイバー・・・良いねぇ!!

 さぁ、トドメといくかぁ!!」


今在いまざいが刀を振り上げた、そのとき──俺は叫び声を上げて全力で彼にタックルした。



「痛ってぇぇぇぇ!!」

不意を突かれ、今在いまざいは膝をついた。



「何すんだよ同級生!!俺様の邪魔をするつもりか?」


「お前、もう十分やっただろ!あのメガネをこれ以上痛めつけてどうすんだよ!!」




・・・その時だった。



御子柴みこしば りゅうの社会貢献度が更新されました。

 社会貢献度”29”。本日の規定値未満、排除対象です。』


──俺の背後にいた”ジングー”が突然アラーム音と共に警告する。



「排除対象?・・・何のことだよ・・・?」


「同級生、お前、社会貢献度が規定値以上の俺に攻撃を仕掛けたせいで、

 社会貢献度が下がってるぞ?

 悪いが、このデブの次はお前を”殺す”。」


・・・オイオイオイ。

何かの冗談だろ?


俺が・・・”処分”の対象になったっていうのか・・・?


それに今、俺の目の前には狂気の“正義”が、刀を持って立っている。


純粋に考えて彼の説得は不可能だろう。



俺は気が付けば無我夢中で大学敷地の奥、普段登校する校舎の方角へと走り始めていた。




★第1話★ 「ワクワクとドキドキ」 完結

お読みいただきありがとうございます!


今回は早くも今在いまざい 征儀せいぎの過去が明らかになりました。

自身が過去に人が死んだことがキッカケで大喜びしたという経験があり、

そのせいで”人を殺すこと=良いこと”という思想が定着しています。


そして、御子柴みこしば りゅうは彼の人殺しを妨害しようと試みますが、

それによって自身の社会貢献度が低下。


規定値未満と判定されてしまい、日本社会から殺害を許可された存在へと成り果ててしまいます。

このことから、りゅうは社会貢献度が元々そこまで高くなかったことが窺えます。


次回、急展開が待っています!

お楽しみに!

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