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シーン23 豪華客船は火薬の匂い

 シーン23 豪華客船は火薬の匂い


 結局、アタシとリンは一旦デュラハンと別れることになった。


 バロンのプレーン「キャンベル」の修理日数が、予想以上に長引くというのだ。

 それだけなら良かったが、さらに翌日には、ドクターモランから連絡があった。

 依頼した皮膚の分析が、意外に難航しているとのことらしい。


「これは、普通じゃない。きちんと調べないと、うかつな回答は出せない」

 それが、ドクターモランの答えだった。


 結果を待っていると、どんどん日数だけが過ぎてしまう。

 仕方なく、結局はシェードの提案に乗った。


 シェードの船に乗るのは、正直めちゃくちゃ不安だった。

 ただでさえセクハラ大魔神なのに、彼と三人だけっていうのは、正直夜も眠れない。

 あのリンですら、彼だけは苦手と見えて、決して彼と二人きりになろうとはしなかった。


 だが。


 思ったより、彼は大人しかった。

 意外にもセクハラ発言は影を潜め、パイロットに徹した。

 別人かとも、思うくらい。

 もしかしたらこの船は、彼にとっての聖域なのかもしれない。

 船に居る間中、彼はいつになく真剣な表情を崩さなかった。


 非常に小さな船だった。

 プレーン用の格納庫などもなく、コクピットと、居住室が二つ、余分なスペースは無い。

 だが、恐ろしく速い。

 驚いたのは、軍艦でも難しい長距離亜空間航行を、連続で三回も行ったことだ。

 これが、シェードの誇る「ヴァイアード号」か。

 アタシ達、「蒼翼」の宇宙船「エルマイス」でも、これ程の速さは無かった。


 アタシが船を褒めると、彼は


「俺のヴァイアードは、宇宙最速だ。賭けてもいい」

 ニヤリと笑って言った。


「連続での亜空間航行回数では、オレンジの〈ドンナドンナ〉には負けるがな」

「オレンジ?」

「運び屋さ。あいつのマシンも化物だ」


 運び屋オレンジか。

 知らない奴が、結構いるものだ。


 僅か70時間で、アタシはハイロウシティに戻った。


 シェードは、新しい住処を確保していた。

 アタシとリンには、ホテルを用意して、乗船までの間で色々と準備を整えた。

 とにかく、相手の懐に飛び込むのだ、準備は出来るだけしておくに限る。


 シェードは段取りが良かった。護身用の武装はもちろん、通信機に、盗聴器、非常用信号。食料も多少、既に準備してくれていた。

 アタシ達は双子の姉妹を装う事にした。

 同じ服、同じ帽子、同じサングラスを揃えた。

 よく見れば顔は違うが、背格好も似ているし、髪の色も同じとなると、アタシ達の印象はワンセットになる。つまり、アタシ個人の印象が薄れる。顔ばれしているアタシにとって、ある意味カモフラージュになるのだ。


 シェードの力を借りて、偽の身分証明を作成し、それで乗船登録をすます。

 ここまでくれば、あとは出航を待つだけだ。


 遂に、明日は乗船日だ、という夜。アタシ達のツインルームをシェードは訪ねてきた。


「いよいよだな」

 彼は言った。


「そうね。シェードはこれからどうするの?」

「俺は、一旦行くところがある。それと、地球にも用事があるし、まあ、そのうちどっかでは追いつくかもしれないが、ひとまずお別れだな」

「色々と、世話になったわね。すこし、見直したわ」


 正直な気持ちで言った。

 つくづく最低な野郎、っと思ってきたが、少なくともこの数日間は、アタシ達の為に骨を折ってくれた。

 リンも、以前に比べると、彼に対する姿勢を軟化させていた。


「いいって事だ。ま、こっから先、何が出てくるかはあんた達次第だ。デュラハンには、あんた達が無事乗船したって、俺から伝えておく」

「ありがとう。そうしてもらえると助かるわ」

「寄港地に着いたら自由時間がある筈だから、ちゃんと下船しろよ。そこぐらいしか、外部とは接触できないぞ」

「わかってる」

 アタシは頷いた。


「最後に、ひとつ、土産を持ってきた」

「何? 食べ物?」

 彼が差し出した包みを、アタシはうきうきと開けた。

 リンが覗き込んだ。

 で、二人とも凍り付いた。


 下着? ・・・か?


