お前はわたしの担当編集者か
チャイムが鳴る。
わたしの世界が始まる——。
俺はどこにでもいるごく普通の男子高生、大川悠人。
9月のまだ暑い朝。夏休みが終わり、僅かの気怠さを感じながら学校へ登校する。
「ユウくん、おはよー!」
元気に挨拶しながら後ろから駆けてくるのは幼馴染の瀧本香恋。
「おい、そのユウくんっていうの、もう辞めろよな。」
幼馴染だからといって、もうお互い高校生だ。馴れ馴れしすぎる。
「もー、いいじゃん別に! 先行くよ!」
そう言うと香恋は俺を追い抜いて交差点にダッシュしていった。
「おい、あんまり走るな、危ないぞ。」
俺が注意した次の瞬間、
「きゃー!!」
香恋の黄色い悲鳴が響き、猛スピードで突っ込むトラックが目前に飛び込んできた!
俺は猛ダッシュし、香恋を突き飛ばした。
香恋は驚きと恐怖でぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けた。
俺は香恋に微笑みかけ、そのままトラックの餌食になった——。
「なにしてんの?」
突然話し掛けられたので、驚いたわたしは席に座った体勢のまま飛び上がり、着地に失敗して椅子に頭をぶつける形で滑り落ちた。
ゴンッ! と鈍い音が鳴り、後頭部がジンジンと痛みだす。
「驚きすぎ、ウケんだけど!」
この痛みの元凶のギャル女は同じクラスの光井美月。いわゆるライトオタクで、たまにアニオタ男子達にDVDを借りたりしているのを目撃する。ギャルゲーもやるらしい。
「ねえ、何書いてんの? 見ーせてっ!」
わたしが机の下に転がっているのをいいことに、サッとノートを略奪し、しげしげと眺めだした。
ふーん、なるほどねー、などと分かっているような顔をしている。
わたしは慌ててノートをひったくり、両手で抱えて机の下に隠れた。
「それ、変なとこあるよ!」
いけしゃあしゃあと笑いながらしゃがみ込んでくる。ちょうど、机の下のわたしと顔を突き合わせるような形になった。
「まず、『学校に登校する』って、『頭痛が痛い』みたいになってるよ。」
あ、うっかりしていた……じゃない、この揚げ足取りめ!
「それと、トラックに轢かれるのに『黄色い悲鳴』とは言わないよ、トラックは嵐じゃないし!」
お前もわたしの担当編集者じゃねえよ!
「あと、最後の場面! これだと、悠人が香恋を突き飛ばしたように見えない?」
うるせえ!
「あ、あはははははは。そうだよね。教えてくれてありがとう。」
わたしは机の下から這い出し、教室から飛び出した。
行き先は……いつもの階段。
まったく惨めだ。
あんな素人にまで指摘されるなんて。
わたしは開く気にもなれないノートを見つめながら、階段の下の方に座り込んでいた。
ここは教室から離れたところにある階段で、薄暗くて人通りがほとんどない。なので、教室に居づらい時、わたしは必ずここへ来た。
それにしても……光井美月の指摘は、的確だった……気がする。
確かに、言葉の誤用があったし、後半の流れは書いた本人でないと情景が思い浮かばないかも……。
わたしはあの得意げな女の顔を思い出す。
あいつ、笑いながら串刺しにしてきたぞ、恐ろしい……。
だが、こうも思う。
次、もし読まれることがあったら……その時は、絶対に文句を言わせてやらない!
俺はどこにでもいるごく普通の男子高生、大川悠人。
9月のまだ暑い朝。夏休みが終わり、僅かの気怠さを感じながら学校へ向かう。
「ユウくん、おはよー!」
元気に挨拶しながら後ろから駆けてくるのは幼馴染の瀧本香恋。
「おい、そのユウくんっていうの、もう辞めろよな。」
もうお互い高校生だ。俺は構わないが、変な噂を立てられても困るだろう。
「もー、いいじゃん別に! 先行くよ!」
そう言うと香恋は俺を追い抜いて交差点にダッシュしていった。
「おい、あんまり走るな、危ないぞ。」
俺が注意した次の瞬間、
「きゃー!!」
香恋の悲鳴が響き、猛スピードで突っ込むトラックが目前に飛び込んできた!
気付けば俺は無我夢中で走っていた。
そして、恐怖で固まった香恋をトラックの前から突き飛ばした。
香恋は驚きと恐怖でぐしゃぐしゃになった顔をこちらに向けた。
俺は香恋に微笑みかけ、そのままトラックの餌食になった——。