95話
路地裏に着くと娘蝶館を目指す。
店の前に着き中に入ると暗く、「誰かいねぇのか?」 と声を掛けると「はいはい、当店、冒険者様にも人気で――」 違うと言いたかったが獣人の店員は「少し、失礼します」 とアタシのクンクンと匂いを嗅ぎ「女性の方でしたか当店は歓迎しますが働くことも」 なんて言われ、本題を切り出す事にする。
「この店で一番長く働いてて、経験豊富な子を指名したいんだけど?」
「それでしたらサビナなどいかがでしょう?」
「じゃあ、それで」 奥の個室に店員に案内され、すぐにサビナと呼ばれる女性が部屋に来た。
獣の耳を生やした獣人と人間のハーフで長い髪をかき上げ、「こんな朝からあんたも暇人?」
気怠そうにアタシに近づき、抱きしめるがそこには愛情なんてものは無くただ仕事でしている感じが伝わると同時に首筋にチクリと刺激される。
「ここではそれがサービスなのか? アタシはそういう趣味じゃないんだけど」
「オプションだよ。 お代はあなたの命だけどね?」
アタシはゆっくりと相手の左側頭に銃を突きつけ「じゃあ、お代は鉛弾でいいか?」 と尋ねる。
「チィッ いつの間に!?」
「その入れ墨、酒場で腕を捻った奴にも同じのが見えてたよ。 てめぇ、盗賊団の仲間だろ? なら、仲間がどうやって死んでたか分かるはずだよな」
「わかったわ、その魔法を――」
「勘違いするな、ナイフを離すのが先だ。 それから魔石もアタシに渡すんだ。 そうすれば命を取るような真似はしない」
ナイフを取り上げ、銃を向けて椅子に座らせ、この部屋で何かに使うであろう縄でサナビの身体を縛る。
「これで良し、 魔石は何処にある?」
「ナイフに仕込んでるからもう無い」 確認すると確かに緑色の魔石が埋め込まれており、外してバッグにしまう。
ベッドに座り、タバコに火をつけて早速、聞き取りを行う。
「ここでメルって女性が働いていただろ? ここの客とトラブルになってたって聞いたんだけどその客ってのは誰?」
「し、しらない」
「そんなはずはないだろう? ここで働いて長いんだったら、知ってるよな」
それから何を質問しても口を閉ざし、話そうとしない様子にアタシはダガーを見せると驚いた表情で「それをどこで手に入れた」 とアタシを睨みつける。
「何処でって知ってんだろ。 お仲間が回収に来てアタシに返り討ちにされてるんだしね」
「よくも仲間をあんな目に合わせてくれたな。 傷が酷くて――」
「そんな事はどうでもいいから答えろよ」 手の平に柔らかい感触が伝わり、それを2度3度続けて行うが仲間思いなのか一向に口を割ろうとはしない。
「ここって、声が漏れないように魔法が掛けられてるんだってな?」 アタシは指を掴み一気に反対方向に折り曲げると室内に声が響き渡る。
「こ、こんなことしていいと―― な、なにしてるの!」 彼女の頭の上に酒瓶を置き、アタシは2メイル(2メートル)ほど離れたところから弾丸を撃つとビンが割れ、彼女は頭から酒を被る。
彼女に近づき銃口を右側頭部に触れ、耳元でそっと「アタシはアンタたちと違って殺しは趣味じゃない。 話してくれれば無事に解放する。 でも話してくれないなら……」 と伝える。
やっと素直に話してくれた内容は、日頃から客としてよく来ていた男がメルさんの事が好きで悩み相談に店で仲良くなったダガーの持ち主に相談し、上手くいけば団員にしてやると約束する。
景気付けに自分のダガーを貸すが落とした事を知り、時間稼ぎに放火。
その後に回収に来たところでアタシに出会った事を聞いた。
「アンタのせいでスルの肩がもう動かなくなったんだから!」 聞く事は聞けたのでアタシはドアに手を掛け部屋を出ると扉の向こうから「おい、小娘。喋ったんだから縄を――」 と聞こえたが無視して店の出口で店員に金貨を1枚渡し、アタシが来た事は他言無用と一応伝え、その場を後にした。