 それも、めちゃくちゃ薄手で、布地が小さくて。

 しかも、7色7セット。


「シェード、この期に及んで、またセクハラ魔人に逆戻りか!」

 アタシが怒鳴りかけると、シェードは真面目な顔をした。


「そんなつもりは、そんなにない」

「じゃ、どーゆーつもりなのよ」

「それ通常の闇ルートじゃ、一着5000万ニートだぞ」

「はあ。何それ」


 どこの世界に、そんな高い下着があるものか。

 と、思ってると。


「これ、フォースフィールド発生器ね」

 リンが言った。


「お、気付いたな」

「タグに書いてあるもの」

「・・・」


 フォースフィールドだって・

 それがほんとなら、すごいものだ。


 簡単に言うなら、防弾シールドだ。

 ナノマシンが編み込まれた下着で、普通では感知すらできない程のウェイブバリアーを常時発生させ、着用者をエネルギー攻撃から守る。

 実弾を防げない、という弱点はあるが、エネルギー兵器全盛のこの時代においては、画期的な代物である。


「下着の、さらに下に着こめればいいと思って、わざとそういうデザインを選んだんだぞ」

「どーかしら。アンタの趣味じゃないの」

「ま、それもある」


 ・・・やっぱり。

 だが、これは身につけるだけの価値はあるだろう。

 アタシは仕方なく受け取った。


「じゃ、今度こそ本当にお別れだ。健闘を祈るぜ」


 シェードは来た時と同様、唐突に帰っていった。

 アタシとリンは顔を見合わせて、同時に肩をすくめた。



 そして、乗船の時が来た。

 客は、右も左も地球人か、地球系のテアードばっかりだった。

 まあ、当然といえば当然だ。

 ここは、地球圏なんだから。


 ツインテ―ル級旅客船「グロリアスエンジェル号」

 こうして間近に見ると、とてつもない大きさだった。

 内装はところどころ客船風にはつくりかえられてはいるが、軍艦の特徴はそのまま残されていて、それっぽい設備や施設、構造は、立派なディスプレイになっている。


 これが売りだという事もあって、客も、やっぱりアーミーマニアが多かった。

 乗る前から興奮した声が聞こえてきたし、しきりにカメラのシャッターを押す客が、次から次と後を絶たない。これ程特異な客層が、よくぞこれだけ集まったものだ。


 かくいうアタシも、ちょっとやられた。

 この微妙な古さが、兵器ふぇちには、たまらない。

 最新兵器には無い、情緒があるのだよ。


 ほら。

 エネルギー回路は切られているから、単なる飾りにすぎないけれど、八六式回転砲塔なんて、まあアナログで素敵だ。

 もう使われなくなったはずの火薬の臭いまでもが、漂っている気がする。


「ライ。そんなもの見て興奮しないの」

 リンが冷たく言った。


「わかってるー。・・・って、駄目でしょ、その名前で呼んじゃ」

「あ、そうだった」


 アタシ達は、正体を隠しているのだ。

 なので、ここでは偽名を使う事にした。

 アタシの名が、ミライ・サカザキ。

 で、

 彼女の名前が、マリン・サカザキ。


 ちょっと、地球系の名前っぽくしてみた。

 あ、ちなみにサカザキってのは、アタシの好きなバンドのメインボーカル、ショーヤ・サカザキからいただいた。


「もうちょっと、まともな名前が良い」

 と、リンは言ったが、良い名前じゃないか。

 少なくとも、エマ・オニクスキーよりはいい。


 アタシ達は、自分たちの部屋に荷物を置いた。

 二等客室は、まさに軍人の宿泊室って感じで、二段ベッドが壁に埋め込まれている、殺風景な印象だった。

 アーミー感が好きな客には、この方が良いんだろうし、改装の手間は省けるだろうから、これはこれで、なかなかのアイディアなのかもしれない。


「さてと、知ってる顔はあった?」

 リンが訊いてきた。


「予想通りの顔がいた」

 アタシは答えた。


 知ってるも何も、そいつらが居ないはずがない。

 最初の搭乗ゲートで、アタシ達に花の首飾りを渡してくれたのは、あのデイジーだった。

