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 バンブーアシストⓇ

 主材に竹とCLT(Cross Laminated Timber)を用いた拡張外装(又はパワードスーツ)。主に大腿部と腰を支持し、歩行を補助する。

 竹とCLTを主材に用いる利点は、広く普及しているアルミ合金や高機能製品に多く用いられるカCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastic)、カーボンファイバークロス等の炭素繊維系材料の他、グリーンテクノロジーとして支持を集めるSAM(Self-Assembled Monolayer)補強シートやシュガーフレームなどの主材に比べ安価であることが挙げられる(※アルミ合金を主材にした製品に対しては価格差が殆どない場合も多い)。製品重量においては不利な面が多いものの、耐久性が比較的高いことから僅かながらも需要を持っている。

 機能性を制限し、構造を簡略化することで、意匠性にこだわった一部製品を除き安価なモデルが主流。ニーズに応じたアップグレードが可能で、胸部や前腕、足の裏などを補助する製品もある。

 一部の地域では基本的な拡張外装の構造や機能、現在の主流となっている拡張外装の骨格、稼働の仕組みなどを解説するための教材キット版が提供されている。


 平塚は過去にこの教材キットの開発、販売に関わることで一財築いたらしい。しかし、清貧と主張して譲らない現状を顧みると、それらがどこへ消えたのかという謎が残る。一体、何にその財産を費やしたのだろう。

「俺はショウタ」私の手を引いてきた少年が言った。

 ぼくは、ぼくはと、他の小さな子供たちが言う。声は身体が小さい程に甲高く、明るかった。明るく開けた扉の前で、少年たちに見詰められ、

「私は、タテです」私は応えた。

 私たちはみんなで歩いた。少年と私を含めると九人になった。少年は少年たちの中では二番目に年長らしかった。少年たちが代わる代わる自分たちの事を話した。

 ――俺たちはみんな、生まれた時からこの町に住んでる。殆どのやつは爺さんよりも前の代からここにいる。ショウタはおとうの時からな。そう、俺はあの宇宙船が墜落して来た後にこっちへ移って来た。俺が生まれる前のことだったけれど。この町の端に、宇宙船がよく見える海岸がある。それぐらいしかない町だ。車に乗れば店がいっぱいあるところまで行けるぞ。電車でも行けるよ。電車乗ったことない。駅は遠いもん。ケイタはいつも電車で学校に行くって言ってた。そうだな、ケイタは電車で通学してるんだよな。うん、あとウーの兄ちゃんも。うん、そうだ。よく覚えてるな。うん。

 最近、変な大人が多いんだ。駅前は不案内な人がいることも、たまにあるから、あいつらはきっとそんな人間を狙っているんだ。つい、先週まではそう思っていた。だけど、それは俺たちの思い違いだったみたいなんだ。あの大人たちは探していたんだ。こんな田と畑しかない町に、大人がぽつぽつと何をしに来るって言うんだ。海水浴にしたって、駅から歩いていくような場所じゃないよ。あの大人たちは姉ちゃんみたいな、ここに秘密があることを知っている人間が現れるのを待っていたんだ。

 私たちは両側に針葉樹林のある登りの一本道に入っていた。彼らはどこへ向かっているのだろうかと、不安に感じ始めていた。

「姉ちゃんが信用できる人間か分かれば、」

 それは唐突に起こったことのようだった。道は前後に一直線で良く見通せた。ずっと後方、坂の始まりの場所に小さな黒い影が動いたと思った。それから前を向き直り、なんとなく気掛かりになり、もう一度振り返った時だった。

「走って!」私は叫んでいた。

 傍にいた一番小さい子を抱えて跳び退いた。

 黒いブーツカットのパンツと黒いパーカーに表地も裏地も黒いマント様の上着を重ねた大柄な男が地面を揺すっているのかと思うような衝撃と共に飛び込んできた。駅前で私を捕らえた男と同じ動き、同じ匂いがした。

「ガキがよおーお、躾が必要だなあ」

 駅前の時より身体が大きくなっている気がした。捕まえられれば、今度こそ逃げられないかもしれない。

「はやく、走って」私は抱えていた女の子を降ろした。少年は小刻みに首を振って応えた。

 シュシュを使えば、相手の力が多少強くとも撃退することができるだろう。しかし、シュシュでは相手を殺傷してしまう可能性がある。それでは過剰防衛になってしまわないか。平塚に迷惑を掛けることになるだろう。それは、何としても避けたい事だった。

 男が唸り声を溢しながら殴り掛かってくる。動きは素早く、後退っていてもきりがない。顔の傍をかすめた腕が風を切る音を聞いた。

「いいぞー、逃げてばかりだなあ」

 勢いをつけて、思い切り腕を弾いてみた。一瞬、男は体勢を崩した。「おお、すげえ!」と、少し離れたところから少年たちの声が聞こえた。が、私は男の咄嗟の動きに捕まえられそうになった。次は成功しないだろう。

