◯まる、△さんかく、□しかく、×ばってんのクリスマスプレゼント
メリークリスマス‼︎
クリスマスはだいぶ前に過ぎたって?
あら、ごめんなさい。
さっき、風が小さなお話を教えてくれたから、気分がついついクリスマスになってしまったの。
なんのお話かって?
それはね……
◯まるちゃん、△さんかくちゃん、□しかくちゃん、×ばってんちゃん。
かたちのこどもは、み〜んな、なかよし。
きょうは、クリスマス。
「えっへん。オレ、サンタさんの『ぼうし』になるんだよ」
さんかく△ちゃんがいいました。
「うふふ。わたしは サンタさんの コートの『ボタン』よ」
まる◯ちゃんも ころころ 笑いながら いいます。
「おいらは、『プレゼント』サンタさんがくばる贈り物になるのさ」
しかく□ちゃんが ドスンドスン とハネながら言いました。
かたちのこどもたちは、クリスマス に「『なに』になるか」で おおはしゃぎ。
でも、×ばってんちゃんだけは 浮かない顔をしています。
「みんないいなぁ。でも、クリスマスに×(ばつ)なんて見たくないよね……」
「だめ」「できません」の意味の×ばってんちゃんは、子ども達が自分を見ると悲しそうな顔をするのを知っていました。
×ばってんちゃんはサンタさんのお役に立てないのがかなしくて仕方ありません。
でも、よいこ達が悲しむのはもっと嫌なのです。
……そっと 輪の中をはなれました。
トボトボトボ……
×ばってんちゃんがトボトボトボ歩いていると、いつのまにか、トンガリ尖った木に雪がたくさん積もっている場所に来ました。
どうやら、森の奥まで来てしまったようです。
雪の上の足跡を辿ればお家にかえれるかしら?
しかし、森の奥はとても寒くて、戻る前に凍えてしまいそうです。
ぶるり、ぶるり。ぶるぶるぶるり。
×ばってんちゃんは、あまりの寒さに足が動かなくなってきました。
暗い森の中では、重くしめった雪がつもっています。
「おや?こんなところで、どうしたんだい?」
×ばってんちゃんがブルブルふるえていると、ふいに優しい声が聞こえてきました。
カタカタ、カタカタ。
ブルブル、ブルブル。
「道に迷ったのかな?かわいそうに。すぐそこに山小屋があるから連れて行ってあげよう」
寒さで答えられないでいると、優しい声はそう言って
ひょいと×ばってんちゃんを抱えると山小屋に連れて行ってくれました。
山小屋では、暖炉の火が赤々と燃えていました。
そこは、とても暖かな場所でした。
「さあ。ホットミルクだよ。ゆっくり暖まっていくといい」
ホットミルクはふわふわとやさしい湯気を立てています。
コクンと一口飲み込むと体もそして心も温かくなる気がしました。
「ありがとう」
×ばってんちゃんがお礼を言って顔を上げると、そこには白いおひげのおじいさんがいました。
「どういたしまして。ところで、君はカタチの子供だね。クリスマスだというのに、こんな場所でどうしたんだい?」
おじいさんが×ばってんちゃんに尋ねました。
とてもとても優しい口調です。
そこで、×ばってんちゃんはおじいさんに話はじめました。
子供達が自分を見ると悲しい気持ちになる事。
サンタさんのお役に立てないのが悲しい事。
そして、それができるお友達が羨ましくて逃げてしまった事。
そんな話をポツリポツリとおじいさんに話しました。
「僕はいらない嫌われ者だから、クリスマスにはいない方がいいんだ」
×ばってんちゃんの目には、じわじわと涙がたまっていきます。
「おやおや。それは違うよ」
おじいさんはおひげをなでつけながらいいました。
「ワシはね。雪の中をソリで走ることが多いんだ。暗い森や山に行くこともある。そんな時、行ってはダメな場所を×(バツ)が教えてくれる。だから、いつも迷わないですむのさ」
おじいさんはそう言ってくれました。
しかし、×ばってんちゃん、ふるふると首をふります。
「そんなの。
◯まるちゃんが進める道にいればわかるし、△さんかくちゃんと□しかくちゃんで矢印を作って道を教えた方がはやいもん」
「そんなことはないよ。
ワシは、誰よりもピカピカの明かりを用意してるが、それでも道を見落としてしまう事がある。
とくに雪の降る夜はね。
そんな時に君が、行ってはダメな場所に居てくれる。
それは、すごく分かりやすいんだ。
これは、君じゃなければいけないんだ」
おじいさんは、×ばってんちゃんの頭を撫でました。
優しい優しい大きな手です。
「僕じゃなきゃいけないの?」
×ばってんちゃんがおじいさんを見上げて聞きます。
「ああ。もちろんだとも。クリスマスの日、いや、どんな日でも必要のないモノなんてないんだよ」
おじいさんが×ばってんちゃんの目を見て答えます。
それは、とてもとても優しい目でした。
『おーい、おーい』『×ばってんちゃん、やーい』『どこにいるのー』
その時、森の奥から×ばってんちゃんを呼ぶ声が聞こえてきました。
「おともだちが君をさがしに来たようだね」
おじいさんは、そう言ってドアを開けました。
森の奥から◯ちゃんと△さんかくちゃんと□しかくちゃんが駆けてきます。
「ああ。いたいた」
「心配してたんだぜ」
「×ちゃんが見つかってよかったー」
3つはほっとして、×ばってんちゃんに話しかけました。
「みんな……あのね、そのね。ごめんね」
×ばってんちゃんがペコリとすると3つは顔を見合わせました。
「俺たち、気にしてないよー」
「ごめんね、わたしたち×ばってんちゃんがいないのに気がつかなくて」
「×ばってんちゃんさ。クリスマスに『何か』になれないって気にしてたんだろ」
3つがそう言うと×ばってんちゃんは下を向きました。
「ああ、ごめん。俺達、さっきもはしゃぎすぎちゃって」
「あのね、みんなで考えたの。クリスマスを全員で楽しく過ごす方法」
「ねえねえ。×ばってんちゃん、ちょっとみんなとダンスしてみてよ」
?