 アタシはもう、初っ端から正体がばれるのではないかと、内心冷や汗ものだったが、彼女は全く気付かない様子だった。


 そして、カインもいた。

 彼が、一等客船の搭乗口に立っているのを、アタシは遠目に見た。

 乗り込む客の姿は見えなかったが、しきりに通信機で、何かの指示を出していた。彼が、そのままこの船に乗ったのかまでは分からないが、その姿を見つけただけで、アタシは胃がムカムカした。


「少し中を見回ろうか」

 彼女が言った。

「そうね、どんな設備があるのかも見たいしね」

「遊びじゃないのよ」


 わかってますよー。


 アタシは荷物を放り投げて、勝手に上のベッドを自分のものにした。


 リンが小さくため息をついた。


 まずは、甲板に上がる事にした。

 甲板って言っても、頭の上には透明なカバーがかかっていて、宇宙が見える広い展望スペースになっている。


 出航を告げるアナウンスが流れた。

 星空がゆっくりと動き始め、光のダンスが始まる。


 なかなかロマンチックな雰囲気じゃないか。

 これは、恋人と来たら、気分が上がるだろうなー。

 でも。リンは、まるっきりの無表情だった。


「二等客船だけでも、レジャー施設は色々あるわね」

 リンはパンフレットを広げていた。

「この下の階に、プールでしょ。ダンスホールに、レストランは三つ。ミニカジノ、トレーニングジム。映画館。射撃練習場に、プレーンシュミレーターもあるわよ」

「マジでー。アタシ行く、絶対そこ行く」

「焦んないの」


 リンはアタシを食い止めた。


「まずは、一等客船側が怪しいのは確実なんだし、向こうに出入りする方法、もしくは出入りしてる奴を見つけないと」

「それだと、知る限りはデイジーくらいだな。可能性があるとすれば」

「セントラルの添乗員ね」

「うん」


 アタシは彼女を思い浮かべた。

 デイジー。彼女は、きっとセントラルの企みに一枚噛んでいる。

 アタシが以前。たまたまカインの話を聞いてしまった時の、彼女の表情は忘れられない。

 今思えば、彼女はアタシを監視していたんだろう。


 でも、彼女に盗聴器を仕掛けるのは、なかなか至難の業ではないだろうか。


 突然、後ろから声をかけられた。


「いやはや、お美しいお二人連れですなあ。これは、双子さんですかな」

 全く聞き覚えの無い声に、アタシもリンも、同時に凍った。


 振り向いた先に、見知らぬ親父がいた。

 ん。

 見知らぬ?

 いや、見知ってるぞ。こいつ。どこで会ったっけ。


 脂ぎった顔。髪の毛は薄いくせに微妙にロング。

 ほんのりと膨らんだ腹と、短い足。

 でも、身長が低いわけではない。

 つまり、長い胴と大きな頭。


 こんな奴、この話に出てきてない。

 でも、確かにアタシはこいつを知っている。

 そして、そいつもアタシを見て、首を傾げた。


「おや、どこかでお会いしましたかな」

「さ、さあ、初めてでは?」

 アタシは不覚にも答えてしまった。

 こういう輩は、一切喋らずに無視する方が良かったのだ。


「そうですかあ? いやー、似ている方もいるもんだ」

「誰にですか~」

「うん。前の旅行で会った、添乗員さんだよ」


 ・・・・!?


 あー。

 思い出した―。


 こいつ、アイツだ。

 アタシがフォボスのツアーやった時に、オプショナルツアーで声をかけてきた親父。


 まさか、こんなところで、再登場するなんて!?


「他人の空似って、奴ですよねー」

 アタシは誤魔化すように言って、ダッシュで逃げた。


「ら・・。ミライ、どうしたの?」

 リンが慌てて追いかけてきた。



物語も、今回より、いよいよ後半に突入します

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[気になる点] フォースフィールド発生器の装着シーンを3000文字くらいで詳しく!
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