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陽性

 デモによって1時間以上足止めを食らうという想定外のトラブルことあったものの、その後の運行は順調だった。



 列車は、あと40分ほどで目的地へと到着する。そこは千葉県内にある某無人駅である。



 トントンと背後でドアを叩く音がする。宇都宮は振り返らずに、電車のフロントガラスに映った影から、それが客室乗務員であることを特定する。



 この列車に乗っている客室乗務員は、金子穂花かねこほのかのみであるはずだ。宇都宮は金子と過去に何度か一緒に仕事をしたことがある。



 前方に踏み切り等が何もないことを確認し、宇都宮は後ろを振り返ると、ドアを開けた。



 違和感に気付くのがワンテンポ遅かった。



 その客室乗務員は金子と背格好は似ているものの、別人だったのである。



「車掌、ご報告があります」


「君は……」


 その客室乗務員は、金子よりも経験を持ったベテランである。宇都宮とは何度も一緒に仕事をしている。



 しかし、彼女は、この場にはいてはならない人物だった。



「さ…相楽さがら君、ど…どうして君がここにいるんだ?」


 相楽琴子さがらことこは、宇都宮が慌てる様子を楽しむように、ニッと口角を上げた。



「ですから、ご報告があるんです。車掌、私-」


 相楽の言葉は、今この場でもっとも言ってはならない言葉だった。



「私、コロナ陽性なんです」




 列車を使った政府関係者の脱出を考えた際、それが他の都民にバレないようにすることと同じくらいに気を遣わなければいけないことがあった。


 それは、列車内にコロナ陽性者を乗り込ませないことである。


 列車内での集団感染はどうしても防がなければならなかった。そうでなければ、そもそも政府関係者を東京から脱出させる意味がないのだ。


 そのため、乗客は、列車に乗り込む前に全員コロナの検査を受けさせられた。そこで陽性と判明した者は乗車拒否となっていたのである。


 もちろん、検査を受けさせられたのは乗客だけではない。宇都宮を含む乗組員も事前のコロナ検査を受けさせられた。



 その際、相楽からは陽性の結果が出ていたのだ。



 そのため、相楽には即帰宅してもらい、当初2名だった客室乗務員の数を金子一名だけに削ったのであった。



 なので、相楽はこの列車に乗っているはずがなかったのだ。



「宇都宮さん、私、コロナ陽性なのに、お客さんにお給仕して、たくさん濃厚接触しちゃいました。なのでこの列車内で集団感染が起きている可能性があります」


 相楽は表情を変えずに淡々と話している。そのことが宇都宮にとっては恐怖だった。



「ですので、宇都宮さん、列車を止めてください。この列車は隔離しなければなりません」




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