「いってえなあ」

 男は私を捕まえようとしている。腕を痛めつければ、諦めてくれるだろうか。私はわきざしを鞘がついたままベルトから外した。男は助走もなく、俊敏な動きで向かってくる。道の端で退路なく、私も男に向かって走る。伸びてきた腕を潜り、脛を鞘で打った。振り返った男の腕を、高跳びの棒のように鞘をつかって飛び越えた。脛を打った時の違和感が手に残っていた。

 その時、マントのように全身を包んだ服の僅かな隙間、首筋にビニル質な被膜で覆われた薄いケーブルが、夏の日差しを反射した。男は拡張外装を身に着けている可能性が高い。一瞬みえた部品が装飾性もない事務的な印象さえ与えるものだったことから、かつてハインラインの小説に描かれていたような重装で上質なものではなく、簡易的な民生用の、それも小型化の努力など一切施されていない部品を用いた特に安価なものなのではないか、また、胸部や肩に簡易的な装甲が施され、その為に大きく見えており、衣服の下の肉体は平均並みかやや細いのだろう、と予想された。私のそれは確信に近かった。

 私はわきざしの柄と鞘の先端を持って身体の前に出す。

「ああん、抜いてくれるのかあ」男が首を傾げ、私の顔を覗き込むように言う。

 背後から、

「おーい」と、少年たちの叫ぶ声。

 横目にショウタと年長のケイイチが自転車に乗って坂を駆け下ってくる姿が確認できた。それぞれバットとゴルフクラブを持っているらしい。

 男へわきざしを振りかざしながら走り出し、脇を潜り抜けた。直後に二人が自転車から飛び降り、男へ向かってバットとゴルフクラブを振るう。男は左右の前腕で受ける。ゴルフクラブが折れ曲がる。バットがショウタの手から弾かれる。男は仰け反る。私はもう一度懐へ飛び込み、鞘の先端で左肩を強く突いた。

 少年たちは空中で体勢を崩し地面を転がり、男が一歩後退り、そのまま後ろへ転倒し掛けた。しかし、拡張外装が男の姿勢を補助し、後ろに大きく仰け反った状態でも両足が地面についていた。さらに追撃が必要かと、左足を半歩踏み込んだが、

「うぅ……」男が猫のような唸り声を上げ、上体を起こした。

 その勢いのまま、踏み込んでいれば私は捕らえられていただろう。

 ところが、男はその場を去った。一歩、一歩と次第に足を速めながら、しばしば踏み外すようによろけながら坂を下って行った。

 私がショウタとケイイチの傍へ寄ると、直ぐに年少者たちが坂を下って来た。


 その日、私は三番目に年長のウイという少女の家に招かれた。手持ちは32円、保護者ということにしておいた平塚との連絡手段もないと、言うと直ぐに話が付けられた。ショウタたちはその日の内に私を仲間にして連れて行きたい所があると言い張ったが、年少者たちは帰らなければならない時間になっていた。日が暮れる前に彼らを家へ送り届けることが、年長者の三人に任せられた役割でもあった。ショウタは彼らを送り届けた後、年長者だけで行こうと提案した。しかし、ケイイチとウイが反対し、多数決により方針が決められた。私は平塚と連絡をとること、或いは彼の目的を知ることを優先したかった。ウイの家でネットワークに接続できれば、平塚の所在がつかめる可能性があると思っていたから、ショウタの提案には、反対もしなかったが、同意もしなかった。その考えを婉曲に示した時のショウタの表情は、眉間に皺を寄せた印象的なものだった。ショウタとしては、私を引き入れることができなければ意味がないという事から、渋々引き下がったという態度を隠さなかった。年少者たちの円らな瞳が、瑞々しくショウタを見詰める姿を私は不思議に思った。幼い顔は同情とも反抗とも読めなかった。同情とは違っていても、同化か共感に似たものは感じる。彼らはショウタの心情を瞬間的に追体験しているのかもしれない。それが平塚のような人間も昔は持っていたが、今は忘れてしまった彼らの能力だとすると、私には何も分からなかった。彼らには、ひとつ危険が去ったという安心感からか、ケイイチやウイまで巻き込んだ連帯感があった。私の身長は少年たちと殆ど同じだったけれども、私は彼らの中でじっと黙ったまま真っ直ぐ立っているだけである。橙色の輪郭の中心に青黒い影が長く海に向かって見えた。私は彼らと出会った時の平塚の反応が見たいと思った。

 翌日の朝早く迎えに来るからとショウタたちは言った。私は半ば勢いに押されるまま彼らの言う全てのことに同意を示した。

 それから私たちは十字路で少年たちと別れた。ウイとその妹と、ウイを真ん中に三人並んで歩いた。私の影が一番長かった。

 墜落した宇宙船が大きな柱のように灰色の影を伸ばしている。今日、その影が水平線に上り、やがて見えなくなるのは正午より少し前。

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