×ばってんちゃんは、□しかくちゃんの言葉に首を傾げましたが、くるりくるりとダンスをはじめました。
みんなも上手にくるりくるりとダンスをします。
すると、どうでしょう。
◯まるちゃん、△さんかくちゃん、□しかくちゃんと綺麗に重なった×ばってんちゃんは、いつしか「雪の結晶」になっていました。
「うわあ。綺麗だなぁ」
×ばってんちゃんが思わず声をあげると△さんかくちゃんが胸を張りました。
「へへん。俺達いっぱい考えたんだ。これならみんな『何か』になって、仲良くクリスマスを過ごせるだろう」
しかし、×ばってんちゃんはふとみんなの話していた事を思い出しました。
「でも、みんな。クリスマスにはサンタさんのお手伝いをするのを楽しみにしてたじゃない」
そうです。
△さんかくちゃんはサンタさんの帽子に。
◯まるちゃんはサンタさんのコートのボタンに。
□しかくちゃんはプレゼントのボタンに。
みんなそれぞれ、サンタさんの「何か」になる予定でした。
しかし、みんなはにっこり笑うとこう言いました。
「いいの、いいの。だって、×ばってんちゃんをひとりぼっちにするのは、もっと、もーっと嫌だもん」
「そうそう。×ばってんちゃんがいないなんてつまらないや」
「みんな仲良しが一番楽しいよ」
×ばってんちゃんはみんなの言葉が、優しい気持ちがとてもとても嬉しかったのです。
しかし、静かに首を振りました。
「ダメダメ。みんなのお願いを、楽しみを僕のために我慢するなんて」
×ばってんちゃんは、ひとりぼっちも寂しいけど、みんなのお願いが叶わないのはもっと嫌なのです。
みんなは顔を見合わせました。
◯まるちゃんも△さんかくちゃんも□しかくちゃんもそして×ばってんちゃんもみんな困った顔をしています。
その時です。
「素敵なダンスを見せてくれてありがとう。
もし、君たちがいいのなら一ついい案があるんだが、こんなのはどうだい?」
4つの頭の上で声がひびきました。
さっきのおじいさんの声です。
パチンッ。
声と共に指を鳴らす音がして、◯まるちゃんも△さんかくちゃんも□しかくちゃんもそして×ばってんちゃんもみんな顔を見上げると……。
◯ちゃんは赤いコートの『ボタン』に。
△さんかくちゃんは赤い『帽子』に。
□四角ちゃんは。袋いっぱいの『プレゼント』に。
×ばってんちゃんは自分の体が、クルクル回転しているのにきづきました。
クルクル×クルクル*クルクル×クルクル***
×ばってんちゃんは、綺麗なソリの周りに輝く『光』になっていたのです。
「「わあっ」」
形の子供達は歓声をあげておじいさんを見ました。
赤いコートに真っ白なおひげ。
キラキラ光るソリにピカピカお鼻のトナカイさん。
優しい優しいおじいさんはサンタクロースさんでした。
「良い子の『かたち』の子供達。どうかワシを手伝ってくれないかい?
みんな、とっても必要なモノなんだ」
こうして、「かたち」の子供たちはみんな仲良くサンタさんのお手伝いをして、仲良くクリスマスを過ごしました。
それとね。サンタクロースさんはお手伝いをしてくれた◯まるちゃん、△さんかくちゃん、□しかくちゃん。そして、もちろん×ばってんちゃんにもプレゼントをくれたんだって。
え?
みんな違うものか?おなじものかって?
さあ、それは分からないわ。
ただ分かるのは、プレゼントが違っても、一緒でもみんな仲良く、楽しいクリスマスを過ごした事は確かみたい。
さあ、それじゃあ。
あなたの今日という日が幸せな一日でありますように。
またね。