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シーン39 蒼き翼は蘇る

 シーン39 蒼き翼は蘇る


 熱気にやられて、アタシはもう歩くのもやっとだった。

 デュラハンの船に向かう間中、何人もの乗客が倒れていた。

 きっと助かるから、もう少しだけ、頑張って。


 アタシは心の中で叫びながら、必死になって進んだ。


 デュラハンがドッキングしたゲートが見えたところで、アタシは一瞬気が遠くなった。

 転びかけた体を、防護服を着た男が支えてくれた。


「キャプテン?」

 彼は頷いて、アタシを肩に担いだ。


 デュラハンの船に辿り着くと、一気に気温が変わって、アタシは身震いした。

 息が、気道に流れる空気が、こんなに有り難いなんて。


「格納庫へ行け。俺は、やることがある」

 キャプテンはそれだけ言うと、アタシを安全な所まで連れてきたところで、またツアー船の方に戻って行った。


 ここに何があるんだろう。

 ふらつく足に最後の力を込めて、格納庫を目指した。

 見覚えのあるハッチを潜ると、無重力空間になって体が浮いた。


 そこで待っていたものを見て、アタシは目を疑った。


 それはプレーンだった。

 巨大で、随分といかついデザイン。

 全身の色は、光の加減で金色にも見える鮮やかなイエロー。


 なんだこの機体。はじめて見る形だ。

 最初、そう思った。


 だけど、なんで、こんなに懐かしいんだろう。


 アタシは、コクピットがある位置へと飛んだ。

 首元に、見覚えのあるスイッチがあった。

 コクピットハッチを開くスイッチ。その横に、小さなドクロのいたずら書き。

 これって、アタシが書いたものだ。


 中に身を滑らせて、アタシは震えた。


 このレバーも、このシートも、このモニターも。

 全てに見覚えがある。


 これは、「ジュピトリス2」だ。

 アタシが、蒼翼だった頃、最後に乗った機体。


 間違いない!

 外装をつけてカモフラージュしているけど、これはアタシの「蒼翼」じゃないか!

 リン!!

 あなた、アタシが手放したこの機体を、もう一度探し出してくれたの!?


 アタシはメイン回路をオンにして、機体を起動させた。

 懐かしい躍動が全身を駆け抜け、アタシを一瞬のうちに蘇らせた。


「シャーリィ、ハッチを開けて!」

 アタシは叫んだ。


『あいよ、準備は出来たか』

「ラライ、出るよ!」


 蒼翼は、あの時のままだった。

 一度は捨てたアタシを恨むように、背中のエネルギーパネルが煌めき、吼える。

 プレーンとは思えない程の加速で、アタシは宙空に踊り出た。


「バロンさんっ!」


 アタシは彼の姿を探した。

 戦闘は続いていた。


 いや、もはやそれは戦闘とは呼べない。

 ウィスプによる、狩りになっていた。


 ウィルのダークバイアに両腕を破壊されたバロンのキャンベルは、なんとかその機動力を最大に生かして、追い詰めてくる3台のプレーンから必死に逃げていた。


「バロンさんを、やらせるもんか!」

 アタシは腰部に固定されたブレードを抜いた。

 これは、ディックブレードだ。

 接触式の重力剣。

 一般的なプレーンの装甲など、紙のように引き裂ける。


 そして。

 狙い所さえよければ、光学兵器のような熱による誘爆を防げる。


 ウィスプのプレーンは、アタシの出現に戸惑った。

 新たな敵をセンサー感知しようという動作。それが、すでに遅すぎる事を、彼らは知らなかった。


 三台のプレーンを戦闘不能に追い込むのに、アタシは10秒も必要とはしなかった。

 きっと、自分の機体に何が起きたのかもわからなかっただろう。

 ウィスプの3機は、アタシの背後で真っ二つになったまま、静かに機能を停止した。


 視界の片隅で爆発が見えた。


 嘘。


「いやあ! バロンさんっ!!」


 キャンベルが銃撃を立て続けに受けて、炎に包まれるのが見えた。

 アタシが辿り着く間もなく、その紅白のボデイィが吹き飛んだ。


 そんな、まさか、バロンさん。


 アタシは言葉を失った。

 ピーという信号の音が通信機のスピーカーから響き始めた。

 これは、救命信号。


 アタシはその発信元を確認して、泣きそうになった。

 脱出ポッドだ。


 キャンベルの機体信号が確認できる。

 良かった、彼は脱出できたんだ。


 ほっとしたのもつかの間。


 アタシは迫りくる殺気を感じた。


 ジュピトリスの出力を開放して、機体を急旋回させた。紙一重のところを拡散式のブラスターシャワーが掠めた。


 ウィルのダークバイアか。

 よくも、バロンのキャンベルをやってくれたわね。


 アタシは接近戦を試みた。

 だけど、速い。

 機体速度もそうだけど、何、この反応速度の速さ。まるで、アタシの動きを完全に予測しているみたい。


 ダークバイアのブラスターシャワーが再びアタシを襲った。


 この相手に、接近戦は不利か。

 アタシは回避行動に移りながらディックブレードを収納した。

 かわりに。左腕に仕込んだレイライフルにエネルギーを充填する。


 それにしても、ジュピトリスのスピードに対応するなんて、流石はもとが軍用機だけの事はある。それに、ウィルって、こんなに凄腕のパイロットだったのか。


 アタシは高速旋回から一見無軌道にもみえるジグザグな飛び方をした。

 ダークバイアの背中が見えた。


 反転して撃ってくるのを予測回避して、狙いすました一撃を。


「躱された?」


 アタシはちょっと信じられない思いで、ダークバイアの機体が飛ぶのを見た。


 振動が襲った。

 三度目のブラスターシャワーが、ジュピトリスの背面パネルを掠った。


 エネルギーのロスは・・・ない。

 良かった、直撃は受けてない。


 それにしても、このままだと、手詰まりだ。

 何でこんなに簡単にアタシの攻撃が躱されるんだ。そんなに、ウィルの操縦テクニックは優れているのか。


 それとも、ゼロのカスタムが凄いのか?


