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決意



「トーマス、お前は俺達を裏切った。本当ならば処刑も免れん大罪だが、」


黄金の武具に身を包んだ勇者が、ほくそ笑んでトーマスを睨む。


目は湖のように澄んでいて、鼻はすらっと佇んで、眉は細く流れている。


百人に聞いたら百人が美しいと答える整った顔立ちだが、トーマスは始めから好きになれなかった。


「今までのお前の功績に免じて、王国軍そして王都からの追放にとどめてやろう」


「誤解なんだ。俺はスパイではない」


トーマスは声を張り上げた。


「あれだけ証拠が揃っておいてまだそんなことが言えるのか」


勇者は演技じみた声で呆れたようにトーマスを見つめた。


共に戦ってきた戦友達、戦友と思っていた者達もトーマスに軽蔑の目を向けた。


勇者の手下が老いたロバを連れてくる。


「餞別だ。これで直ちにここから去れ」


勇者が近づいてきた。


ニタニタと小動物を虐待しているかのような笑顔をトーマスにだけ見せ、小声でこう言った。


「貴様の妻は貴様とは釣り合わない」


トーマスはハッと妻、アリーナが頭に浮かび、そして勇者を鬼の形相で睨みつけた。


「おっと、余計なこと考えるな。お前の家はもう私の兵隊が見張ってるからな。私だってアリーナをいじめるように抱きたくはない」


なんで神はこんな男に最強の力を与えたのだろう、とトーマスは全てを恨んだ。


勇者が目をトーマスの左手に向けた。


「ああ、それは没収だ」


ぶっきらぼうにそう言って無理矢理トーマスの左手の指から銀に光るシンプルな結婚指輪を奪い取った。


もちろんトーマスは必死に抵抗したが勇者の腕力にかなうはずがない。


勇者は指輪を地面に叩きつけ、踏みつけた。


指輪を見せたときの頬が赤く染まったアリーナの照れた顔が思い浮かんだ。


トーマスは馬を前に進めたが、壮絶な悔しさと怒りがトーマスを襲い、歯を砕かんばかりに食いしばり、目は赤く充血していた。


「達者でな!」


勇者はケタケタと笑って手を振った。







ハッと目が覚める。


ベッドの上だった。


窓からは月明かりが部屋を照らしている。


「夢か」



トーマスはフーっと息を吐く。



夢ではあるが20年以上前の、だがとても鮮明なトーマスが人生で最も嫌悪する記憶だった。


トーマスは自分の腹から異物が膨らむかのような錯覚を感じ、それが復讐の念だということに気づく。


そしてその瞬間、トーマスは先日の出来事と今見た夢をすべて神の啓示だと思うことに決めた。


トーマスの頭に怪物のような潜在能力の生徒たちのことが思い浮かんだ。


「彼らには俺の手下になってもらう。」


トーマスの目がギロりと光る。


「そして俺は、あの男を葬り去る。」


トーマスの思考は彼らの育成の計画に移る。


まず、教材だ。彼らそれぞれに合った教材を用意しなければならない。


トーマスもある程度教えられる部分はあるが彼らならすぐにその領域を突破するだろう。


そしていずれはどんな専門書も役に立たないレベルまで到達する。


「師匠か」


まだ時間はあるが、彼らには超一流の師匠が必要になる。


彼らが一流の力を身につけた、その後のことも考えなければ。


彼らが強くなってもトーマスの目的は達成されない。


トーマスは横の小棚から紙を取り出した。


そして箇条書きに綺麗な字でぽつりぽつりと、やがて黙々と、朝日が昇るまでこれからの計画を書き続けた。





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