 ん。

 ゼロ。

 そうか、ゼロのカスタムか。


 アタシは思い出した。

 プレーンカスタムショップ、ゼロ・マジックの社長こと「ゼロ」は、かつて、軍の無人兵器開発者だった。

 そして、その自慢の無人機を、このアタシ「蒼翼のライ」に完膚なきまでに破壊されて、アタシの反応速度に追い付くための、感応式制御装置とやらを開発していた。


 こいつは、きっとその装置を積んでるんだ。

 だとしたら、こいつはアタシの攻撃を一種の「勘」で躱している。


 だったら、やってみるか。

 アタシはダークバイアに対して正面を向いた。そして、止まった。


 ダークバイアが、アタシを標的にして、照準をあわせたのが見えた。


 撃ってこい。


 アタシは待った。

 ギリギリまで、我慢して、ダークバイアの接近を待つ。

 絶対に躱しきれない距離まで接近を許したところで、アタシは奥の手を使った。


 フィールド式のエネルギー拡散装置。

 ほぼ全出力を使い切るから、そう簡単には使えない、エネルギー兵器専用のバリアー。

 フォースシールドのプレーン版だ。


 そういえば、この前乗った機体にも大金をかけてつけたのに、使わずじまいだったのを、今更思い出した。


 ダークバイアのブラスターシャワーを全て弾いた直後に、最後のエネルギーでレイライフルを放つ。

 彼の機体のボディに、風穴が開いた。


 勝った。


 アタシは直感した。


 幾ら感応力を高めても、どこかで次の予測が立っていればこその回避行動だ。

 こういった意表を突く戦法に対処するには、機械ではしょせん無理があるんだ。


 動力が集中する部分を完全に破壊され、彼のダークバイアは推進能力を失ったまま、戦闘空域を離れていった。


 よし、最大の危機は去った。

 あとは、バロンを助けないと!


 アタシは彼の乗る脱出ポッドを回収した。


『ラライ、聞こえる、一等客船が逃げていくわ』

 リンの声が届いた。


 アタシはカメラを切り替えた。

 モニターには、少しずつ遠ざかる一等客船の姿が映しだされていた。


『このままだと、逃がしちゃう。どうする?』


 と、言われても。

 アタシはため息をつくしか出来なかった。


「ジュピトリスもほとんどパワーを使い切っちゃったし、何も出来ないよね」

『そうか、じゃあ、仕方ないか』


「それより、そっちは大丈夫?」

 アタシはリンの乗る船を振り向いた。


『こっちは心配ない。今、少しずつだけど、太陽から離し始めたわ。空調もフル稼働させたし、あと一時間もすれば、機内温度を平常まで戻せる』

「良かった。じゃあ、浄化剤ってのが効くのね」

『詳しくはわからないけど、そうみたい』


 アタシはジュピトリスをデュラハンの船に着艦させ、バロンの乗る脱出ポットを降ろした。


 良かった、これで、とりあえずは全員助かりそうだ。

 コクピットハッチを開き、外に出ようとした。

 そこに、再び救命信号が鳴った。


 これは。


 アタシはその救命信号の発信源を確認して、唇を噛んだ。

 ウィルだ。


 アタシは再び宇宙へと機体を戻した。

 モニターで、ダークバイアの機体を探す。


 なんてこった。


 ダークバイアの紫の機体が、トマスの太陽に吸い寄せられていた。

 エネルギーの中枢を破壊したから、もう、逃れられない。

 しかも、あの場所では、今から脱出ポッドを射出しても、今度は太陽の熱で焼け死ぬのが目に見えている。


 かといって。

 エネルギーを使いつくしたこのジュピトリスで、救えるのか。


 迷っている暇はなかった。

 こうして居る間にも、どんどん彼の機体は太陽に飲み込まれるようだった。


「って、ウィルのバッカやろー」

 アタシは叫んだ。


『ラライ、何するの、無理よ!』

 リンの声が聞こえたが、仕方なく無視した。


 ジュピトリスは残された力を振り絞って、彼のダークバイアに接近し、そのボディを背後から押さえつけた。

 出力を最大にして、トマスの太陽の重力から引き離そうとする。

 機内の温度が、どんどん上昇するのがわかった。


『こいつは、ラライ、お前か』

 ウィルの声が通信スピーカーから入ってきた。


「他に誰が居んのよ」

『驚いたな、お前、俺を救けに来たのか』

「救命信号出したのはアンタでしょ」

『普通、敵の信号なんざ無視するだろうが』

「じゃあ、普通じゃないのよ。ごちゃごちゃうるさい!」


 ってーか。

 全然パワーが足りないじゃない。

 助けるどころか、まずいな、このままだとアタシも一緒に地獄行きだぞ。


『もういい、お前だけでも逃げろ、俺は、どうやら無理みたいだ』

「何馬鹿なこと言ってんのよ」

『そっちの機体だけなら、まだ逃げ切れる。違うか?』


 簡単に言っちゃって。

 こっちの気も知らないでさ。


 アンタは大っ嫌いだけど、アタシのせいで死人を出したら、アタシが救われないのよ。


 だけど。

 駄目だ、トマスの重力が断ち切れない!


 やばい、やばい、やばい。

 蒸し焼き一歩手前の状況になってきた。

 どうしよう。

 どうしたら助かる?


『ラライ、ねえ、聞こえる! ラライっ!』

 リンの声が、響いた。


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